第8話

「高須松平家長男、松平中務大輔義恕。

 隠居した徳川斉荘の養子となり尾張徳川家を継ぐべし。

 尾張徳川家を継ぐにあたり、諱を与える。

 以後慶恕と名乗るがよい」


「ありがたき幸せでございます」


 高須松平家長男・松平中務大輔義恕は、幕府によって強制的に隠居させられた徳川斉荘の跡を継ぎ、尾張徳川家十三代藩主となった。

 同時に徳川慶恕は北方警備の役目を与えられ、蝦夷地を運営を任された。

 高須松平家次男・松平武成は当主が早世した石見国浜田藩六万千石を継承した。

 以前から出雲国広瀬藩三万石当主・松平直諒と密貿易を行っていた徳川慶恕だが、将軍徳川家慶の許可を受けた事で、大々的に長崎から清国蘭国・対馬から朝鮮国清国、蝦夷地から清国露国の貿易を大々的行った。


 紀州徳川家と八代将軍争いを行い、徳川吉宗が将軍を継承してからは、将軍家と敵対し、今では紀州系の将軍家周辺から後継者を押し付けられる尾張徳川家だ。

 それでも、御三家筆頭は伊達ではない。

 将軍徳川家慶の後押しがあれば、たいがいの無理は通る。

 高須松平家三万石と広瀬松平家三万石と越中富山の薬売りだけで、六千両近い売り上げがったのだ。


 それに浜田松平家六万千石、尾張徳川家六十一万九千余国が加わり、尾張徳川家が直接蝦夷地を統治する形で、積極的に交易が可能になった。

 今迄のようにアイヌを抑圧する形ではなく、十分な代価を与え、清国や南蛮が求める商品を狩ってもらう事が可能になったのだ。

 しかもアイヌが求める米は、日本国内から集めるのではなく、貿易の利益で清国や朝鮮から購入できるのだ。

 尾張徳川家と仲間達の利益は莫大なものになりそうだった。


 源之助改め徳川慶恕が兄弟で話し合い試算した結果では、五百万両の利益を上げられる計算だった。

 特に重要だったのが、同じように密貿易で力をつけている、薩摩藩と佐賀藩への対処方法だった。


 特に薩摩藩の力を抑えることが急務だった。

 薩摩藩は年間収入が十三万両程度なのに対して、一時は五百万両もの借金があり、利息の返済だけで八十万両を超えていた。

 それを調所広郷が改革し、ここ十年間は黒糖利益だけで二百三十万両もの利益を出し、二百万両以上の蓄えを持っていると、富山の薬売り達が教えてくれた。


 そこで蝦夷の商品で得た利益で黒糖を購入し、それを日本国内で販売して利益を得るとともに、薩摩藩の利益を減らそうと考えていた。

 そしてそれは順調に進んだのだが、また新たな重要情報を富山の薬売り達、富山衆が集めてきてくれた。


「新たに加えられた輸出品と輸入品」

繰り綿:百斤で十八両。

白蝋 :

黒糖 :


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