第21話 復讐編 『襲撃』
僕とアカリンはしばらく、ライオンの檻の前で、ゆっくりしていた。
「アカリン、ありがとうね。今日は付き合ってくれて。おかげで今度の役が掴めた気がするよ。」
「ホントに!?それなら、嬉しいな。ヒョウリって素直なところがステキだね。」
「え!?」
僕は、またアカリンの言葉にドキドキさせられた。
僕は十分にライオンの生命チャクラを感じ取っていた。
さすがに、ライオンの姿まで真似るわけにはいかないから、その心・・・精神を感じてなり切る・・・。そこが演技する上で大切な要素だ。
チャクラコントロールが難しそうだな・・・。だが、やるしかない。
僕は足の裏から感じ取ったライオンのチャクラを感じながら、そう考えていた。
しかし、僕は、もうひとつの禍々しいチャクラも足元から地面を通して感じ取った。
動物園の入口から、どうやら、誰かが僕たちを追いかけてきているらしい・・・。決して、味方ではないとはわかる。
このままでは、ここで出会ってしまいそうだ。
「アカリン!もう、ライオンは十分見たから・・・もっとあっちのほうへ行ってみようよ。」
そう言って、僕はアカリンを連れて、できるだけ、おそらくは敵・・・から遠ざかろうと考えていた。
アカリンもそんな僕の雰囲気を感じ取ったのか、まったく反対もしないでついてくる。
オセアニアの草原エリア、中央アジアの高地エリア、アマゾンの密林エリアを、周りもまったく見ずに、一気に通り抜ける。
「この先に、広場がある・・・そこに人がいるはずだ。そこまで行こう!」
残念ながら、開演したばかりの動物園、まだ人が少なく、ここまで誰ともすれ違ったりすることはなかった。
「あ!ヒョウリ!そっちはだめかもしれない・・・。」
「え!?」
ひらけた場所、『ロコロコ広場』に出た・・・。
だが、そこに、一人の男が立っていたのだ。
こいつが敵だ・・・さっき感じた禍々しいチャクラをこの男から感じ取っていた。
「どうやら、先回りされたようだね、ヒョウリ。」
「ああ、そのとおりだね。」
その男・・・が、口を開いた。
「おっかけっこは、ニガテなさかい、もう終わりにしてや、かんにんやで。」
え!?関西弁? って、その前に、男と思ってたけど、どうやら声の感じが女性だった。
容貌はたしかに、かっこいい系の女子といっても通じるくらいの美形顔だ・・・が、頭はモヒカンヘアだった、金髪の・・・。
背は高い方で、すらりとした体型で、服装がパンクっぽいファッションで、腰からジャラジャラ鎖が垂れ下がっていた。
男と見間違ったのも無理からぬことと思った。
「ウチは、十魔剣の一人、サワ・チョマレヨだ。っつっても知らねぇだろうがよ。
十魔剣っていうのはな、あれだ。いわゆる暗殺集団、闇組織ってやつだ。わかったか?」
「・・・って、そういうこと、ペラペラ話すものなんです? 闇組織って・・・秘密なんじゃないのか?」
「あ!!しもたー。そやんけー。喋ってもうたやん。どうしよー。頭に怒られちゃう~」
と、サワって名乗った女が頭を抱えた。
「今よ!」
と、そう言って、アカリンが僕の手を強く握り、一目散に走り出した。
入口の方へ走っていく・・・。
ちらっと振り返ると、サワという女が、大きな声で叫んでいるのが聞こえた。
「ちょ待てよ!!」
待てと言われて待つやつはいない・・・。
「おーい!卑怯やん!こっちのスキをついて逃げるなんてーーー!」
「うるさーい。そんな闇組織だの暗殺集団だの言ってる危ない奴から逃げるのは、当たり前じゃないかーーー!」
「そのこと黙ってもらわなあかんから、君たち殺さなあかんねんけどなぁ・・・。」
「そっちが勝手に喋ったんじゃないかーー!」
そう言って、けっこう距離が空いたと思ったその時・・・。
「なら、こうするけど、ええんか・・・?」
と、サワが、その手に掴んだのは、なんと、近くにいた子どもだった!
「え?」
子どもなんていたっけ? あ、どうやら、広場で遊んでいた子どものようだった。
「お前らが逃げたら、この子どもを殺すで!?」
アカリンが、立ち止まる。僕も立ち止まる。
「な、なんてこと言うんだ?僕たちにとってその子、なんの関係もない子どもじゃないか?
そんな子を人質にとったからと言って、僕たちが戻らないといけないわけないじゃないか?」
と、僕は大きな声で言ってやった・・・が、僕にはその子どもが孤児院の仲間たちに見えてしまっていた。
(無視できるわけがない・・・!)
「ふぇーん!」
子どもは泣いてしまった・・・。
「ま、ええんやで、逃げても・・・。こっちはまた出直すだけやさかい。だけど、今、逃げられたら、なんかムカつくから、この子どもは殺すだけやけどな?」
アカリンが、僕にそっとつぶやいた・・・。
「今、ヒョウリが言った言葉って・・・本心じゃないでしょ?」
「あ・・・あぁ・・・まあ・・・そりゃね・・・孤児院の子どもたちの姿とダブってしまって・・・。見捨てるわけにはいかないな。」
「そっか・・・やはり、君は私が見込んだ男の子だよ。」
そう言って、こっちを見てニコリと微笑むアカリンの顔はなぜだか、なにか決意をしたよう表情だった。
まあ、それは僕も同じだった。
僕はこの時、アカリンにビヨンド能力が知られたとしても、あの子どもを助ける決意をしたからだった。
~続く~
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