四年に一度、それはあなたのバースデー

狭倉朏

第1話 お誕生日おめでとう

「誕生日が四年に一度ってどういう気分?」

「お誕生日おめでとうの前に言うことじゃないよね、卯月うづきちゃん……」

「ああ、うん、おめでとうおめでとう、如月きさらぎ


 卯月は心のこもっていない様子でそう言った。

 本日、2020年2月29日土曜日は如月の16歳の誕生日である。


 如月と卯月はクラスメイトだ。今は互いの自宅の自室でスマホ通話をしている。


「お誕生日が四年に一度で、しかもニン229の日……いったいどういう気持ちになるのかしら。気になるわ如月」


 卯月は腕を組みふむふむと唸った。

 如月は苦笑を返す。


「……ニンニクの日って、関係あるかな……?」

「やっぱり誕生日ケーキはニンニク味だったりするのかしら」

「生まれて初めて出会った発想だね、それは……」

「えっ!? 2月29日生まれなのに!?」

「うん……そんなに驚かないで?」

「それで? ニンニク味のケーキはもう食べた?」

「もうっていうか食べる予定ないよ、そんなけったいなケーキ……」

「そう。で、誕生日ケーキは食べた?」

「まだ食べてないよ……」

「何ですって!?」


 卯月はガタリと立ち上がった。


「ケーキを食べない誕生日なんて誕生日の意味があるの!? 今からケーキ屋に行きましょう!」

「もう深夜だよ。あいているケーキ屋さんなんてコンビニくらいしかないよ」


 如月はゆるりとたしなめた。


「くっ……進む時が憎い!!」

「時間が進まないと誕生日も来ないねえ」

「くっ……! それにしても今日が如月の4歳の誕生日かあ……ずいぶんと大きくなったわねえ……」

「うん、そのいじりは初めてじゃないね。よくやられてる」


 如月はふたたび苦笑した。


「ちなみに形式上、年を取るのは誕生日の前日らしいよ。だから、私は2月29日のない年は2月28日に3月1日生まれの子といっしょに年を取るの」

「ええ、その仕組みならよく知ってるわ」

「それを考えるとうるう年に本当に左右されているのは3月1日生まれの子かもしれないね。毎年2月28日に年を取るのに、今年は2月29日に年を取るんだもん」

「その発想はなかったわね……ところで如月の家では如月の誕生日はいつ祝ってるの? 2月28日? 3月1日?」

「3月1日だね。なんとなくそっちの方が年を取ったって感じがするから」

「そう……じゃあ、来年は2月28日にお誕生日おめでとうと言いましょう。そうしたら、私、如月の加齢を祝った一番乗りになれるものね」

「誕生日はすてきな響きなのに加齢となると一気に嫌な感じになるの不思議だね……」


 卯月は肩をすくめながら口を開く。


「まああれね。4年後もこうしてあなたのお誕生日を祝えるといいわね。そのときはお酒を飲み交わしましょう」

「4年後の私の誕生日にはまだ卯月ちゃん19歳でしょ。駄目だよ」

「ちっ……よくぞ、私の誕生日を覚えていたわね……!」

「4月1日とか2月29日級に忘れないよ……」


 4月1日生まれ。それは「誕生日の前日に年を取る形式」故に、3月31日に年を取る者。学年では一番年下になる、早生まれに分類される者である。


 自分が2月29日生まれ故に知っていた雑学を頭に浮かべながら如月は言葉を続ける。


「まあ、なんか、選べるらしいけどね、どっちの学年にするかとか」

「こっちでよかったわ」


 卯月はにっこりと微笑んだ。


「だって如月と同じ学年になれたもの」

「……そっか」


 如月も微笑んだ。


「はっ! 待って! 確か2022年に成人年齢が18歳に引き下げられるはずよ!」

「残念。飲酒可能年齢は変わらないのだ」

「ちぃ……!」

「ふう……」


 如月は笑いと欠伸の入り交じった空気を吐き出した。


「ごめん、卯月ちゃん、私、そろそろ眠気が限界……」

「ええ、私も。じゃあ、また、昼にね、如月。誕生日プレゼントはその時に渡すから! 楽しみにしていてね! おやすみ!」

「うん、ありがとう。おやすみ卯月ちゃん」


 時刻は2020年2月29日0時32分。

 日付はまだ変わったばかり。

 如月の誕生日も始まったばかりだった。


 昼からふたりは買い物に行く約束をしていた。

 4年に1度自分の本当の誕生日を祝われる一日。

 今年はそれを親友が祝ってくれる。

 それを楽しみに、如月はすやすやと眠りについた。

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四年に一度、それはあなたのバースデー 狭倉朏 @Hazakura_Mikaduki

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