第19話 復讐編 『劇団の仲間たち』


 僕は今日もヒョウリに成り切って、家を出た。

そして、いつものようにチョーサ劇団の稽古のための駐屯所に向かっていた。


 すると入り口に長身のイケメンが一人、悠然と立っていた。

金髪、顔はモデル並みのイケメン、身長は高く190くらいあり、筋肉質、ええーーー!? 何このモテオーラたっぷりな感じ・・・。


 


 そのイケメンがこちらを見て、僕に気づいた。


 「HEY! 君は・・・ここの劇団の人かい?」


 「はい、そうですけど?あなたは?」


 「そうか!オレはジャック!ジャック・ジャンモードだ!今日からここでお世話になる・・・と言っても忙しい身なのでたまにだがな。」


 「あー!あのプロ格闘サッカー選手の!うわぁ・・・かっこいいですね。」


 「ふっ・・・。まあな、それは当たり前だけど。まあ、君もなかなかイケてると思うゾ!」


 「あ、ありがとう。じゃあ、ジャックさん、事務室に案内しますよ。」

 

 


 「ふっ・・・。タメ口で良いぞ!オレはそんなことにこだわらない。みんな仲間だからな!」


 「そうか・・・じゃあ、僕のこともタメ口で構わないよ、ジャック! 僕は、ヒョウリ・・・ヒョウリ・イズウミだ。よろしく。」


 「ほお・・・。君が・・・主演のヒョウリか。ふむ、よろしくな!」


 


 事務室にジャックを連れて行ったら、例のハーンズさんがやってきた。


 「ふーん・・・、ジャック!やはり、イケメンだねぇ。やはり、今回、客演で呼んで大正解だったな。

ジャック!ぜひよろしくだ!私は、ハーンズ・ゾイ・クラヴィッツ。ハーンズで良いよ。」


 「え!?ハーンズさんって、あの歌姫・ハーンズさんですか!?うわぁ・・・オレ、ファンなんすよねー。

つか、事務も兼任されてるんですか? こんな美しい女性が・・・そんな雑務しなくたっていいんじゃないかな?」


 キラリと歯が光った・・・ような気がした。ジャックってそういえば、イタリアエリアの出身だったな・・・。

今は、ジャパンプロ格闘サッカー連盟に在籍している、超人気選手だが。


 「ふーん。ありがとな。ジャックって口が上手いのね・・・♡」


 「いえいえ、オレは本心しか喋りませんよ。」


 なんだこのコント・・・と、僕は内心思ったが、口にはしなかった。


 


 


 


 ハーンズさんはジャックを連れて、エルヴィス団長の部屋に連れて行った。


 それを見送って、僕は控室に向かった。途中で、ミカ・サー・ダグラスと会った・・・。


 ミカは非常に凛とした女性で、僕とヒョウリの同期だ。彼女が葉巻を吸っているのを見たことがある。今の世の中でタール・ニコチンを摂取するなんて信じられない行為だ。

だが、彼女は周りの視線なんか気にしない。東洋系の典型の顔、そして背はあまり高くない。だが、妙なセクシーさがある。


 普段は無口、だけど言うべきことはズバリ言う・・・その態度に女子のファンが殺到する。彼女はテレビ界にも出ている若手人気屈指の表現者だ。


 俳優ランキング77位という・・・エルヴィス団長を上回る活躍をしている・・・。


 若者で知らない人はいないだろうな。今、超人気の表現者だ。


 




 「ヒョウリ・・・、よかった。元気になったのね。ミギトは元気?」


 「ああ。あいつも元気だよ。ミギトはミギトの進むべき道を歩き出したよ。

ミカのこと、気にかけていたよ。ミギトも。」


 「そっか・・・。私も元気だってミギトにも伝えてくれ。」


 「わかった。でも、また会うときもあるだろう。直接、言うと良いよ。」


 「そうだね。ヒョウリはなんだか雰囲気が変わったね。なんだか、そう・・・。優しくなった気がする。」


 「そうか?まぁ、あんなことがあったからな。何か感じ入ることがあったんだろう・・・僕も。」


 



 ミカと僕(=ミギト)はこの劇団に入ったときからの同志というか、仲間だ。彼女は妙に気が合った。

その後、ヒョウリとも仲良くなった。三人で旅行に行ったこともあったな。男女の仲・・・はない。なんだか家族のようなんだ。彼女との関係は。


 そして、彼女はその後、雑誌に掲載されたことから、スターダムの道を歩き出した。

そのあたりから、あまり付き合いはなかなかできなくなったが、劇団で演技を通して、ずっと付き合ってきたんだ。


 もちろん、あの孤児院消失事件のことは彼女も聞いていただろう。


 


 「じゃぁ・・・また。舞台で。」


 「おう。またな。」


 そう言って彼女と別れた。


 


