愛する家族に、もう一度会えるとき

紅狐(べにきつね)

もう一度家族に会いたい

 四年一度、この扉は開く。


 『願いの門』


 この扉が開き、試練を乗り越え、一番奥まで行くとなんでも願いが叶うという伝説。

山奥に置かれた古びた木製の扉。その扉の前には何百人もいる。

競争率は高い。


 それでも、俺には叶えて欲しい願いがある。

無くなった妻、子供たちに会いたい。


 数年前に事故で亡くしてから、俺の人生は変ってしまった。

明るかった家庭も、これから成長していく子供達の笑顔も、その全てが一瞬で消えてしまった。


 何としても、願を叶えたい。

一目でもいいから、もう一度その声を聞きたい。


――ギギギギギ


 扉が開くと一斉に中に入っていく人。

俺もその人の波にのまれ中に入っていく。


「ぎゃぁぁぁ!」


 突然叫び声が聞こえる。

声のした方に視線を向けるとそこには血を出した一人の男が。

全く動かない。死んだのか?


 何でも願いが叶うと言う伝説。

過去、この試練を乗り越え、願いを叶えと言う人はいない。

しかし、実際扉は開いた。


 必ずこの奥に何かはある。

俺はそう信じ、ひたすら奥に向かって進み始めた。


――


 いくつもの罠を潜り抜け、俺は一人で歩いている。

何回も分かれ道があり、運に身を任せその身を進めていく。


 何時間経過したのだろうか。

暗闇の中、遠くの方から人の声がする。

俺の進む道は会っているのだろうか。


 持参した食べ物も飲み物も少なくなってきた。

いったいどのくらいこの中にいるのだろう。

懐中電灯の明かりを頼りに、一歩一歩足場を確かめながら進む。


 不意に広場に出た。

その奥に入り口と同じような木製の扉が見えた。

着いたのか? もしかして、俺が一番に着いたのか?


 心の中で歓喜を上げ、俺は扉の前まで走って行く。

その瞬間。


――ガシャァァァン!


 俺の足は何かにつかまり、動けなくなった。


「おっと、危なかった。そんな罠がまだあったのか」


 後ろから男の声が聞こえる。


「誰だ?」


「いやー、お前の後ろは楽だったぜ。あの扉がゴールだ。ここまで道案内ありがとう」


 俺の横を通り抜け、男はゆっくりと扉に向かって歩き始めた。


「ま、待ってくれ! 俺も、俺も願いが……」


「うるさいよ。俺はこの世界の王になるんだ。そうだ、もし王になったらお前を一番目の奴隷にしてやるよ」


 そう言い放ち、男は扉を開け、中に入っていく。

ここまで来たのに、あと一歩だったのに。


 数分経過し、俺の足は突然自由になった。

そして、再び目の前の扉が開く。


 中からは眩い光が。

優しい光が俺を照らしてくれる。

その光に吸い込まれるように俺は中に入っていった。


 中には台座に一つの水晶玉が。

中を覗くとそこには亡くなった妻と子供たち。


 会いたかった。

俺は泣きながらその水晶を抱きしめる。


「願いを、俺の願いを叶えてくれてありがとう。お前たちを愛している。もう一度、その声を聞きたかった。この両手で抱きしめたかった……」


 すると、水晶は粉々に砕け散り、俺の指の隙間から床に落ちていく。

まるで砂のように、儚い命のように……。


 一目会えただけでも俺の心は満たされた。

暗くなった部屋を出て、元来た道を戻ろうとする。

さっきまでいた広場には、一人の男が倒れている。


 俺を奴隷にすると言った奴だ

近くでその男を見てみると、すでに息をしていない。

何が起きたんだ……。


 長い道を戻り、光が差し込む出口まで戻る。

伝説は本当だった。俺の愛する家族に会えたのだから。


 外に出て背伸びをする。

背中が痛いし、目も痛い。

日の光が、温かく俺を包み込む。


「やっと、戻ってこれたな」


 一息つくと、後ろから抱き着かれる。


「ただいま」


 愛する妻と。


「お父さん、ありがとう」


 息子と。


「パパ、大好き」


 娘。


 俺はみんなを抱きしめた。



 伝説は本当だった。

俺の願いを叶えてくれた。


「帰ろうか、家に」


 妻と息子と手を繋ぎ、娘を肩車する。

俺は二度と、家族と離れたりはしない。

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愛する家族に、もう一度会えるとき 紅狐(べにきつね) @Deep_redfox

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