社畜転生 ～生まれ変わった社畜が、最強のワガママを目指すまで～

第63話

　（はぁ、はぁ、ご、ご主人様……）

　俺は今、非常に気色の悪いウサギの上に乗って、移動中である。

　（そ、そろそろご褒美を頂けませんか？）

　「……ハイハイ……」

　俺はげんなりとしながら、糸を引っ張る。

　（ヒャウン！………だ、ダメです！切れが！あの夜のような切れがありません！）

　「うっせぇぇぇ！！！」

　俺はブチギレて、糸を思いっきり引っ張ると、ウサギは（ウヒャァァァァ！！）と言いながら、気持ち良さそうに身を震わせ、果てた。

　「こんな気持ちわりぃ乗りもん、乗ってられっか！！」

　俺はウサギから翼を広げて飛び上がる。

　（そ、そんなぁ……。ご主人様ぁ……）

　果てたはずのウサギは、既に復活しており、懇願（こんがん）するような声を上げて来る。

　因みに、俺があれだけの強さで、神経の糸を引っ張られた場合、オーバーキルで、10回はショック死する自信がある。

　気持ち悪さも、耐久力も、マジ物の化け物だ。

　「変な声出すな。気色悪い。俺は飛ぶから、ご褒美はやらん。これでも食っとけ！」

　俺は適当な木の実をもぐと、ウサギの前へ叩きつけた。

　一瞬頭の中に（じらされて、冷たくされると、これはこれで……）みたいな、声が流れて来たが、聞かなかった事にした。

　と言うか、もうそれで良いから、俺に係わらないでくれ！！

　（あ！ま、待ってくださいよぉ！）

　上手く飛べるようになった俺は、性獣から距離を取るべく、木々の間を抜け、上空へと舞い上がった。

　「ん？あれは………」

　木々の隙間、何やら、木から木へ飛び移る、人影の様な物が見えた。

　それも、複数体であるので、見間違いではないだろう。

　どうやら影は、森の出口へと向かっているらしい。

　そして、森の外からも、人が森に向かって歩いて来るのが見えた。

　「……そう言えば、人間をちゃんと見た事って、無かったよな……」

　俺は、糸を通して、変態ウサギに（敵が来る！隠れてろ！もし夕方までに戻らなかったら、好きにして良いからな！）と、声を掛け、糸を切る。

　どうせ、あの人影たちを追えば、切れる糸だ。何かを言い返される前に、切った方が良い。

　森の外から来た影は、どんどんと森の奥深くへと入って行く。

　対して、森の中の影は、森から出る気がないのか、一定の場所で、動きを止めていた。

　俺は、両者の人影が合流すると思われる地点へと翼を進める。

　この世界で初めて見る人間だ。

　何かを期待しているわけではない。

　集落を見れば、木と土と石でできた壁に、カヤブキの屋根。文明レベルが低い事が見て取れる。

　そいう場所は、日本でも海外でも、排他的な場所が多いイメージがある。

　加えて言えば、俺は人間ではない。

　どちらかと言えば、出会う事により、起こりうる衝突の可能性に、恐怖を感じた。

　それでも、俺が翼を止められなかったのは、好奇心に勝てなかったからだろう。

　低いとは言え、文明と言う物は、それだけ恋しい物であった。