雨真宮会長は今日も僕で《充電》する
七天八地
第一章 訓練しましょう! 会長
第1話 プロローグ そして僕は彼女に抱きしめられた
降りしきる雨の中、透明なビニール傘に落ちる大きな雨粒の音を聞きながら下校する僕——
「今日も特に何もなかったな。いや、何もない方が良いのか。うん。普通が一番」
誰に聞かれたわけでもないのに、一人で勝手に納得した僕はため息を一つこぼすと、数え切れないほどの水たまりが出来たアスファルトをゆっくりとした足取りで進み始める。
「そういえば、今日もみんな噂してたな。雨真宮会長の長すぎる休みについて。確か今日で三週間だっけ……。何か大きな事故にでもあったのかな」
雨真宮会長とは僕の通う学園の生徒会長のことで、品行方正、文武両道、才色兼備のまさに絵に描いたようなウルトラパーフェクト女子。加えて、この国の経済の三割を牛耳ると噂される誰もが知るトップオブ財閥の雨真宮財閥に生まれた超超超お嬢様。それが
そんな考えても仕方のないことを無駄に塾考していた僕は道幅ギリギリの車幅をした、いかにも高級車ですと言わんばかりの黒塗りの車がゆっくりと自分の横を通り過ぎていくのを横目で悟った。
うわ〜、高そうな車。一体どんな人が乗ってるんだろ? やっぱどこかの社長か、芸能人? と、興味本位で車内を覗こうとした僕の思惑は鏡面ガラスという遮蔽物によって邪魔された。そりゃそうかと多少の残念さを持ちながら僕は目線を前方に戻したのだが、その瞬間過ぎ去っていく車から奇妙な視線を感じた。
ん? 気のせいかな。今誰かに見られてたような……。もしかしてあの車から? いやいや、僕の周りにあんな高級車に乗るような知り合いはいないいない。うん。やっぱ気のせいか。
何事もなかったように歩き始めた僕は、徐行スピードで走っていた車が真っ赤なテールランプを光らせ、完全に停止したことに気付かなかった。そして、その車内から何者かが飛び出していたことも。
「でもほんとよく降るなこの雨。一体いつになったら止むん——」
僕のつぶやきはそこで途絶えた。なぜなら、突然後ろから細やかな両腕が前方に現れ背中にじんわりとした温度を纏った柔らかい物体が当たり、嗅いだこともない甘い匂いとハラハラと揺れる黒髪が僕の視界に飛び込んできたからだ。そう。僕はその瞬間、誰かに抱きしめられた。そして僕はその人物の正体をまるでスローモーションになったような映像で動く自分の視界に映った横顔で、ようやく明確化することができた。
「あ……雨真宮……かい…ちょう……?」
「〜〜————!!」
その瞬間、彼女——雨真宮会長は透き通った美声を上げた。だが、混乱する僕の脳内ではその言葉を聞き取ることができなかった。
そしてこの二週間後、僕は【庶務】として生徒会のメンバーに加わることになるのだった……。
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