僕と彼女の四年に一度の誕生日
四乃森ゆいな
四年に一度、君と一緒に祝う誕生日
──2月29日。
これを訊いて、一体何人がこの日を特別な日だと思うだろうか。少なくとも僕は、この日が特別な日だと思っている。
この日は──僕の誕生日なのだ。
そして、僕の彼女の誕生日でもある。
4年に1度しか正式な誕生日が回ってこないうるう年に産まれた僕と彼女は、いつもは別々の日に祝われている。
僕──
一方の彼女──
世界人口で数えても、現時点でのうるう年の誕生日の人達は全体から見たら少ない。
そんな少ない人数の中で、僕と優衣が出会えたのは、最早『奇跡』と言ってもいい。
だからこそ僕と優衣は、このうるう年の日には必ず2人でお祝いをしようと、付き合う時に約束をしたのだ。
◆
「なぁ、お前って小森さんとどんな関係なんだ?」
「な、なんだよ……急に……」
「いや。最近、お前と小森さんって良く一緒に帰ったり、ご飯食べたりしてるなぁと思って」
「……悪いかよ」
「別にそこまで言ってないだろ」
放課後最後の休み時間──僕は優衣と一緒にお喋りをしようとしたが、優衣はクラスの女子達に奪われてしまって、僕は普段仲良くしている友達に捕まっていた。
……解放してくれ、お互いに。
僕はいいんだ。優衣が他の誰かと一緒に話していたって。元々優衣はクラスのみんなからの人気が高かった。更には誕生日はうるう年。恵まれた環境に育ったとしか言えないのも無理はない。
……その
「──優衣!誕生日おめでとう!」
「──4年に1回の正式な誕生日だもんね!おめでとう!」
「──優衣!4年後もたっぷりお祝いするからね!」
……と、クラスの女子達から僕からもまだ言えていない『お誕生日おめでとう』を連呼され続けている優衣。そんな優衣の表情は、心無しかぎこちない笑みを浮かべていた。
……なんでだ?
あんなに
「相変わらず人気すごいな。お前、んでどういう関係なんだよ!教えてくれたっていいだろ?」
「お、教えることねぇから……!」
「ホントかぁ〜??」
「しつこい!」
僕はいつも推しに弱い。だからこそ、こんな風に良く友達にもいい意味でからかわれる。
けど僕は、友達との会話に夢中になっていて気がつかなかった。
彼女が、僕に視線を送っていたことに──
チャイムが鳴って、僕達のうるう年記念の学校生活は幕を閉じた。
僕もクラスメイトの男子達に『おめでとう』と何度も言われたが、正直僕は優衣からの『おめでとう』の言葉が欲しい。
下校中──僕の隣を歩く優衣の手は小刻みに震えていた。
寒いんだろうか。今日は風もあるし、早くここから近い僕の家に──
「──み、美咲くん……!」
「……優衣?」
僕の制服の裾を、
「ど、どうした。早く帰らないと、外寒いぞ?」
「そ、そうじゃ……ないの。み、美咲くん…………お、おたんじょ──」
「──す、ストップ!!」
「…………えっ?」
今、優衣は僕も彼女に言いたかった『あの言葉』を言おうとしていた。
けど、僕はそれを遮った。
理由など明白。
彼女からの言葉だけでは、この日に意味はないからだ。
「……ご、ごめん。優衣、僕の家行こう」
「う、うん……」
僕は優衣の手を強く握って、下校通路をひたすらに進んでいき、やがて僕の家の玄関へとあがる。
少し寒いが、風がある外よりはだいぶマシだろう。
「……優衣」
「は、はい」
「……さっきはごめん。……今から、言い直して、いいか?」
「……私こそ、ごめんなさい。少し焦ってました。なんだか、2人になれる時間が無くていつ言ったらいいのかと、ずっと……気にしていて……」
「……だからクラスのみんながお祝いしてたのに、浮かない顔してたの?」
「……はい」
そうだったのか……。
それに気づかない僕って、どれだけマヌケなんだ……。自分が自分で情けなく感じる。
「……美咲くん」
ふと視線をを下へと移すと、温かい感触が僕の手に触れていた。
そう、その正体は──優衣の手だった。
ぎゅっとぎこちなさが残るほんわかな温もりが、僕の心を次第に落ち着かせていく。
「……美咲くん」
「……優衣」
僕と優衣は、2人きりの玄関の中で──
「「──お誕生日おめでとう!」」
と、4年に1度の誕生日を祝ったのだった。
僕と彼女の四年に一度の誕生日 四乃森ゆいな @sakurabana0612
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