第27話
「清国の状態はどうであった」
徳川慶恕は清国に送り込んだ密偵から報告を受けていた。
「無残な状態でございました。
前回の戦争以後、役人の不正と汚職がはびこり、欽差大臣耆英が長江河口以南のアヘン貿易を非公式に黙認したため、清国内はアヘンで骨抜きになりかけております」
富山の薬売りから抜擢した、薬売り兼業の同心や、北前船や菱垣廻船の乗り組員だった者を武士に抜擢して、以前の仕事を続けながら武士を名乗る事を許していた。
「では、清国国民は南蛮と戦う意思をなくしたのか?」
一番大切な情報だった。
清国と同盟して南蛮と戦うことができるのか、清国を打倒するような新王朝に建国させて新生志那国と手を組んで南蛮と戦うのか、それとも清国のまま侠客郷党と手を結んで南蛮と戦うのか、見極めようとしていた。
「いえ、そうでもございません。
広東内外に住む住民の間では、外国人排斥運動が盛んとなっております。
広州にある英国商館が焼き打ちされたり、英国人が襲撃されたりしております」
密偵の話を聞いて少なくとも幕府が単独で南蛮と戦わなくてすむことが分かった。
外様が南蛮に藩領売りはらうような状況になっても、清国内に共に戦ってくれる同盟相手を見つけることができると安堵した
他の密偵の話も聞かなければいけないが、最悪の想定にはならないと安心した。
「今まで通り交易で利益を上げても大丈夫か。
こちらから軍資金を支援する必要はあるのか」
重要な問題だった。
将軍や幕閣から絶大な支持を得られているのは、交易で莫大な利益を上げ、その半分を献上しているからだ。
その利益を失った上に、軍資金を支援しなければいけなくなると、幕政から失脚しかねないのだ。
「その心配はないと思われます。
英国人排斥に動いている侠客郷党と、俵物を購入する富裕層は別でございます。
それよりは、利は薄いですが、侠客郷党に武器を販売するべきでございます。
英国人と戦える武器を、清国人に販売すべきでございます」
徳川慶恕は珍しく即断できなかった。
高島秋帆が集めていた銃と、徳川慶恕が集めさせた銃を比較検討して、今迄の火縄銃では南蛮軍に立ち向かえないという結論に達していた。
椎の実型の鉛弾を使用するミニエー銃が、一番実戦で役立つと分かっていた。
だが、今の日本では、銃身内に施条を刻むには職人技と時間が必要だった。
何よりも椎の実型の鉛弾を生産するのにも時間がかかった。
「南蛮式の最新式の銃は、幕府と尾張派が使う分もないのだ。
とても清国人に売る余裕はない」
火縄銃 :
銃剣式マスケット銃:
ゲベール銃 :
ベイカー銃 :
ブランズウィック銃:
ミニエー銃 :
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