四年も待たせやがってコノヤローッ!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

あれから四年……

『創世記 ジャンガリアン』

 


 そのアニメ映画は、四年に一度公開される。

 前・中・後編の三部構成作品だ。

 

 前編が八年前、テレビシリーズの再編集版だった。

 四年前に上映された中編も、同じ内容だろう。と思わせて怒濤の改編というサプライズが!

 

 ラストで、主人公の行いが全て裏目に出るという最悪の展開になった。


 あれから四年、どのような結末を迎えるのか。


「さてさて、四年も待たせやがってコノヤロー」

 


 私たち三人は、それぞれの席に座った。

 ただ、左隣は開いている。誰も座る気配はない。



「なあアヤカ、あいつ来ないの?」


 私を心配して、右端のユースケが問いかけてきた。

「ジュンペー? 知らないよあんなやつ!」

 ムスッとなって、ポップコーンに手を伸ばす。

 リサとユースケが、呆れたように笑う。

 

 高校一年から一緒だった私たちも、もう二〇を過ぎている。



 リサは大学卒業後、ユースケと結婚した。七ヶ月後に、二人目が生まれる。


「あれ、そういえばさ、マイコちゃんは?」

「別館で親と一緒に『ビューティーヒール』見てる」

「今日は離ればなれなんだ!」

「一歳だし。子どもは、いつ泣くか分からないから」


 前に一度、同監督が作成した怪獣映画を見せに行った時のこと。

 自分の子だから怪獣如きで泣くまいと、高をくくったのが裏目に。

 盛大にギャン泣きしてしまった。

 

 客のひんしゅくを買って退席して以来、小さい子どもを映画に連れて行くのは自粛しているそうな。

 見られなかった映画もブルーレイで見直したという。

 だから、泣いてもOKな「応援可能上映」の映画を見せているらしい。


「それよりお前だよアヤカ。もう四年だぜ?」

「そうよ。あの頃のアンタも、ギャン泣きだったじゃん」



 私は四年前、いきなり別れを切り出されたのだ。



       ◇ * ◇ * ◇ * ◇



 八年前、私たちが文芸部に入った頃、この映画の前編が公開された。


 当時の私はアニメに疎くて、熱心に布教してきた男性が印象深い。

 その男性こそ、ジュンペーである。


 この男にだけは、恋に落ちることなどあり得ない。そう思っていた。

 けれど、一途で熱心なジュンペーに引かれていったのは確かだ。

 彼は否定していたが、惚れたのは、間違いなく私の方だろう。



 なのに、いや、それゆえか。



 衝突も多くなっていく。



 私の理想から、彼はかけ離れていった。


 物書きになると言う彼の夢が、鎖になって彼を繋いでいるように、当時は思えたのだ。



 その後、

「オレが一人前になるまで、距離を置こう」

 と、一方的に切り出され。


 私だって気にしている。

 作家の仕事を夢見ていた彼に、「正社員じゃないとイヤ!」と突き放したのだから。



  ◇ * ◇ * ◇ * ◇



「いいの。私がいたら、あの人を束縛してしまうでしょ? 伸び伸び、作家の活動してればいいんだから!」


 そう、私のコトなんて気にしないで欲しい。


 これでよかったのだ。


 館内が暗くなって、映画が始まった。


 上映中マナー啓発動画が流れ、映画泥棒が踊る。


 約二時間、私は画面に釘付けになった。取り憑かれたと形容してもいいだろう。それくらい引き込まれた。

 ポップコーンに手を付けることすら忘れ、夢中でドラマを追う。


 素晴らしい。

 四年前の鬱展開を見事に昇華し、逆転に転じさせた手法は、涙すら誘った。


 これが映画だ。こういうドラマを書かないと!


 ここにジュンペーがいたら、私はそう語っていただろう。

 


 物語は、私たちギャラリーの想像とは随分とかけ離れていた。

 が、主人公の望んだ結末に落ち着く。

 ビターエンドというか。

 メリーバッドエンドでは断じてない。


 ほろ苦いが、主人公たちは生きているし、幸せを掴んでいる。



 映画は最高潮に達し、私は席を立てなかった。


 スタッフロールが流れ、声優さんの名前があがってくる。

 


 そんなとき、場違いな客が私の隣に座った。


「ごめん。遅くなった」


 いつもの低い声。ああ、心が揺れ動きそうになる。 

 

 ジュンペーだ。


 確かに、ジュンペーがいた。


 でも、今さら何をしに来たのか?



 映画はもう、とっくに終わっているのに。




「次も一緒に見よう」って、別れる前に誓い合ったのに。




「作家にはなれた?」

「いや、なれなかった。小説家には」


 私は、何も言葉が出ない。


「でさぁ、仕事、探してた。」

「どこかの正社員になったの?」


「それがさ」



 彼は、スクリーンを指さした。

 


「うそ……」






 

 脚本:衣笠 淳平




 



 ジュンペーの名前があった。


「オレ、夢かなったよ」



 驚いた顔のまま、リサとユースケが小さな声で「おめでとう」と言う。音を立てずに手を叩く。

 

「だから、また付き合ってくれますか?」


 閉じ込めていた感情が、一気に溢れ出した。

 


「四年も待たせやがって、コノヤロー!」

 


 その怒声は、歓喜に包まれていた。


 マナーなんて、知るもんか。

 

(完)

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