神様からのプレゼント

沖見 幕人

第1話 ~一回目~ 目覚め

 六時五十分。

 ベッドから伸びた右腕が、七時にセットした目覚まし時計のアラームを鳴る前に解除する。

「よし。今日も勝った。いい調子だな」

 カーテンの隙間から射しこむ朝日を背に受けて、少年が微笑みながら独りごちる。

 やや癖のある短い黒髪はところどころ寝ぐせで跳ねている。猫の耳のように跳ねた髪を撫でつけながら、少年が大きくあくびをする。

 ベッド脇の窓へ振り返りカーテンを開ける少年。眩しい朝日に一瞬目が眩む。

 瞬きを繰り返して目を慣らしてから、窓の外、朝の住宅街とその先の街並みを見渡す。

「・・・・・・おはよう。いつになったら、俺の物語は始まるのかな・・・・・・」


 身支度を整えて、少年は一階の食卓に降りた。

 食卓には目玉焼きとウインナー、白ごはんと牛乳の朝食が一人分揃えられていた。

「おはよう、めぐむ。あとはあんただけだから、食べたら片付けちゃってね」

「はいはーい」

 台所で洗い物をする母に返事をし、テレビを点けてぼんやりと食事をする。

「あ、そうそう。今日ね、仕事の後はアタシ近所の集まりに出なきゃだから、夜はお鍋のカレー食べててね」

「集まりって、おばさん達のカラオケでしょ? 好きだねー」

「ご近所の親睦を深めるのよ。大事なことなんだから。あ、カレー、お父さんの分も残しとくのよ?」

「はーいはい」

 電子音が鳴り、台所を出て洗濯機の方へ行く母。

 テレビのニュースでは、明後日から始まるゴールデンウィークに向けて行楽地の情報が流されている。


 まだ新しいスニーカーを履き、薄い通学カバンを肩にかける少年。

 少し大きめの学ラン、その詰襟を気にしながら、玄関から声を掛ける。

「いってきまーす」

「はいはーい。いってらっしゃーい」

 洗面所から返される声を聞き、ドアを開ける。

神野じんの』と書かれた表札が貼られた門を出て、通学路を行く。


 神野じんのめぐむ

 男。十二歳。中学一年生。

 人並みに楽しく人並みに悩める彼の人生は、この日、終わりを告げる。

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