 控室に入ると、そこにはいつもの面々がいた。


 サーシャ・チャ・五條

 アルミーナ・トミナガ

 コニーシ・カツユキ

 マルコス・エックス


 マルコスは先日いなかったが、コニーシと同期だから、僕たちより一つ上の先輩で、その一つ上がサーシャだな。


 マルコスは非常におとなしいが、意思は強いと思う。何事もコツコツやる先輩だ。

彼女もいるらしい。会ったことはないけど。


 


 


 「おはよう。みんな。今日からまた稽古よろしく。」


 と僕。


 「おー。お昼ごはん何食べよっかなのー。」


 そう言ったのはサーシャ。


 「って、もう昼メシの話ってサーシャ・・・。」


 とアルミーナが反応する。


 「俺はハイエナリーダー役だからな。悪ぶって行かなきゃな。」


 コニーシが気合を入れている。


 「ふ・・・普段から悪ぶることないと思うよ。コニーシ。」


 と、マルコスがツッコミを入れる。


 「そうなのらー。」


 サーシャがふんわり合いの手を打つ。


 「まだ、これから朝の稽古なんだから、いいんじゃない?」


 と、また僕が言う。




 


 そして、舞台稽古が始まった。


 『ライオン王子、ライオン王に俺はなる!』の舞台のストーリーは、こうだ。


 ライオンの群れの王・ライオンパパの子供として生まれたライオンジュニアが、敵対派閥のライオンワルに陥れられ、群れから追い出されてしまう。

ライオン王ライオンパパは幽閉され、群れの実権を握ったライオンワルはライオンジュニアの許嫁であったライオンヒロインを奪って后にしようとする。

 

 その後、ライオンジュニアは森で出会ったシルバーウルフとキャットガールの助けを借りて、群れに戻ってきた。

ライオンジュニアと仲間たちは、宿敵ライオンワルを倒し、見事ライオンパパとライオンヒロインを救い出す。ハッピーエンドという物語だ。


 全世界で、数多公演されている物語で非常に人気も高い。


 これで、注目されれば、一気にランキングを上げていけるだろう。


 僕は、俄然、気合が入る。


 




 「ライオンパパ・・・おまえにはずいぶんと貸しがあったな。お前の肉をきれいに削いでやる!」


 「きさまっ!裏切ったのか!!ライオンワル!!」


 おおー!エルヴィス団長も、リーヴァイス班長もすげえ・・・かっこいいな。


 さすがは、我が劇団の看板俳優だわ。リーヴァイスさんは若手俳優のリーダーと目されているんだ・・・。僕らの班長でもある。


 おっと、僕の出番か・・・ううーーん、まだ自信がないな。


 


 この主役のライオンジュニアを演じるのが僕=ヒョウリなんだけど・・・。


 「ヒョウリ・・・今のお前のライオンパパとの対話のシーン、セリフがなんだか感情が入っていない!」


 「すみません・・・。まだ、ライオンジュニアの気持ちが掴めてなくて・・・。」


 「ふむ・・・。ちょっと、休憩だ!」


 「はい!!」


 うーん、エルヴィス団長にどうもダメ出しをされてしまった。このライオンジュニアの役はなりきるってわけにはいかないよな・・・。


 どうしようか・・・。


 


 「お疲れ様!ヒョウリ。」


 そう言って駆け寄ってきたのは、ミカだった。


 「お・・・おぉ・・・。ミカは、さすがだったな。」


 「え!?そんなことないよ。ただ、役が合ってたからかな。」


 「うん、僕も負けないよ?」


 「うん・・・。がんばろうね。」


 「ああ。」


 



 僕も早く、役を掴まないと、おいてかれるな、これは。


 だが、どうやって架空の存在であるライオンジュニアの心になりきれば良いのか・・・。


 肉体ごとなりきれる僕の『トビウオニギタイ』の能力を駆使しても、架空のライオンジュニアになりきるってことはできないのか・・・。


 (いや・・・イメージか。イメージが確固たるものがあればなり切れるか・・・。

そうだよね、ナオト兄さんのライオンマスクも最初は本人が変身した姿だと思わなかったもんな。)



 




 こうして、僕はまずは動物のライオンを直接見て、感覚を得るために、カナガワエリア立国際動物園ヨコハマ・ズーに出かけることにした。


 だけど、動物園に一人で行くのもなぁ。誰か誘っていきたいけど・・・。



 なぜか、ぱっと浮かんだのは、幼馴染のミカでも、劇団仲間のサーシャやアルミーナ達でもなく、

この前会ったきりの、フリージャーナリストを名乗ったアカリンだった。


 僕はアカリンに連絡することにしたのだった。





 まさか、あんな事件に巻き込まれるとは思わなかったんだ。


 そのときはーー。



 

~続く~



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