お子様ランチを作ると、彼女(幼馴染)と妹と後輩と小学生がおいしいって言ってくれるので僕は満足
つちのこうや
妹の成長についての間違い探し
「……来た、ついに、うまくいった……!」
僕、田植凛太はマンションの一室のこぢんまりとしたキッチンで、ぼそりとつぶやいた。
そして、流していた人気女児アニメ、プリンキュートのオープニングのボリュームを上げ、喜びムードを自分の中で盛り上げる。お子様ランチを作る時は精神年齢を下げるのがコツだ。
新作のお子様ランチの構想を練り始めて半月。この大切な時に間に合わせられて本当に良かった。
ところで僕は大きな声を出すのが苦手だ。喋るときはいつもぼそぼそとなる。心の中で喋る時はちゃんとペラペラ話せるので読者の皆様の心配には及ばない。
それでも僕はできるだけ大きな声を出して、隣の部屋で女子トークをしている二人を呼んだ。
「出来たぞ!」
すると、
「瞬間移動で行きますわ!」
「しゅんっ、しゅんっ」
と隣の部屋から猛スピードで二人が普通に出て来た。これを瞬間移動というんだな。
幼馴染の安芸あきみかんと妹の田植花凛たうかりんだ。
二ヶ月ほど前、僕はみかんに告白された。そして僕とみかんは幼馴染から恋人関係になった。だからと言って大きな変化はないが、僕は心の中ではみかんと話す時若干緊張するようになった。
みかんは学校ではダンス部で忙しく、クラスも違うのでほとんど話さない。だから僕とみかんの関係に進展があったことは多分誰も知らないと思う。
花凛の方は小学五年生だ。最近ファッションとダンスについてみかんによく質問するようになったようで、みかんといつもおしゃべりで盛り上がっている。さっきもきっとそんな話をしていたのだろう。
「「いただきます!」」
と、二人の紹介も大してまだしないうちに気づけば二人とも食卓についていた。
ここまで読んであれ? って思ったことがあると思う。
まず、どうしてお子様ランチを作っているか、という問題。
もし、これを不思議に思わない人がいたら、どうかお願いだから僕の通っている渚ヶ丘学園に転校してきてほしい。親友になりたい。
次に、なんで彼女(幼馴染)が当たり前のように僕の家にいるのかということ。
もし、これが普通だと思う人がいたら、きっとラノベか何かの読みすぎなんだと思う。
流石にどっちも当たり前だという人はいないと思うので簡単に説明すると、まあ……一言で言えば、昔の名残だ。
僕が中一で、花凛が小一の頃、両親が離婚した。
仕事に朝から夜中まで行かなくてはいけなくなった母親に代わり、僕が家事をすることになった。その時から、幼馴染で僕や花凛のことを当時からよく知っていたみかんが僕の家に来て、家事を手伝ってくれているのだ。
今では僕はかなり家事に慣れ、一人でも大丈夫なくらいになったけど、みかんはこうして今も僕の家に来ているというわけだ。
僕が家事をやり始めて間もない頃、一つ大きな問題があった。僕の作った料理を花凛があまり食べてくれないのだ。何度かみかんが作ってくれたこともあったけど、やっぱりあまり食べなかった。
小一には環境の変化が大きすぎたのかもしれない。花凛は、身体的にも精神的にも、弱ってしまっていた。
みんな予想がついたと思うが、そんな花凛に喜んでもらえるような料理を作ろうと思ったのが、僕がお子様ランチを作った最初のきっかけだ。
もう四年前になるが、花凛がお子様ランチを食べて、「おいしい」と言ってくれた時のことを、いつでも映像として頭に浮かばせられるくらい僕ははっきりと覚えている。
そんな花凛ももう小五になったので、お子様ランチを外で食べることはあんまりないだろう。
だけど、こうして月に一回、花凛と、そしていつも居てくれるみかんのために、今でも僕はお子様ランチを作ることにしている。
とまあ二つのおかしい部分について説明が終わったところで、僕は意識を花凛とみかんの会話に戻す。
「それでですね。学校で自分の小学校の思い出写真集を作るっていう課題があるんですけどー」
「それでしたら私もやりましたわ。主にダンスの写真と、凛太と写っている写真が多かったですわね」
「えー、それは流石にちょっと羨ましいです。こうなったら私はお兄ちゃんと一緒の写真とお子様ランチの写真で埋め尽くさないと。あ、あと絶対に入れるべきはこれだねー。お兄ちゃん見てー、お兄ちゃん!」
「あ、はい今見ているところ……」
妹が僕によこしたのは二枚の写真。花凛が同じポーズで写っている。
「これは……」
「も、もしかしてお兄ちゃん瞬時にわかったの? しゅんっしゅんっ」
やはり花凛は僕の妹だと思う。こうしてお子様ランチを引き立てるものを用意してくれるのだから。
「これは……お子様ランチに定番の、お子様用メニューや……お子様ランチの下に敷くシートについている間違い探しだな……ありがとう花凛」
「え? お兄ちゃん? なにその珍回答」
