第98話
「いち、に…。いち、に…」
久々に足が自由になった為か、
「頭、気を付けろよ~!」
出入り口の扉が少し低めなので、糸で信号を送り、頭を下げさせる。
「……無事、出れましたね」
久しぶりに日光を浴びたせいか、目を細めながら天を仰ぐゴブリン。
それを安心したような、優しい瞳で、見つめながら、コグモが呟いた。
まるで、子どもを見守るお母さんの様だ。いや、この場合は、お姉ちゃんか?
「この後は、どうするんですか?」
コグモが俺を見下ろしながら聞いて来る。
「まずは、少し離れた場所に移動しよう。ここでゴブリンが動き回ると、皆に迷惑がかかるからな」
俺が「河原の方はどうだ?」と、指をさして提案すると「分かりました」と言って、歩き出すコグモ。
天を仰ぎ続けるゴブリンも、(行くぞ!)と、信号を送ると、こちらに振り向き、自らついて来てくれた。
外に出たら逃げ出すかとも思ったのだが、そんな事はないらしい。
コグモはそんなゴブリンを誘導する為、俺を片腕に抱え、尻尾で荷物を持ちながらも、空いた、もう片腕から糸を射出して前方に張り付け、巻き取る形で前方を移動していた。
「……ゴブリンさん。足が速いですね」
そんな状態でバランスをるのは難しいだろうに、そんな事は毛ほども感じさせない程、自然に後ろを振り向いては、ゴブリンの様子を窺ったりもしているのだから、驚きだ。
俺なんかでは、到底、真似できそうにない。
多分、ゴブリンは普通に歩いているだけなのだろうが、なんせ、歩幅が違う。
コグモは俺達という荷物を抱えてはいるが、俺なんかが移動する数倍の速度で移動していて。
それでも、ゴブリンにとっては丁度良い速度だと感じてしまうのだから、大きさは力だと、否が応でも感じらせられた。
「そうだ。ゴブリンの上にのせて貰えば良いんじゃないか?」
俺は、ゴブリンに(体操作するぞー)と、信号を送る。
「そうですね……。少し怖いですが、ルリ様がいれば安心です」
嬉しい事を言ってくれるコグモ。
そうこうしている内に、動きを止めたゴブリンからOKサインが出たので、腰を下げさせ、手のひらを地面擦れ擦れに置かせた。
「この上に乗れば良いんですね?」
その言葉に、俺が「あぁ」と、答える。
それを聞いたコグモは、怖さ半分、興味半分と言った表情で「えぃ!」と、ゴブリンの手のひらの上へ飛び乗った。
俺はゴブリンの手のひらを、肩の高さまで上げさせると、コグモに降りるよう、
「た、高いですね……。ここが木の上でないと思うと、ちょっと不安です」
確かに、足場が揺れて不安定なのは怖い。
「肩に糸で体を固定すれば、安全なはずだ」
「分かりました」と答えたコグモは、俺の指示通り、ゴブリンの肩に糸で自身の体を固定する。
「このまま真っ直ぐだ。頼むな、ゴブリン」
俺が拘束を解きつつ、改めて(真っ直ぐ、進行)と、分かりやすく頼むと、ゴブリンは「ヴアゥ」と言って、頷いてくれた。
やはり、ゴブリンは俺達に合わせて、ゆっくり歩いてくれていた様で、普通に歩くだけでも、それなりの速度に感じた。
「す、すごいですね!」
移り行く景色に興奮気味のコグモ。
俺の飛行の時とは違う安定感があるからな。
こういう移動の方が安心して楽しめるのだろう。
「これからゴブリンが仲間になれば、移動範囲も広がりそうだな」
俺は、褒める代わりに、ゴブリンの耳を糸でくすぐってやっりながら、呟く。
「そうですね!物運びや、建築なんかの繊細で、力のいる仕事も、この腕と知能なら行えますね!」
興奮気味に話すコグモ。
やはり、元気いっぱいのコグモは子どもらしくて好きだ。
まぁ、興奮する内容が、仕事が
ただ、生活を回すので忙しい彼女には、それしか思い浮かばないのかもしれない。
そう考えると、少し、罪悪感と言うか……。
(俺も、頑張らなきゃな)
内心、ぽつりと呟いて、心を引き締め直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます