俺が異世界転移するまでの一部始終と、その後のちょっとした活躍
世界三大〇〇
第1話 真坂野勇は通学中
俺は高校2年生の真坂野勇。通学は、片道2時間しかもチャリ。だけどまさかの無遅刻無欠席! こんなど田舎でも道は舗装されてるから安心。スマホの電波も一部の区間を除いてちゃんとくる。だから俺は、毎日チャリに乗りながらスマホから流れてくる音楽を聴いている。ルンルンだぜ! それに、今日はお小遣い日。俺の財布はまさかのパンパン! 2020円が入っている。
そんな俺の目の前に、難所が立ちはだかる。ここから先の50分、ときどき電波が途切れる。大好きな音楽はお預けというわけさ。え? DLしておけばいいだって? まさか! そんなの邪道だろ。俺は課金そのものを一切お断りしているんだ。お金で解決しようだなんて、ありえない!
俺はスゥーッと息を吸い込み、呼吸を停止させるようなそぶりをしながら、難所にペダルを漕ぎ進めた。俺の頭の中には電波が途切れにくい場所の地図がある。その地図を頼りに道幅をいっぱいに使って走行した。松の木カーブはなるべく内側を通り、天神橋はとにかくダッシュする。こうすることで、スマホの電波は途切れにくくなるのだが、まさかの事態が俺を襲う。
(くっ。もう捕まったか……。)
この日は、電波の状況がすこぶる悪かった。出だし早々に大好きなアイドルユニットはねっこの『飛んで境内』は途切れ途切れとなった。仕方がない。最速走行で切り抜けるか。
普通に走れば50分の難所を、最速走行で30分で通り抜ける覚悟を俺は決めた!
その刹那、着信ベルが鳴った。まさか! ちゃんと電波来てんじゃん! そう思いながら、俺は足を止めた。通知者はMRC。ありふれた名だ。俺は大して不審に感じることなく、通話ボタンを押した。
「たっ、大変よー! あたしよ、あたし!」
だっ、誰だよ? もしかして、アタシアタシ詐欺ってやつか? けど、違ったら申し訳ないよな。そうだ!
「あーん? 森ちゃんかー?」
因みに、俺の知り合いに、森ちゃんというのはいない。かまをかけたってこと。
「違うよ、あたしだよ。MRCだよ」
だから、それは誰なんだよ! けど、自分から名乗るんだからまさか詐欺ってわけじゃないだろう。
「んでー? MRCが何の用?」
俺の質問にMRCは、棒読みで応えた。
「真坂野くん、異世界に行きませんか?」
「いっ、異世界だって!」
「地球よりかなり文明の劣るとこなんだけど、そこで人々を救ってくれないかな?」
「いっ、良いけど……。」
俺は一瞬怯んだものの、2つ返事で応じた。だって、異世界デビューは男の夢だろ!
「じゃあ、1時間以内に転移料を振込んでね!」
「おっ、お金かかんの?」
それは嫌だな。お金でものごとを解決しようだなんて、なしだ。
「当たり前じゃないか。タダで手に入るようなものじゃないよ!」
「でも、俺……貧乏なんだよなぁ……。」
通話先で本をめくる音がした。それから間もなく、MRCが言った。
「なんだ。じゃあ、この話は多田野くんに譲ろうかなぁ……。」
「えっ、多田野だって⁉︎」
よりによって、俺の1番嫌いなクラスメートの名を挙げるなんて! 異世界に転移できる権利をみすみす手放し、あいつに与えるなんて、できない!
「一応聞いておくけど、おいくらなんですか……?」
「通常価格は2000万円だけど、今回は特別に1000 円!」
「やっすー!」
「だろう! 振込先の口座番号送っとくからね」
「お、お願いします!」
「いいかい、真坂野くん。くれぐれも期限までに振込むんだよ!」
「あっ、あぁ……。」
「どんなに困難だとしてもね!」
「まっ、任せといて!」
なんと言っても俺には実績がある。片道2時間の通学もなんのその。まさかの無遅刻無欠席を続けているんだから。期限を守るのなんて簡単。
俺は通話をオフにしたあと、ペダルに掛けた脚先に力を込めた。よし、急ぐぞ!
俺は高校生の真坂野勇。通学は、片道2時間しかもチャリ。その途中、銀行なんてありゃしない。コンビニは2軒あるが、そのうちの1軒はATMを設置していない。期限までに振込むには、早起き型コンビニ『ブラザー・シックス・テン』まで全速力で飛ばさないといけない。けど、大丈夫。ペダルを漕ぐ脚は、インドの都市より軽かった。ルンルンだぜ!
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