だっこ


「お兄ちゃん……」


「どうした……?」


「みかん、なんか止まってるけど大丈夫かな……?」


「なんか……変だよな……」


 みかんは僕と花凛について来て、自分の家に寄らずに直接僕の家にやって来た。


 そして、椅子に座ると、前はほとんど維持しなかった書道の教科書座りを維持。だるまさんがころんだのエキスパートのごとく微動だにしない。


 そして呆然としている。全てのメニューにピーマンが入ったお子様ランチを目の前にした子どものような顔だ。


「みかん……それで……話の続きなんだけど……」


 僕が言うと、みかんの首が角度にして五度くらい動いた、ように見えた。


「未来からの告白は……もちろん断った……」


「……」


「……」


「……」


 何も反応がない。花凛も何も言わない。花凛がコップを置いた音だけがした。


「未来は可愛いですわ」


「……おお」


「未来は可愛くて頑張り屋ですわ!」


「でも僕が好きなのはみかんだし……」


「そんな好きなのはお子様ランチですみたいな感じであっさり言われてもですわ。私の……」


「好きところなら……お子様ランチのライスのご飯粒の数ほどある……」


 花凛が扉の音もほとんど立てずに、僕とみかんがいるリビングを出た。


 みかんと二人きりの空間になった。と思いきや、花凛がカメラを持って帰って来た。


 また記念のかしゃりんかよ……。花凛もしかして、僕とみかんの間の出来事を面白がってるのかな。


「たと、例えば、どどどーいう、ところですわ?」


「踊ってるみかんは可愛い……お子様ランチに自信を持って欲しいといって言ってくれたみかんは優しい……料理もうまい……というか、みかんそのもの全部というか……そう、まるで全て合わせれば世界にたった一つお子様ランチのようで……」


 意味不明になってきた。


 お子様ランチの例えしかできないと、伝えるのが難しい場合がある。というかそういう場合が多すぎる。語彙力と表現力がほしい。


 ただ、好きなところを切り分けるというよりは、「とにかくみかんが好き」というのにこっそりおっぱいと太ももを添えて、全部まとめた方がいい気がする。


 やっぱり、お子様ランチのように。


「好きなところを挙げていくのは、難しいな……」


 だから僕は素直に最後にそう言った。


「でしたら……だ、だんす!」


「ダンス……?」


「違いますわ。だ、段階を……飛ばしてですわ!」


「それ前の……一気に密着……」


「だ、だっこ」


「だっこ?」


「お姫様だっこして欲しいですわ!」


 お姫様だっこ……かよ。で、なんでみかんはそんなにダンスが一番盛り上がる時並みに興奮した感じなんだろう。


「私……凛太に甘えたいですわ。だから……」


 甘えたい……。僕はこれはみかん(めんどくさいバージョン)だなと感じつつ。


 とっくに姿勢を崩して、顔を赤くして、僕を半分にらみつけるみたいに見つめてくるみかんを見て、僕はめちゃくちゃ可愛いと思った。


 そして一瞬でもお姫様だっこしたいと思ったが最後。お子様ランチのライスの山のてっぺんから転げ落ちたように一気に何も考えられなくなり、


「じゃあ……やるか……」


 と僕は返事をしていた。




「ぱぱぱーん! お姫様みかんの登場ー」


 カメラを構えた花凛が向こうにいる。なんの職業のつもりだろう?


 と一方僕は全身がぴくぴくだった。


「重く……ないですわよね?」


「はい、重くございません」


 いや、正直筋力がない僕はお姫様だっこは花凛でも多分辛い。だからもちろん辛いのだが。


 料理と買い物袋持ちで、腕はそんなに力がない方ではないと信じたかったけどやっぱりダメだった。


 さらに、みかんが柔らかすぎて、全身の力が抜けてとろとろ半熟たまごの気分だった。


 僕はみかんの太ももの柔らかさを手でかなり詳細に感じてしまっている。うおおお。


 そして顔が近い。みかんは恥ずかしそうに、そして何故か気持ちよさそうに目を閉じている。


 みかんの顔がいつも通りの可愛さで、なぜかお姫様に見える。みかんのふーふーはうふーという呼吸が、波長の長い波のように身体の隅々まで伝わってくる。


 早くやめよう。余韻が凄すぎて明日の朝ごはんの目玉焼きを焦がしてしまいそうだ。


「早く……写真撮るならとってほしい……」


 花凛に写真を撮られるのは恥ずかしいし嫌だが、記念写真がないと花凛とみかんが終わらせてくれなさそうなので、僕は花凛にそうお願いした。

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