第9話 財布の中には10万1030円!

 無事に期限までに振込みを済ませた俺は、辺りを見まわした。すると、レジやATMにできていた行列が嘘のようになくなっていた。この近くの会社も学校も、始業の時刻になったんだ。因みに俺が通っている学校も同じ。俺の、人生で初の遅刻が確定した。幼稚園のころから2443日も続けた無遅刻無欠席の記録が遂についえた。むしろ清々しい気持ちだ。


 ふと、雑誌の続きに目がいった。次の記事はこの雑誌自体を紹介するものだった。この雑誌の売りは、毎号必ずチートアイテムとチートスキルを紹介してくれるところらしい。そして、それらは雑誌の持ち主に自動的に付与されるらしい。


「なになに。この創刊号の前に、ベータ版が販売されているのか」


 雑誌が本当に売れるかどうかを調べるためのベータ版。記事によるとその内容は、チートスキルのみながら、俺も知るものだった。それは……。


「『読んだら名前の最後に『者』が付く呪文』かぁ」


 つまり俺が手に入れ損なった雑誌こそが、俺が今読んでいる雑誌のベータ版だというわけ。そして、俺はページをめくると驚愕した!


「バージョンアップしたチート……!」


 特集②の内容は、『読まなくても名前の最後に『者』が付く呪文』だった。しかも自分だけではなく誰にでも付与できるっていう優れモノなんだって。これで合点がいった。ATMに入力した名前が勇者になってしまったのは、このスキルのせいなんだ! 俺がこの本の持ち主となったときから自動発動したんだろう。となると、この雑誌のチートは本物ということになる。俺の全身に鳥肌が立った。まさか、本当にチートを身につけることができるなんて! 信じ難い。が、事実だ!


 俺は、食い入るように雑誌を見た。俺の勘が正しければ、どこかにあれがあるはずだ。俺は、あれがないかどうか表紙の裏、最後のページ、真ん中らへんと、くまなく探した。だが、どこにもない。おかしいなっと思った瞬間、俺の目にとまったのは、おまけのバインダー。俺は、そっと震える手を伸ばして、バインダーを掴んだ。そして中を見た。


「あった、あったぞ!」


 俺が探していたもの、それは定期購読の案内。この手の雑誌には必ずある。定期購読が多ければ多いほど利益が上がるからね。俺は、定期購読の案内を読んだ。それによると、どこにいても必ず毎週チートをお届けしてくれるとある。異世界も有効なんだろうか? それは分からない。定期購読するには手数料と雑誌代をまとめ払いしなくてはならない。雑誌は、創刊号を含めて50号まで出版の予定らしい。残り49冊は、定価が1冊当たり1980円。掛け算すると、9万7020円。手数料の4000円を加えると10万1020円。指定口座にこの金額を振込めば、その時点で効力を発揮するらしい。俺は今、財布を2つ持っている。1つは自分ので、入っているのはばっちい10円玉1枚を含む30円だけ。そしてもう1つ、賢さんに貰った財布には、10万1000円が入っている。合計すると10万1030円! 何という偶然。何という奇跡! いける! 買える! お釣りが出る!


 もう迷ってなんかいられない。俺は賢さんの財布からお金と俺の財布の中の10円玉2枚を合わせて手に持った。そして、直ぐにATMで指定口座に振込んだ。もうすぐはじまる俺の異世界ライフは、チートが約束されている、かも!

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