第30話 復讐編 『チンピラどもの動向』



 僕、伊豆海未擬斗(ミギト)は、正義のプロレスラー・ライオンマスクの『悪人全員ぶっ飛ばす!真の正義は砕けない!』の全国興行に同行していた。

 

 半年にも渡る超ロング興行で、北はホッカイドウ・エリアから、南はオキナワ・エリアまで全ジャパンエリア・47興行の長い興行だ。




 僕はライオンマスクの全国興行に同行しながら、ネオトウキョウエリアに頻繁に戻っていた。


 僕は、僕のビヨンド能力『トビウオニギタイ』を使って、幼馴染であったヒョウリに成り切って、俳優として主演をしていたからだ。

この『ライオン王子、ライオン王に俺はなる!』公演は、当初2ヶ月公演からあまりの人気ぶりに長期公演になったんだ。


 僕はヒョウリに成り切って、俳優王(俳優ランキングナンバー1)を目指している。



 

 そして、ようやく僕=ヒョウリの俳優ランキングは、283位にまで上がってきていた。


 若手としてはもちろん、ランキング変動としても異例の上昇で、雑誌やテレビの取材も頻繁にくるほどになっていた。


 まあ、ヒョウリがイケメンだってことが大きな要因ではあったんだけどね。








 そんなある日、僕はいつものようにヒョウリとして公演が終わった後に、和流石建設のチンピラコンビ、ナオ・カイザワとユージン・シーナの二人を街で見かけたんだ。


 その瞬間、フラッシュバックのように、怒りが湧いてきたんだけど、なんとか冷静に努めたんだ。


 ところが、そこでヤツラの会話を聞いてしまったんだ。




 僕は今でも、孤児院のみんなのことを考えると、ふつふつとヤツラに対しての殺意が芽生えて来てしまう・・・。

このどす黒い復讐心が晴れることは、おそらくこの先ないだろう。ナオト兄さんと唯一生き残ったセイラの存在がなんとか僕の平常心を引き止めていたんだ。


 それがなければ、自分自身を地獄の業火に晒すことも厭わず、復讐に走ってしまっていたのに違いなかった。


 



 そんな僕の前で、ヤツラはこう会話していたんだ。


 「いよいよ、例の孤児院の跡地のショッピングセンターの基礎工事が終わったらしいッスよ、ナオさん。」


 「ほぉ。まあ、あれだけ孤児院のヤツラを人柱に捧げたようなもんだからな。さぞや頑丈にできるだろうな。笑えるな。」


 「あ、そういや、しばらく、連絡を断っていたアクノ先生と社長が今度、会食するみたいですね。」


 「ああ、もうさすがにほとぼりも冷めただろうって社長は言っていたな。」


 「まあ、いまさらって話ですよね。ホント。孤児院のヤツラもおとなしく計画に賛成していればあんな目に合わなかったんだよ。自業自得ってやつですぜ。」


 「まったくだな。」




 この時、ぼくの心の奥底で何かが切れた気がした。


 明らかな殺意が生まれた。なぜ、こんな悪党がのうのうと生きていて、優しかった先生やシスター、未来のあったヒョウリや、子どもたちが殺されなければならなかったのか・・・。


 もちろん、直接、手を下した赤い悪魔ベリアルに対して考えたら、気が狂わんばかりになる。


 僕は、その場で一瞬に誰とも知らない男の人になりきり、ヤツラの後をつけたんだ。




 僕はポケットから、アカリンに護身用にと渡された、チャクラショックを与えられる手袋を出し、両手にそれを装着した。


 勝手な行動をしないで・・・そうアカリンやサーシャに言われていたことを思い出したが、僕は冷静さを欠いていたんだ。


 そう、この時、僕のことを見ていたある人物にもまったく気が付かなかったくらいに・・・。





 とにかく、僕は、チンピラコンビが和流石建設の本社の方に行くのを追っていった。


 そして、角を二人が曲る瞬間、二人の後ろ側にいたユージンの背後にそっと近寄り、両手でユージンの頭を掴み、チャクラショックを与えた。


 声もあげずに、崩れ去るユージンを通りの壁に持たれかけさせ、僕は一瞬にしてユージンになりきり変身した。


 ユージンの上着を剥ぎ取り、上から羽織る。下のパンツまでは変えられなかったが、幸い、色は同じような色で違和感はないだろう。




 そしてナオを追い、角を曲がる。ナオはまだ数歩進んだ先を普通に歩いていた。


 「ナオさん、これからどうするんですか?」


 「ん?なんだよ。社長に今日の報告して今日は上りだろ?」


 「あ、そーっすね。」


 ナオ・カイザワは能力者でもない。まったく気づかれることはなかった。




 和流石建設の本社ビルは厳重なセキュリティにガードされていた。


 ナオが門のところのカメラに向かって目を向けた。どうやら虹彩をチェックしているらしい。


 もちろん、僕もそれに続いた。目の虹彩までなり切ることは、僕の能力『トビウオニギタイ』にとっては簡単なことだ。バレるはずがない。




 「人間ヒューマノイド・男性・名前 『ナオ・カイザワ』 『ユージン・シーナ』本人認証いたしました。」


 ウンディーネ系の超A・I.がそう答え、ゲートが開く。


 ナオはすたすたと歩いていく。僕もその後を続いて歩いて入った。




 和流石建設の本社ビルは、地上45階建ての高層ビル。


 僕は初めて入ったが、ユージンのコピーをしたおかげで、ユージンの記憶情報から本社ビルの構造がわかっていた。


 45階最上階が、社長室、和流石八千王の部屋である。その真下の44階はセキュリティルームであり、ガードマンが多数常に常駐している。


 バレたら、命はないだろうな・・・。僕は少し緊張が走った。




 45階の社長室へは、エレベータを3回乗り継ぐことになる。


 40回までのエレベーター。こちらは一般社員も使うエレベーターで、40階から44階までのエレベーターが幹部だけが使うエレベーター。


 そして、44階から45かいまでの特別なエレベーターは社長か社長に用事がある許された人しか乗れないエレベーターだ。




 このチンピラコンビは、意外にも社長に重宝されているようだった。


 すんなり、40階で乗り継いで、44階で降りるナオの後に、僕は黙ってついていくしかなかった。




 44階はものすごいピリピリした緊張感のある空気が張り詰めていた。


 警備担当と思われる男が、前に現れた。


 「これはナオ様、ユージン様。例の報告に参られたのですね?」


 「ああ。社長はいるか?」


 「ええ。もちろん。社長室でくつろいでおられます。」


 「少々お待ち下さい。」




 「あ、ボス!ナオ様とユージン様が参られました。」


 そう、電子通話で報告している警備担当の男。


 「うむ・・・。上がってこさせよ。」


 漏れ聞こえる和流石八千王の声・・・。忘れもしない・・・。ふつふつと怒りが蘇る。


 いや・・・ここは冷静にならなければ・・・。




 「じゃ、行くか、ユージン。」


 「へい。ナオさん。」


 そうして、僕はナオト、警備担当の男と三人で、和流石建設の社長室への特別エレベーターに乗ったのだった。



 僕は少し緊張していた・・・。



~続く~



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