第6話

「困ったわね。

 命の恩人にお礼はしたいけれど、自分の命に見合うお礼が私にできるかしら?」


「ふぇふぇふぇ。

 小僧はまだ女を知らないからな。

 筆おろしでもしてやってくれ」


「それくらいならお安い御用だけど、そんな事でいいの?」


 俺は、絶句して固まってしまった。

 なんつぅ会話だ!

 俺のことを何だと思ってやがる!

 女だけの会話は露骨だと聞いたことはあるが、それにしてもだ!

 俺が童貞だというのを知っているのも問題だが、それを妙齢の女性に、しかも俺がいる前で話すなんて、パワハラというべきが児童虐待というべきか?

 もう俺は児童という歳ではないけれど……


「なに固まっておる、小僧!

 よく相手を見ろ。

 小僧の大好きなエルフだ、見かけ通りの歳じゃない。

 わしなんかよりずっとずっと年上だ。

 酸いも甘いも噛み分けるどころか、灰汁が出て苦くなるくらい生きておるわ」


「酷い言い方だけど、間違いとも言えないわね。

 でもこの子結構歳じゃない?

 この歳で童貞なんて、何か問題でもあるの?」


 ああ、やめてくれ!

 異世界への憧れが、エルフへの憧憬が、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 確かに冷静に考えれば、何百年も生きるエルフが人生経験豊かなのは当然だ。

 恋愛経験も人間の何十何百倍とあるだろう。

 でも、男の、中二病の夢というもんがあるんだ。


「ふぇふぇふぇ。

 箱入り息子なんじゃよ。

 真綿でくるむように、大切に大切に育てられ、今日初めて屋敷を出たんだ。

 優しく相手してやってくれ」


「そうなの、分かったわ。

 こんな武器を持っている家の御曹司だものね。

 一生忘れない思い出にしてあげるわ」


 ああ、なんと情けない男の性だ。

 興奮して、あれが邪魔で戦えない。

 それに、興味と期待で断ることもできない!

 反論して、だったらやめようかと言われるのがいやだ。

 初めての相手がエルフなんて、中二病の夢が膨らんで爆発しそうだ。


 でも気恥ずかしいのも全開だ。

 特に今興奮しているを知られるのが恥ずかしくて怖い。

 下半身に刺激を与えないように、手だけで槍を振り回し、射程範囲に入ったゴブリンを叩き殺す。


 そんな俺の方を見て、百婆ちゃんはニタニタを笑いやがる。

 エルフのお姉さんは……何もかも見透かしたような優しい笑顔を向けてくれる。

 顔が火照って真っ赤になっているのが分かる。

 心臓が早鐘のように連打していて苦しいほどだ。

 何とも言えない快感がお尻の穴から背中を駆け上る。

 俺なんか変な趣味に走ってしまうのではなかろうか?


 本当にエルフのお姉さんと初体験できるのだろうか?

 期待と不安で頭が爆発しそうだ!

 


 

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