第36話尾張派の役職と栄転
一八四八年、尾張派の役職は幕閣の要職を占めていた。
尾張徳川家の徳川慶恕は、水戸徳川家の徳川斉昭を強制隠居させた事で、名実ともに御三家筆頭として絶大な力を持っていた。
通常名誉職で一名しかいない大老。
正規は井伊・酒井・土井・堀田の四家だけ、それ以外の家が大老に就任した場合は、大老格となる。
その大老に松平慶比と松平慶孝が就任し、常府ではなく江戸と領地を参勤交代している間もどちらかが江戸に、どちらから領地か戦地に行けるようにしていた。
老中は元々の幕閣に配慮して、松平武成一人しか加えなかった。
ただ徳川家慶将軍も、尾張派を幕府の財政を立て直した功労者としていて、尾張派が上納した金を幕閣に勝手に使わす事はせず、松平武成を勝手掛老中に加えていた。
松平武成が領地や戦地に行くことも考慮して、その時には二人の大老が勝手掛かりとして幕府の財政を握ることになっていた。
まだ十七歳の松平恕鎮は、次世代の老中として徳川家祥との人間関係を構築すべく、西之丸老中となっていた。
西之丸老中には全く権力はないが、次世代の老中職を確約されており、とても名誉があるのは確かだった。
弟達の栄達ばかりではなかった。
徳川慶恕の庶長子・源太郎を一橋徳川家の養嗣子に迎えると、将軍徳川家慶の言われたため、流石の徳川慶恕も慌てた。
「お待ちください、上様。
西之丸様にお世継ぎが生まれております。
上様にも田鶴若様がお生まれになっています。
無理に源太郎に一橋家を継がせることはありません。
そもそも、水戸系の者には将軍家を継がせないのが東照神君のお考えです」
「分かっておる、大納言。
何も源太郎を将軍家の後継者にしようという話ではない。
大納言達がいれば、そのような事はさせまい。
源太郎の一橋家継承は、大納言への褒美である。
大納言の実子で一橋家の当主経験者ならば、養嗣子先に不自由はしまい。
そのまま隠居するにしても、新知立藩するにしても、思い切った家格や領地を与える事が可能である」
「ありがたき幸せでございます」
「徳川幕府役職」
大老格:松江藩越前松平家十八万六千石・松平慶比
大老格:津山藩越前松平分家十五万石・松平慶孝
老中筆頭:福山藩阿部家十万石・阿部正弘
勝手老中:浜田藩越智松平家六万千石・松平武成
老中 :宇都宮藩戸田家八万石・戸田忠温
老中 :長岡藩牧野家七万四千石・牧野忠雅
老中 :西尾藩西尾大給家六万石・松平乗全
西丸老中:母里藩越前松平分家五万石・松平恕鎮
一橋当主:松平源太郎改め徳川慶春
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