第81話
「なぁ、お前たちの家、上空から見れば分かるか?」
糸に包んだ朝ご飯を、歩きながら食べているコグモ。
俺はその姿が見えない数歩先の位置から話しかける。
「……そうですね。私自身、空を飛んだことがないので分からないですが、上空から見れば、直接家を見つけられなくとも、目印になる物が目に入るかもしれません」
そんな彼女の提案を受け、空を飛ぶことになった訳だが……。
「ちょ!貴方!どこ触ってるんですか!」
後ろから抱き着く俺に抗議する、コグモ。
「なんだよ!どこも触ってねぇよ!というか、何処も触るほど、出てねぇよ!」
暴れるコグモ。それを背後から抑え込もうとする俺。俺が女の姿だったとしても、完全にアウトだ。
「そもそも、あれだろ?!別に、人間の体じゃねぇだろ?!」
「それはそうですが!お嬢様にカスタマイズして頂いたおかげで、感覚は人間のそれなんです!貴方もそうでしょう?!」
怒るコグモ。……だが、確かに、コグモの言う通りでもある。
「分かった、こうしよう」
俺は手首から糸を出すと、コグモを巻きつけて行く。
「な!何するんですか!」
さらに怒るコグモ。
「いやいや、お前を糸でグルグル巻きにすれば、変な所は触らないで済むだろ?それに、ほら、空中で暴れられて、落ちても大変だし」
俺の説得が通じたのか。頬を膨らませ、嫌そうな顔をしながらも、素直に応じてくれるコグモ。
こう、表情がコロコロ変わると、本当にただの女の子みたいだ。
「私は女の子ではありません。メイドです」
どうやら、思った事が口に出ていた様だ。
俺は「わりぃわりぃ」と、悪びれもせず謝ると、その毛玉を髪の糸と、腕を使って、完全に抱きかかえた。
「んじゃ、行くぞ!助走から入るからな!」
糸を使って木の上に登った俺は、腕の中にいるコグモに声を掛ける。
「は、はぃっ!」
コグモも、初めての飛行に緊張しているようで、大人しくなった。
「あぁぁいきゃぁぁぁぁん!」
俺はいつもより大きくした翼を広げ、アホウドリの様に助走をつける。
「ふらぁぁぁぁぁい!」
木の枝先から飛び降りると、一瞬、二人分の体重で、落下する。
「ふえぇぇぇ!!」
良く分からない叫び声をあげるコグモ。
しかし、俺が精一杯、翼をはためかせる事で、落下しきる前に上昇し始める。
「よぉぉぉし!上手く行った!」
何とか、森を抜ける事が出来た俺達。
大きな翼をはためかせる為の、根元の繊維が切れる前に、何とか上空の風に乗る事が出来た。
俺は、自分たちの顔の前に、糸で風よけの幕を張る。
「す、すごいです!」
風よけのおかげで、やっと目を見開く事が出来たのか、下の風景を見て、子どもの様に
先程まで、死にそうな声を上げていたとは思えない程、元気な声だ。
「どうだ?!気持ち良いだろう?!」
俺が得意げに話しかけると、素直な声で「はい!」と、答えが返って来た。
正直、俺が最初飛べた時なんて、気持ち良いどころか、緊張感で気持ち悪くなったものだが、コグモは肝っ玉が
「目印になりそうな物、あったか?!」
俺の問いに、コグモは楽しそうな声で「ぜぇ~んぜん!」と、答える。
思わず、俺は力が抜けそうになったが、ここは上空なので踏ん張る。
「あ!でも、あそこ!あそこの川にある大岩の辺りからなら、家に帰れます!」
彼女の視線の方向には、確かに、川と、それに流されて来たのか、河原の中に転がる、大岩が見て取れた。
「分かった!行くぞ!」
俺は翼をたたみ、空気抵抗を弱めると、一気に落下していく。
「ひゃやぁぁぁぁぁ!」
怖いんだか、嬉しいんだか、元気にはしゃぐコグモの声。
俺なんて、リミアの中にいる時、何度も気絶と言うのに、本当にすごい奴だ。
「お~らよっと!」
俺は良い感じの所で翼を広げると、ゆっくりと河原へ降りて行く。
こうして、コグモの初飛行は無事、終了した。
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