ジュウシチネンゼミより愛を込めて

七海けい

1話目:ジュウシチネンゼミより愛を込めて

 

 生まれはアメリカ、育ちもアメリカ。

 わたくし、昆虫網半翅目同翅亜目セミ科マギキカダ属の、ジュウシチネンゼミと申します。

 噛まずに読んでくれた人は、凄い。気が向いたら、あなたの作品に★印を付けに参ります。


 現在、わたくしは白い体をCの字に丸め、グレート・プレーンズの草原の下で、羽化の日を待ち続けております。


 ところで。

 極東の島国──ジャパンでは、今年、オリンピック・パラリンピックが開催予定なんだとか。


 良いですね。四年に一回やってくる、手に汗握るスポーツの祭典。

 開催時期が夏と言うこともあって、セミ界隈でも期待が高まっております。


 特に、ニイニイゼミなんてもう大変ですよ。

 あいつら、卵から成虫になるまでのサイクルがジャスト四年なんです。

 お祖母ちゃんがロンドン、お母さんがリオ、子供がトウキョウですよ。


 サッカーワールドカップなら、南アフリカ、ブラジル、ロシアですよ。


 万一奇数の年に生まれても、彼らのサイクルは比較的柔軟ですから、2~3代もすれば、どこかでハッピーイヤーに当たるわけです。




 それに引き替え、我らジュウシチネンゼミときたら……。はぁ。


 ジュウシチネンゼミの成長サイクルは、名前の通り17年です。

 この成長サイクルは、他のセミよりも厳格に決められています。


 ジュウシチネンゼミには、年次集団という世代ごとのグループがあります。

 わたくしが属している年次集団Ⅹは、ジュウシチネンゼミの最多世代……人間で言えば、団塊の世代やベビーブーマーに当たります。


 そして、年次集団Ⅹは、2004年に地上を騒がせたセミたちの子供たちになります。記念すべき、アテネ五輪の年です。


 つまり、わたくしたちが大人になって地上に出る年は、2004に17を足せば簡単に求めることができます。


 さぁ皆さん。電卓のご用意を。


 2004+17=?


 ……ぁはは。ちょっと電卓では厳しいですね。

 メ紙と鉛筆を用意して、筆算してみましょう。



  2004

 +  17

 ─────

  ????



 ……ぇえと。繰り上がりが難しいですねぇ。

 ふぅ。解けました。答えは2021ですね。


 ・・・2021? ……2021っ!? ……、……2021ッ!?!?


 2020年と1年ズレではないですかっ!! 1年ですよ!?

 たったの、1年!



 ぁああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!

 悔しい!!



 ……いや、しかし。まだ諦めてはいけません。

 先ほど申し上げました通り、ジュウシチネンゼミには年次集団があります。


 この年次集団。実は、なんと14個もあるんです! 14個ですよ!!!!

 特に、Ⅱ,Ⅳ,ⅩⅢ,ⅩⅣは、個体数の多い年次集団です。

 こいつらが報われてくれるなら、ジュウシチネンゼミもまだまだ捨てたもんじゃないってことですよ。


 さて。Ⅱの親世代は2013年に産卵、Ⅳの親世代は2015年に産卵、ⅩⅢの親は2007年に産卵、ⅩⅣの親は2008年に産卵。つまり、それぞれが成虫になる年は……


 ……Ⅱが2030年、Ⅳが2032年、ⅩⅢが2024年、ⅩⅣが2025年。



 ぁああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!

 ……ぁ。でも、ⅣとⅩⅢの連中は五輪の年に、Ⅱの連中はワールドカップの年に当たりますね。


 ……ちょっと待て。

 我らが年次集団Ⅹも、次世代が地上に出るのは2038年。

 シンギュラリティ秒読みみたいな年ですが、これはワールドカップイヤーです。


 さらに、ひ孫の世代が地上に出るのは2072年。

 ぉお、オリンピック・パラリンピックイヤーではありませんかっ! でも遠っ!


 いや、だって。

 今この瞬間にオギャアと生まれた人が、結構なジジババになっているんですよ?

 でなければ、怪しげなテクノロジーで永遠ノ命「」とか手に入れてるんですよ?


 どんだけ~……。




「・・・おい、そこのジュウシチネンゼミ」


 ……ん? 貴方は誰ですか?


「俺は、ジュウサンネンゼミの幼虫だ」


 ぁあー、これはどうも。

 ジュウサンネンゼミは、わたくしどもと同じ、素数ゼミの一族です。

 その名の通り、卵から成虫になるまでの期間はきっかり13年です。


「安心しろよ、ジュウシチネンゼミ。お前らには年次集団Ⅸがいる。あいつらは、全員2003年生まれじゃないか」


 ぇ? マジで?


「ぁあ。マジだ」


 2003+17=?

 暗算でもできます。2020年です。


 ぉおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!


 ついに、ついに!

 我が同胞の中に、2020年を制する者たちを発見しましたよ!!!


 ……ちなみに。

 ジュウサンネンゼミの方々は、2020年、どんな感じなんですか?


「全員、空振りだ。俺たちには3つの年次集団がいるが、それぞれ羽化の年は、2024年、2027年、2028年だ」


 ぁらま。それはご愁傷様で。


「だが、2024年はちょうど五輪の年だ。おまけに、2024年に羽化する年次集団ⅩⅨは、ジュウサンネンゼミの圧倒的多数を占める」


 へぇー。

 じゃあ、四年後はジュウサンネンゼミの天下ですね。


 ……って言うか、2024年なら、ジュウシチネンゼミの年次集団ⅩⅢも成虫になりますね。


 その頃には、カクヨムも晴れて2才ですか。

 実質8才ですから、小学2年生相当ですね。


 ぅわ。めっちゃ可愛い盛りじゃないですか。


 わたくし。

 この場を借りて、カクヨムの1才と2才を、同時に祝っちゃいたいと思います。



 ・・・ぇ? 気が早すぎるって?

 まぁまぁ。そうおっしゃらずに。



 何せ、2021年に羽化してしまうわたくしは、2024年には生きていませんからね。


 セミの成虫は、保って2週間の命。

 儚いものですが、仕方ありません。



 来たるべき、四年後の2月29日。

 四年に一回の、カクヨムの誕生日を、わたくしに代わって、誰かが祝ってくれると信じて。



 2020年。2月29日。

 アメリカの土の底から、カクヨムの皆様に愛を込めて。

 ジュウシチネンゼミより。




















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