花凛は、そう言ってスプーンをコップにぎこぎことこすりつけた。なんで不機嫌になったんだろうか。その理由は現代文でこの間赤点プラス二点をとった僕にもわかる。僕の答えが違ったのだ。
僕はもう一度改めて二枚の写真を見た。同じポーズで写っている花凛。まず、服が違う。左は小学生がよく着ていそうなTシャツ、右はふりふりワンピース。
何が言いたいか。つまり間違い探しにしては、あまりに簡単すぎる。
で、間違い探しではないとして、一体なんなんだろう。
「お兄ちゃん! 私とみかんの会話の流れ聴いてた? 小学校の思い出写真集の話してたでしょ。それがヒント」
「それヒントなのか……」
全くわからない。自分の持っている服のコレクションでも小学校の思い出写真集に載せるのかな? ただ、そうだとしたら、わざわざ僕にクイズなんて出すだろうか。
「お兄ちゃん、もしかして言うのがためらわれるってこと? そうなら仕方ないからもう言うとね! つまり、左が花凛(小四)右が花凛(小五)だよ」
「え、まじか……」
普通に気づかなかった。
「妹が一年でこんなに魅力的になったって言うのを口に出すのが恥ずかしかったなんてやっぱりお兄ちゃんは照れ屋さんー!」
「照れ屋さんですわね〜」
いや、本当に気づかなかったんだけど。
「ていうか……この二つの写真、格好以外あんまり変わってなくないか……?」
「にょにょしゅっしゅっ⁈」
僕の特製ハンバーグを頬張っていた花凛は僕の言葉に過敏に反応した。今日なんかしゅっしゅっ多いな。
花凛はハンバーグをごっくんし、
「お兄ちゃん! わからないの? この違いが!」
「確かによく見ると背は伸びてるな」
「む! それ以外はないしゅっしゅっ?」
とりあえず語尾をしゅっしゅっに持っていく花凛。そんな変な口癖今日だけだよなきっと。うん大丈夫今日だけなはずだ。
「それ以外……」
僕は考え込む。わからん。
「うわーん。みかんー、お兄ちゃんが私の変化に気づいてくれませんでしたー。私的には身体のあちこちが女の子っぽくなったと思っているのにだめだったです」
「まだ小学生ですから仕方ないですわね。それに、凛太は頭悪いですわ」
「いや頭悪いって言っても……この間の成績は副教科全般で頑張って稼いだのもあるけど……平均は超えたぞ」
「よかったね」
「よかったですわね」
あ、二人からそっけない返事がダブルミートボールのごとく飛んできた。
「私はどうしたらみかんのように立派な胸や太ももを手に入れられるのでしょう? 教えてくださいー」
花凛は、みかんの上から下までを、僕がよそのお子様ランチをチェックする時と同じくらいじっくりと眺めた。
みかんはすごく大きいというわけではないが、そこそこ、僕にとってちょうど好みくらいに胸が大きい。それこそ今の花凛と同じ小五の頃は、ほとんど何もなかったと思うのだが。
そして、ダンスをやっているからなのか、女の子にしかないむちむちさふわふわさと、適度な筋肉を兼ね備えた太ももを持つ。みかんのせいか、僕がそう生まれたのかは知らないが、僕は太ももが大好きになってしまった。
まあ、それはそれとして置いておいて。
「花凛はこれから成長するのですわ。女の子の成長について簡単に教えて差し上げますわ。あ、それとも副教科が得意だからきっと保健体育も得意な凛太に解説してもらうのもいいですわね」
「え……何それ」
「え! お兄ちゃんそんなことに詳しいの? なんかえっち!」
「いや、ちょっと待ってくれ……この前の保健体育のテストは普通で……家庭科の調理実習と、美術で稼いだだけ」
それをわかっててみかんは僕をいじってるのだ。精神年齢低い。
「副教科は全部えっちですわ」
「どこがだ……?」
「美術はほら、えっちですし、家庭科はなんとなくですわ」
「……」
疲れたのでこの会話おしまいにしよう。代わりに僕は二人に一番尋ねたいことを訊いた。
「今日のお子様ランチはどうだ……?」
「最高ですわ!」
「すんごくおいしいお兄ちゃん! しゅっしゅっ」
そうだった。語彙力が低すぎてあと適当な性格すぎて二人に感想求めても意味ないんだった。
僕は自分なりに軽く分析する。やっぱりふりかけが味気ない。市販のやつではなく、やはり僕のお子様ランチに合うのを自作するか……。
明日は、料理部で、ふりかけの研究しよう。
あ、料理部に入っているって言っていなかったような気がする。
僕は花凛がおいしいと言ってくれたのをきっかけに、料理、特にお子様ランチに魅力を感じるようになったのだ。そして高校に入学して料理部に入りそこで今は部長をしている。
それだったら、料理部の人たちにお子様ランチの試食をしてもらえばいいと思うかもしれない。
ただ……料理部は料理部で、いい意味でも悪い意味でも面白いというか騒がしいというか、興味深い場所なのだ。
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