手のあったかさ

「たうちゃん、緊張してるよね?」


 僕は楽しみな気持ちのつもりでいたけど、緊張が表面には出ていたみたいだ。


「おててあっためましょうか?」


「おてて……?」


「おててぎゅですよ」


 萌門さんが手を取って握ってきた。思ったよりも中二の手は小さくてプリンのようなぷるぷるさも備わっていた。


「あ、ずるいです! 私もします!」


「じゃ、どうぞ」


「えへへ。なんか二人の温もり感じます!」


 浜辺さんの手は萌門さんよりも大人っぽかった。


 ていうかなに。握手会みたいになってるけど。


「次わたし」


 木谷戸さんもするのな。順番待ちなんだな。なんか後輩の優しさで顔が柔らかくなって泣きそう。


「わたしもやります」


「わたしも生涯寄り添うことを誓う手つなぎをやりたいと……」


「どうしたみんな……」


「なんかいいじゃん。きっとそういう気分なんだよ。ほらやっぱりなんだかんだ言って、田植ちゃん、料理部を引っ張ってるし」


「引っ張ってる……」


「そうですよ! 田植先輩と色々作ると、みんな楽しいです! 食べると美味しいです! みんな最高です!」


「うれしい……」


 手を次々と握られていると、ずっとあっためられ続けている感覚になって、素直に気持ちが言葉に出た。


 よかった。本当に。僕はみんなでお子様ランチを作れて満足だ。それに、今までお子様ランチを食べてくれた人たち、お子様ランチだけでなくいろんな料理を食べてくれた思い出。


 感謝したい気持ちになった。




 周りは静かになってきていて、壇上の中央にスタッフがマイクを置いた。


 そして、中央に、審査委員長らしき人が登場する。


 ぴりりと味が口に広がるように、瞬く間に拍手が広がった。


 それが収まると審査委員長は軽く礼をして、僕たちが慌てて座ったまま礼をすると、すぐに話し始めた。


「えー今回は力作ぞろいでたいへん美味しい料理が多くて感心したわけですが……その中でも特に表彰に値するものを発表したいと思います」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る