第20話

 (………)

 光差し込む、洞の中。

 横になり、足を折り畳んだまま、動かないクリナ。

 

 (クリナ………)

 俺が触れると、怯えた様に、足をバタつかせる。

 しかし、動くのは足だけ。その足ですら、ろくに動かず、たまたま床に当たれば、横になった体を滑らす程度だった。


 怯えさせてどうする!

 (ごめん………) 

 俺は、クリナから距離を取った。

 

 暫く、そっとしておけば、クリナは動かなくなる。

 その姿が、落ち着いているのか、死んでしまっているのか、分からずに、俺は不安になった。

 

 しかし、暴れさせて、体力を消耗させるのも、得策ではない。

 俺は、じっと、彼女が回復するのを待つ。

 

 (…………)

 彼女に目立った外傷はみられなかった。

 もしかしたら、毒を注入されたのかもしれない。

 ……その場合、回復するのか?

 

 (…………)

 彼女の腹は、まだ、昨晩の分の食糧で膨らんでいた。彼女が飢える事は無いだろう。

 それに、今の彼女は怯えている。何も見えない状況で、突然攻撃されたのだ。誰だって、恐怖する。

 

 (…………)

 俺にできるのは、待つ事だけだ。

 彼女の、体と、心の傷が癒えるのを、ただ待つ事だけ。

 

 (…………腹…、減ったな……)

 俺は、洞の外を見る。外はまだ、明るかった。

 

 (……ご飯…、取って来るよ……)

 正直、腹がどうこうなんて、関係なかった。

 ただただ、彼女を見ている事しかできない事実が辛かった。

 痛々しい彼女を直視し続けるのが、辛かった。

 

 もしかしたら、昨日、食べ残したアブラムシモドキの死骸が残っているかもしれない。

 そうでなくても、また狩れば良いだけだ。

 

 (……行ってくるな)

 洞から出る瞬間、彼女の方を振り返るが、反応はなかった。

 

 俺は洞から出ると、食事を求めて歩き回る。

 案の定と言うか、アブラムシモドキの死骸は残っていた。

 やはり、カゲロウモドキ達はこいつらの匂いに反応する様で、時間が経って、無臭になった、こいつらには、気付け無い様だった。

 

 付け加えて言うなら、匂いと水分の抜けたアブラムシモドキは、干物の様で美味しかった。

 しかし、喉が渇く。

 

 アブラムシの様に、木の葉を傷つけ、汁を吸ってみる。

 

 (まっじぃ……)

 家庭菜園をしていた時、防虫の為に、虫の嫌がる成分を出すと聞いた事がある。これは、そういう物なのかもしれない。

 

 と、葉の切り口から、嗅ぎなれた匂いが漂って来る。

 (そうか、この匂い、アブラムシモドキのあれは、これを濃縮したもんだったのか……)

 

 不味いは不味いが、何とか喉を潤せた。

 満足した俺は、傷をつけた部分から、裂くようにして、木の葉を一枚ちぎる。

 これがあれば、洞の口を塞いだり、乾かして、匂いを抜けば、クリナの布団にもなるはずだ。

 

 (おいしょっと……)

 欲張って、少し、大きく切りすぎたかもしれないが、良いお土産ができた。

 少しでも、クリナの為になると思うと、少し嬉しくなる。


 (おわっ!…と……)

 持ち上げた葉が、風を受けて飛ばされそうになった。

 

 (気を抜くといつもこうだな……)

 俺は、木にしがみ付くと、吹き飛ばされない様に、慎重に前へと進みだした。

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