第23話 復讐編 『告白』
それから、僕たちはカナガワエリアからネオトウキョウエリアのロッポンギエリアに移動し、隠れ宿的なバー『シティ・ハンター・ハンター』に入った。
「いらっしゃい。」
バーのマスター、頭の毛は一本も生えていなかった・・・が、無愛想にそれだけ言ってまた、グラスを磨く作業に戻った。
「ここは、私たちの隠れ家みたいなもの。マスターはマスター・ボーズって人で、その道の人だから、心配しないで。」
「へー。何の道かは聞かないけど・・・。」
「用心深いね、君は。」
「君の、能力、さっき見せてもらったけど・・・」
「ああ、その前に・・・。」
僕はそう言って、ヒョウリの姿から、ミギトの姿に戻った。
「え!?それは・・・」
「うん、ごめん、騙してたみたいで。僕はこれが本当の姿なんだ。名前もヒョウリじゃない。ミギトだ。ミギト・イズウミ。」
「あ!あの孤児院の火災事件で、助かったというもうひとりの子か!?」
「うん、そうだよ。そして、ヒョウリは・・・死んだんだよ。」
「そ・・・そうだったのか。君はその能力で、一人二役・・・ううん、ヒョウリとして生きようとしているのか?」
「ああ。それには深いわけがある。」
それから、僕はアカリンに長い長い話をした。
今までのこと、これからどうして生きていこうと思っていること。
そして、その間、ずっとアカリンの顔を直視することができなかった僕が、ふと顔を上げたのは、すすり泣くような声が聞こえたからだった。
アカリンは号泣していた・・・。そして、僕の方に顔を上げ、
「ミギト・・・君は・・・なんて辛い選択をしたんだ。ずっと自分を偽って生きることになるんだよ?」
「ああ、でも、僕はヒョウリの夢を叶えたいんだ!僕の夢でもあるのだから。」
「そうか、意志は固いんだね・・・。」
「うん。」
「私も、君のその黄金のような夢にかけよう!」
「ありがとう。」
「じゃあ、次はこっちの話す番だね。」
「まず、私もビヨンド使いなのはわかったでしょ?私の能力は『波の音に染まる幻』、人の脳に直接幻覚を与える能力なの。」
「あ! じゃあ、あのサワの後ろに回り込んだ時は、ぼくのそばにいたアカリンが幻覚だったってことか!?」
「そ!正解! 敵を騙すにはまず味方からってね。君とサワの脳に私自身の幻覚を君のそばに発生させて、本物の私は何事もなく、堂々とサワの後ろに回り込んだってわけ。」
「なるほど。恐ろしい能力だね。セブンス能力者か・・・。たしか身体の脳・神経系から主にチャクラを使う能力だね。」
「へぇ・・・よく知っているね。最近、目覚めたのによく勉強しているな。師匠が素晴らしいのかな?」
「まあね。で、アカリン、君はいったい何者なんだい?ただのフリージャーナリスト・・・なんかじゃあないんだろ?」
「ふふ・・・そうね。」
「私は、ある組織のエージェントでもあるの。ある組織っていうのは、通称『アカシックレコーズ』って世間では言われてる。」
「あ!あの、『アカシックレコーズ』なのか。たしか存在も構成メンバーも何もかも謎の鑑定集団だって聞いたことがある。」
「そう、私達『アカシックレコーズ』は、世界中の全ての情報を公開することを目的としている。闇に紛れた悪は許さない!」
「そっか・・・なるほど。それで、僕たちの孤児院の事件を調べに来たんだね。」
「そういうこと。」
「僕は、一人でもカタキを討つつもりだ。仲間たちを弔うためにも、特に直接手を下した、ベリアルは絶対に許さない。」
「ふむ、聞いたところ、そのベリアルも私と同じセブンス能力者のようだね。ヒトの脳に直接、影響を与えてくるタイプだな。プラス何かまではわからないな。」
「そうだろうね。恐怖を利用しているようだった。」
「ところで、もう少ししたら来るはずなんだが・・・」
「え?誰か来るの?」
「ああ。言ってるうちに着たようだ。」
バーの扉が重々しく開いて、入ってきたのは、なんと、サーシャだった。僕の演劇仲間・サーシャ。チャ・五條。
そういえば、アカリンの知り合いって言っていたっけ。
「ばんわーなのらー。お!あれ?ミギト君じゃないか?」
あ・・・!今は、ミギトの姿に戻っていたんだっけ・・・。
「ひ・・・ひさしぶり・・・って言うのかな・・・。サーシャさん。」
「むぅ・・・ミギトはあいかわらず、他人行儀なのら。」
「いや、仕方ないですよ。だって、先輩なんだし。」
しかし、そこで、アカリンが割って入った。
「サーシャ・・・聞いて。ミギトはミギトであるけど、あなたの友人・ヒョウリでもあるの。」
「な・・・なんんだってーーーー!? ・・・って、意味がまったくわかってないのら・・・どゆこと??」
「私から、話してもいい? ミギト。サーシャもアカシックレコーズの仲間なんだ。」
「な・・・なんだってーーーーー!?って、展開が早くてまったく理解が追いついてないんだけどーーー!」
今度は僕が叫んでしまった。
その後、アカリンが僕の現状について話してくれた・・・。
