第22話

 (……またこいつか……)

 俺は、盛り上がった地面を見て、呆れる。

 

 (……まぁ、今日の獲物は、こいつでいいか)

 盛り上がった地面の周りを、トントンと、叩く。

 すると、盛り上がっていた地面が蓋のように開き、穴の中から幼虫が飛び出してくる。

 

 幼虫はすぐに穴に戻ろうとするが、その横で構えていた俺は、幼虫の柔らかい胴体に噛み付き、穴から引き摺り出す。

 

 穴から引き釣り出された幼虫は、巨大な牙を振り回し暴れる。

 その体長は、俺の優に4,5倍はあり、その重い体で押しつぶされれば、一溜りも無いだろう。

 

 なので、俺は引き出す際に、その柔らかい体を少し引き裂いただけで、離脱する。

 

 暫く観察していると、幼虫は落ち着きを取り戻し、巣に戻ろうと、俺に背を向けた。

 俺は、その隙に、あわよくば、裂傷をつける。程度の気持ちで、適当な部分に噛み付く。

 すると、また暴れ始めるので、離脱。落ち着くのを待って、噛みつき、暴れさせ、離脱。これを繰り返していく。


 最後には、体力を消耗しきり、暴れる力も残っていない、ただの肉塊が残った。

 

 俺は、それを美味しい頭の部分だけを食べ、後は、放っておく。重くて運べない上に、獲物はいくらでもいるのだ。

 まぁ、次、来た時に残っていたら、食ってやっても良いかもしれないが、多分、日が暮れる前には、跡形も無くなっているだろう。

 

 (………帰るか…)

 まだ、洞を出て来たばかりだが、腹が一杯になっては、する事がない。

 数日前までは、洞に帰らず暴れまわっていたが、最近、お腹が重くなり、動く気になれないのだ。

 しかし、何故か、お腹は以前に比べ、異常に減る様にもなった。

 食べ過ぎで、お腹が可笑しくなったのかもしれない。

 

 洞の巣に戻ろうと、枯葉の上を歩いていると、枯葉の迷彩をほどこした蜘蛛が、枯葉の上からこちらを見ていた。

 

 (はぁ……)

 基本的に、俺を襲ってくるのは、隠れて待ち伏せ型ばかり。それも、巣型か、逃げ足の速い奴しかいないのだ。

 真っ当に戦いを挑んでくるのは、同族くらいで、後は俺に興味を示さないか、最初から逃げていく。

 

 そして、こいつは逃げ足の速い待ち伏せ型。

 襲い掛かれば、一瞬で逃げだす上に、追いつく事も出来ない、むかつくタイプの奴だ。

 かと言って、放っておいて、後をついてこられるのも面倒なので、適当に脅して、散らしておく。

 

 (……まぁ、俺らなんて、食うとこないし、無駄に戦闘力はあるし、腹には酸が詰まってるし、割に合わないんだよな)

 俺は、自身の捕食事情を考察しつつ、幹を登り始める。

 無駄に大きくなった腹が、本当に邪魔だった。

 

 洞に付いた俺は、お腹を休める為、葉っぱと植物の繊維で作ったベッドに寝転ぶ。

 散々暴れまわった挙句、死ぬ恐怖を克服できなかった俺は、今日もこうやって、だらだらと生き続けているのだ。


 (ただいま。クリナ)

 クリナの匂いがする、繭の様な物を抱き寄せ、俺は眠りにつく。


 今日も、やっと悪夢から目覚められそうだ。

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