第1話 孤児院消失事件 『親友』

 

 

 あの日、僕は地獄がこの世に存在することを知った・・・




 

 僕、ミギト・イズウミ(未擬斗・伊豆海)は、孤児院出身で、2年前の当時は17才になる少し前だった。

すでに育ててもらった孤児院『とらっこハウス』を出て、小劇団の新入りとして日々、演技の練習に明け暮れていた。


 僕は自分で言うのもなんだけど、演技・特にその人物、果ては動物などに成り切ることが得意な方で、迫真の演技というより自然に成り切っている演技が得意だった。

だけど、悲しいかな、僕のご面相は十人並みでいわゆるイケメンではなかった。






 

 先輩たちからは、いい演技すると褒められることもよくあったが、まあお客さんには関係なかったみたいで、

僕の俳優ランキングは毎回、1万5千位前後、日本エリアだけで3万人くらいいるであろう俳優の中で半分くらい。注目されている俳優は少なくとも5千位以内に入っていて、

 また、その中でも俳優だけで食べていけるのは、200~300人程度と言われている。売れっ子俳優は人気ランキング100位以内にいる。


 で、同じ小劇団『チョーサ劇団』に、僕と幼馴染で同い年で、同じ孤児院出身の、ヒョウリ・イズウミ(漂莉・伊豆海)が所属していた。

同じイズウミ姓だけど、ヒョウリと僕の間に血の繋がりはない。

 イズウミ(伊豆海)の姓は、尊敬する孤児院の院長先生の姓をもらったんだ。






 

 ヒョウリはいわゆるイケメンで若手イケメン俳優として固定ファンも徐々に増えていって1万位前後だったところから、ランキングは4500位くらいにまでなっていた。


 僕たちが活躍すれば孤児院も注目され、より孤児たちにいい教育や生活、まあとにかく餓えずに済むようになるって、ヒョウリと誓い合った。


 僕たち二人は、小さい頃から俳優に憧れ、演技の世界を夢見て、お互いがこう言っていたんだ。





 「世界の俳優王(世界俳優ランキング1位)に俺はなる!」



 ・・・ってね。二人で切磋琢磨し、演技の勉強・練習をし、演技力を磨いていったんだ。





 

 おそらくヒョウリと僕は演技力では、若輩ながらかなりのものにはなっていたと思う。

僕とヒョウリはお互い実力が拮抗していた。そしてお互いライバル視し演技力を磨くことで、同世代の俳優の誰よりもどんどん上手くなっていった。

 ときに先輩からの嫌がらせのようなものがあったが、劇団の団長は僕たち二人を気に入ってくれていた。


 団長は、エルヴィス・スミスリーという人で、この小劇団『チョーサ劇団』の創業者かつ団長で、小劇団ながら、団長は俳優ランキング87位に入る有名人だ。

時々、テレビのドラマや映画にも出演のオファーが来る。団長本人は舞台が大好きで、年間公演数も劇団の中では多い方だった。






 そんな中、ヒョウリが徐々に注目され、ランキングを上げていく中、団長から主演をやってみないかという話がヒョウリにもたらされた。

この年令で、『チョーサ劇団』の主演だなんて、大抜擢中の大抜擢ということになる。


 ヒョウリから僕に話があると言ってこう言われた。


 「エルヴィス団長から、今度の公演で主演をやってみないかって話があったんだけど、ミギト、どうしよう?」


僕はヒョウリのこの話を聞いて、本当に心の底から自分のことのように嬉しかった。もちろん若干の嫉妬はあったもののヒョウリなら素直に認められる。




 

 「な・・・何言ってんだよ!すごくいい話じゃないか!


  ヒョウリ! やったな! すっげぇな!」


 ヒョウリは恥ずかしそうにしながら、


 「うん、ミギトなら必ずそう言ってくれると思った。ありがとう!

先に俳優王への階段を一段登って、ミギトが上がってくるのを待ってるぞ!」



 

 本当にいいやつだ・・・ヒョウリは・・・。僕も負けまいとするように必ず言ってくれる。


 僕たちは本当に最高のライバルであり、親友であり、幼馴染であり、そして兄弟のようだった・・・。


 ま、僕はほんの端役の通行人Aの役だったけどねw


 僕は負けじと答える。


 「うん!必ず追いつくよ!」



 


 

 

 


 そして次の公演のための稽古が日々行われていた、そんなある日のことだった。



 

 ヒョウリから久々に休みがもらえるから、孤児院に帰って、院長先生や孤児院のみんなに報告しに行くという話があり、

僕も当然ながら、休みだったので、一緒に帰ることになった。


 僕達は孤児院のみんなのおみやげを買って、お昼すぎには孤児院に着いた。




 

 僕たちの出身の孤児院『とらっこハウス』は、ネオトーキョーエリアの端っこのほうにあり、本当に貧乏だった。

身寄りのない子が最後に訪れるような場所とも言えた。

 だが、ここの孤児院の院長先生・キャサリン・リペトア・イズウミ(伊豆海)先生は、非常に躾に厳しい先生だったが、子どもたちを実の子のように愛してくれた。


 そう、僕とヒョウリが15才で、孤児院を出たとき、先生の姓をもらったんだ。

ま、僕とヒョウリには夢があったし、何より孤児院のみんなの食い扶持を少しでも増やすことになったからだ。



 

 孤児院の仲間にはいろんなやつがいて、中でもガストーンは僕たちと同じ年の親友だったが、働いて孤児院を支えるため彼は孤児院に残って子どもたちの面倒を見ていた。


 僕たちが孤児院に着いたときには、門の前まで迎えに着てくれたのだ。



 



 「ミギト!ヒョウリ!久しぶりだな!待っていたぞ!」


 「ガストーン!お前も変わらずデカイな!」


 「ガストーン、元気だったかい? 工事現場の仕事、きついんだろう?」


 「はっはっは、ミギトに心配されるほど俺はやわじゃないぜ?w」



 

 僕たちは久々の旧交を温めあった。


 そして、院長室へ挨拶に行こうとしたら、子どもたちが集まってきた。


 セイラ、ジュード、ピピンヌ・・・みんな、僕たちを歓迎して大はしゃぎだ。





 

 ジュード・・・彼はまだ10才の男の子だ。セイラという同年代の女の子が好きみたいなんだ。

 

 「ミギト兄ちゃん、ヒョウリ兄ちゃん、おかえりー!」


 ピピンヌ・・・彼は12才の男の子で、けっこう正義感が強い子だ。


 「おみやげ、あるのー?」


 セイラ・・・彼女はジュードと同じ年の10才の女の子だ。だがとても賢い子なんだ。


 「ミギト兄さん、ヒョウリ兄さん、お帰りなさい。キャサリン先生もテレサシスターも院長室で待ってるよ」



 ほかの子どもたちもみんな、おかえりと言って歓迎してくれる。



 

 そう、僕たちは定期的に帰ってきては、おみやげを持ってくるし、寄付もしてる。

だから、子どもたちのハートもがっちり掴んじゃってるのさ。


 それに、ヒョウリは特に優しい。顔もイケメンで女の子はみんなヒョウリのことが大好きなんだ。



 セイラが僕のそばに来て、耳元で囁いてきた。


 「ミギト兄さんのこともみんな大好きだよ!?」




 ・・・ってセイラちゃん、僕の心、読めるのかよ!?


 「ありがと、セイラ。僕もセイラのこと大好きだよ~!」


 思わず抱きしめようとし・・・あら?


 あっさり、ヒョウリのほうへ行っちゃった。



 ジュードがそれを見て、


 「セイラ、待ってよー」


と言ってセイラについて行った。



 

 このセイラという女の子は不思議な子なんだ。まだ10才の女の子なんだが、めちゃくちゃ賢い。

以前に僕たちがどこかの研究機関のIQ測定装置を借りてきて、セイラのIQを測ったら、なんとIQ250もあったんだ。


 IQランキング上位に入るんじゃないかな・・・

まだ世間に知られてないけど、知られたらおそらく研究機関とか施設とか引き取られてしまうだろう。


 セイラ自身がそれを望んでいなくて、ここの孤児院にずっといたいって言うから、僕たちは内緒にしている。



 

 ジュードはセイラと同じ年の男の子で、セイラのことが好きらしいんだけど、本人は誰にも内緒にしているつもりらしい。

僕たちには、彼の気持ちはバレバレだったんだが・・・。


今も、すぐセイラのほうへついて行った。惚れた弱み・・・ってやつか、子どもでもオトコはつらいよってかな。


 ピピンヌは、僕のそばにまだ残っていた。

彼はとっても優しい男の子で、12才にたしかなったばかりだ。



 

 孤児院には全部で18名の子どもたちと、院長先生、あとテレサ・シスター、ガストーンと、あと一人、僕たちより一つ年下、15才の男の子がいるんだけど、、、


 と、思ってたら、その彼・コールカスのお出ましだ。


 コールカスが早速、僕に対して嫌味を言ってきた。


 「ミギトじゃねぇか、もう俳優なんて諦めたか?」






 

 「いや、まだまだこれからさ! まあヒョウリは随分と先に行くことになっちゃったけどね。僕は決して諦めないよ?」


 「ふん! 早くやめたほうがいいぞ!」


 そう言ってコールカスは建物の方へ去っていってしまった。




 コールカスは僕らと年も近いことから、何かと僕らと張り合うことが多かった。

ヒョウリには憧れていたようだったけど、そのヒョウリに認められていた僕にはなぜかすごくライバル心を抱いているようだった。


 そう、なんだか僕は嫌われているようなんだ(泣)


 ま、さっさと孤児院を出ちゃった僕らに対して寂しさも感じていたようだったから、よけいに僕がヒョウリを連れ出したって思っちゃって僕は嫌われているようだった。


 

 

 そして、僕たちは院長室へ向かった。

中には、孤児院の院長・キャサリン・リペトア・イズウミ(伊豆海)先生と、テレサ・ベイリアル・シスターの二人が待っていた。


 「おかえり、ミギト、ヒョウリ・・・。そして、ガストーンもご苦労さま。」


 キャサリン院長が相変わらずの変わらない厳しい声でそう言った。

しかし、僕たちはキャシー先生の大いなる子どもたちへの愛を知っている。親しみを込めてキャシー先生と孤児院の僕たちは呼んでいた。


 彼女はしつけに厳しいが、本当に孤児院の子どもたち全員を愛してくれていた。



 

 「ただいま!キャシー先生!シスター・テレサ!」


 「ただいまです!キャシー先生、シスター。」


 「おかえりなさい。ヒョウリ、ミギト。」


 シスター・テレサも優しくほほえみながら迎えてくれた。


 僕たちはこの時、暖かな時間を本当に心から素直に喜んでいたんだ・・・。


 まさか、あんな事件が起こるなんて思ってもいやしなかったんだ。





~続く~

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