第2話 孤児院消失事件 『災厄の予兆』
僕たちは院長室で、シスターやキャシー先生と積もる話などいろいろしていた。
キャシー先生と、テレサ・ベイリアル・シスターの二人は本当に僕たちを心から歓迎してくれた。
「ミギト、ヒョウリ、また立派になったね、本当に子どもたちは成長が早いわ。」
シスターテレサが、温かい声でそう言った。
彼女も厳しい時は厳しいが、本当に孤児院の子どもたち全員を愛してくれていたんだ。
すると、なんだか外が騒がしいような音が聞こえてきた。
なんだか、扉を勢いよく開けた・・・そんな音が鳴り響く。
バァアァァアアアア――――ン!!
そして、そこへ勢いよく二人組の男たちが扉を開けて乱入してきた。
ちょっとイケメン風なおしゃれなチャラ男な感じの男と、つるっぱげのいかにもチンピラ然とした男の二人だった。
ハゲの男がオラオラ口調で、こう切り出した。
「おいおい、院長先生よ! そろそろここの土地、売る気になったか?」
するともうひとりのイケメンチャラ男が、丁寧な口調でこう言った。
「ユージン!もっと丁寧な話し方で接しないと、子どもたちがびっくりしてしまうよ? ねぇ?院長先生!」
「あ、あなた達は!和流石(わるいし)建設の!」
シスターテレサが二人を指差しながらそう答えた。
どうやら、孤児院の土地を狙ってきている建設会社のヤツららしい。
院長先生は、毅然とした態度で切り返した。
「その件は、そちらの和流石社長に、きっぱりとお断りしたはずです!それに、最近の子供達が脅されたっていう件はあなた達の仕業だったのね?」
「あぁ?知らねえな!あんたがいつまでもここにいるのを嫌がってる近所の住民のみなさんじゃないか!? なぁ?ナオ?」
「そうだと思いますよ?院長先生?この周辺の住民の方々はみんな、ここが邪魔で地域開発が進まないと嘆いていらっしゃるんですよ?」
後からわかったのだが、二人はこの地域の地上げを推進している和流石建設の従業員で、ナオ・カイザワとユージン・シーナの二人のチンピラコンビだった。
和流石建設の評判はすこぶる悪く、県知事がバックについているとかいないとかで、かなり強引な手段をとって地上げ・開発を進めているヤクザまがいの建設屋だった。
僕がなにか言おうとしていた先に、ヒョウリがすかさず答えた。
「えーと、で、あなた達は勝手に私有地に侵入してきている不法侵入者ということですね?警察を呼びますよ?」
ハゲのほうのユージンという男が息巻いた。
「なんだと?ふざけやがって!呼べるもんなら呼んでみろよ?どうなっても知らねえぞ!?」
今にも掴みかかろうとする男を、もうひとりのナオという男が止めた。
「やめろ!ユージン。ふっ、頭の回るお子様だねぁ、君は?かっこいいよ。まぁ、いい。今日のところは引き上げますよ。」
そして去り際に、
「ま、後悔することになりますよ?院長先生・・・。」
男たちが孤児院の門から出ていったのを見届けてから、キャシー先生が振り返って明るい声でこう言った。
「ごめんね・・・騒がせちゃったわね。ヒョウリもありがとうね。」
「気にしないで。さあさあ、ヒョウリ。報告事があるんでしょ?聞かせて!」
そうキャシー先生は優しく微笑んだ。
その後、僕たちはキャシー先生やシスターに、ヒョウリが主演に選ばれたことを報告した。
シスターテレサもキャシー先生も自分のことのように、それはもう喜んでくれた。
「今日はヒョウリのお祝いね!」
「ほんとにね。よく・・・よくぞ頑張りましたね。ヒョウリ。」
「キャシー先生・・・。シスターテレサ。ありがとうございます。」
ヒョウリもそれに答える。
僕たちはそれから、子どもたちと遊んだりして夕暮れ時となった。
そんな時、ヒョウリが晩ごはんのための買い出しに行こうと僕に言ってきた。
「ミギト!今晩の夕飯の買い出しに行こうか!」
「何言ってるんだ!? ヒョウリさぁ、今日はヒョウリの初主演のお祝いも兼ねてるんだから、僕が行ってくるよ。」
「そうだぞ!ヒョウリはゆっくりしてろよ?明日からまた稽古が大変なんだろ?」
「そ、そうか・・・ガストーン、ミギト、ありがとう。」
「何言ってるんだよ、みずくさいよ。ヒョウリw」
というわけで、僕が院長先生に買い出しに行ってくると言って、ガストーンと二人で買い出しに行くことになった。
近くのスーパーに買物に行くことにした。
「全部で24名分だね、ちょっと多くなるね、いつもガストーンとシスター二人で大変だろ?」
僕はガストーンにそう言って、夕食の料理は何にしようかと考えていた。
やはり、大勢で食べるので鍋とか鉄板焼なんかが美味しくていいかな・・・。
「まあ、俺はミギトと違って力持ちだからな!あっはっは!」
ガストーンは相変わらず豪快なやつだなぁ。
そんなこんなで僕とガストーンは小一時間、買い物していた。
ガストーンが大量の食料を抱えて、僕は申し訳なく思いながら、両手に少しの袋をぶら下げて、帰路についた。
孤児院につく頃には、日がすっかり落ちて周りが暗くなってしまっていた。
もし、この時、もう少し僕たちが早く帰っていたら・・・
運命は変わっていたのかもしれない。
また、ヒョウリと一緒に買い物に行っていたら・・・と、そう後悔したことも何度あっただろう。
孤児院の建物がまだ、見えていないのに、孤児院の方向が明るく見えてきた・・・
周りが暗くなったことによって、闇の中で孤児院が煌々と明るく燃え上がっているのが、遠目からも確認できた。
ガストーンが、持っていた袋を落として、叫んだ。
「火事だっ!!!」
「まさか!孤児院が燃えているのかっ!!」
僕も、袋を落として、ガストーンに声をかけた。
「急ごう!火事だ!あっちの方向には孤児院しか建物はないはず!」
そう、孤児院が暗くなった空に黒い煙を上らせながら、燃えていたのだ・・・
僕たちは大急ぎで走って駆け寄っていった。
そして、この世の最悪の悲劇がそこに待っていたのだった・・・
~続く~
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