今度はサーシャが号泣していた。
「ふぇ・・・ふぇ・・・ミギト、辛かったね・・・。それに、ヒョウリ・・・ヒョウリが死んじゃってたなんて・・・ふぇええええええん!」
ズビ・・・ズビ・・・と鼻水と涙を溢れさすだけ溢れさしているサーシャ。やっぱり、これを告白するのは辛いな。
「ミギト・・・私のこともサーシャと呼び捨てで構わない。だって、君はヒョウリでもあるんだろう?二人分の魂を背負っているんだ。遠慮はいらないのら・・・ズビ・・・。」
「ああ、わかった。ありがとう。サーシャ。」
すると、そこに、すっと、マスター・ボーズさんが、カクテルをそれぞれに差し出してきた・・・。
「このカクテルは『ギムレット』です。ジンとライムジュースで仕上げられるギムレットは『錐(きり)』を意味するその名からは、かけ離れた『遠い人を想う』がカクテル言葉です。
レイモンド・チャンドラーの小説『長いお別れ』の中で登場する『ギムレットには早すぎる』という有名な台詞に由来しているそうです。」
さらりと、述べてマスターはまた、グラスを磨く作業に入った。
なんて、この瞬間にぴったりのカクテルなんだ・・・。このマスター・ボーズって人はただものではないな。
しばし、僕たちは出してもらったカクテルを、黙ってゆっくり味わった・・・亡き友を想いながら・・・。
サーシャもようやく泣き止んだ頃、サーシャが、アカリンから話を聞いた。
「そっか。君は、ビヨンド能力をヒョウリから受け継いだんだのらな。。ヒョウリはたしかにその片鱗を感じることがあったのら、私の目から見ても。」
「そうなのか。」
「うん、芝居に熱中うしている時、チャクラを何回も感じたことがあるのら。実は、こういうなにかに熱中する人にはチャクラを使える素質があるらしいのら。」
「なるほど。そういうものなのか。」
「もちろん、ミギト、君にも感じたことはあったのら。だから、君たちには私も注目していたのら。」
「とにかく、我々アカシックレコーズとしても、この事件を黙って見過ごすことはできない。白日のもとに必ず晒してみせる。」
アカリンがそう告げた。
「あのサワって女が自白するとは思えないが、十魔剣と言っていた。十魔剣という組織は裏の世界で「なんでも屋」として知られている。」
「和流石建設のヤツラや、アクノがどうやって、ヤツラにコンタクトしたのかは不明だな。背後にもっと大物がいるかも知れない。」
「そんなに、有名なのかい?あのサワって女の組織は!?」
「ああ。今まで、数々の要人を暗殺してきた、まさに暗殺から詐欺から何でもこなす犯罪ののプロ集団だ。」
「だけど、ミギトとしては今、ほとんど、姿を表していないから、まずは、僕・・・ま、ヒョウリを狙ってきたってわけか。」
「ああ、そして、セイラちゃんも危ないかも知れないな・・・。生き延びたことはそのベリアルから伝わっているだろう。
おそらく、ヤツラの依頼内容は君たち目撃者の暗殺・・・だろうね。」
「十魔剣って全部で何人いるんだろう、今回はたった一人でしかもあんなに堂々と襲ってきたんだけど、暗殺組織ってわりにお粗末すぎたんじゃない?」
「いや、十魔剣のメンバーはその名の通り、十人いて、その上にヤツラを束ねている頭が存在する。おそらく今回はヤツラもなめてかかってきていたんだろうね。」
「じゃあ、次、来るとしたら、本腰を入れてくる・・・ってわけか。」
「そうなるだろうね。」
「とりあえず、一回、私達もセイラちゃんに合わせてほしい。いざとなったら、守らないといけない。顔を知っておきたいのと、信用してもらいたいからな。」
「うん、それはかまわないよ。今、ナオト兄さんは遠征に行ってるから、2,3日は戻らないけど、僕がいれば、セキュリティルームも開くからね。」
「ミギト・・・私達を信用してくれて、まずはありがとう。」
「いや、そうだね。サーシャはまあ、前からの友達だし、アカリンは、なんというか・・・その・・・とにかく信用できると思ったんだ。」
「そうか、それは嬉しいことを言ってくれるね。」
「あ、アカリン、本当の僕の顔がこんなので、がっかりしたかい?ヒョウリはイケメンだからな。」
「あー、なんだ?ミギト、そんなことにコンプレックスを持っているのか?私は、ミギト本来の顔も、なかなかチャーミングで可愛いと思うよ?」
「え!?」
まーた、このアカリンって女性はさらりと、ドキッとすることを言ってくる・・・天然なのかな?
「じゃあ、今日はもう遅いから、明日、稽古が終わった後、セイラちゃんに会いにいくのら!」
そう言ってるサーシャの顔はめちゃくちゃ赤かった。どうやら飲みすぎたらしい。
無理もない、生きていたと思っていたヒョウリの死を聞かされたばかりだったからな。
お開きにして、外に出た僕ら。
月がやけに明るい夜だった・・・。
~続く~
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