第5話
「ウォォォォォ!
どけ、どけ、どきやがれ!
人間様を舐めるじゃねぇ!」
「ふぇふぇふぇ。
青春じゃのう」
百婆ちゃんはからかうが、そんな場合じゃないだろう!
女の子が襲われているのに、なに余裕こいているんだよ!
絶対に俺より強いんだから、さっさと助けろよ!
「どけ、死ね、邪魔だ!」
転移魔法なのか何なのか分からないけれど、いきなり場所が変わった。
そこにはコボルトよりは大きいけれど、平均的な日本人よりは小さい、緑の肌をした人型が数多くいた。
しかもすでに誰かと戦っている。
戦っている相手は明らかな人間で、しかも女の子に見える。
女の子の周りには、血塗れで倒れている人間が数人いる。
その人間のなかには、頭が潰れている者もいれば、首のない人間もいる。
それを理解したとたん、無意識に走り出していた。
体が勝手に動いて、進路を妨げるゴブリンを叩き殺していた。
どういう材質なのかはわからないが、百婆ちゃんが貸してくれた蜻蛉切という名の大きくしなる槍を、縦横無尽に振り回して駆け抜けた。
俺の知る戦国時代の槍は、柄のしなりを利用した打撃兵器だ。
斬る突くよりも、しなりを利用して敵の胴や頭を叩き、肋骨を叩き折ったり脳震盪を起こさせたりする兵器だ。
だが蜻蛉切は違う!
確かに槍先の腹で叩いたときは斬ることはない。
だがその破壊力は、脳震盪や骨折ではすまないのだ。
頭部に当たれば頭蓋事を粉砕して脳漿をぶちまける!
胴に当たれば全ての骨と内臓を粉砕破裂させる!
槍先の刃の部分が当たれば、一刀両断にする!
「安心しろ!
死ななくていい!」
何故か分かってしまった。
この娘が自殺を覚悟していることを。
過去読んだことのある多くの小説や、観たことのあるアニメで描かれているゴブリンの習性を思い起こせば、女性を子を産む道具にするようだ。
彼女は劣情の餌食になるくらいなら死を選ぶのだろう。
それがこの世界の常識かどうかは分からないが、少なくともこの娘は死を選ぶ。
絶対に死なせない!
眼の前で女の子を死なせてたまるか!
中二病と笑うなら笑え!
百婆ちゃんに騙されて異世界に来てしまったけれど、来た以上は自分の好き勝手させてもらう。
「これを使え!」
俺は百婆ちゃんが貸してくれた鬼丸という剣を鞘ごと娘に渡した。
後で百婆ちゃんに怒られるかもしれないけれど、知るもんか!
この状況で、武器を失った娘に予備の武器を貸さない選択などない。
「やぁぁぁあ!」
何と美しい声なんだ?
鬼丸を渡した途端、裂帛の気合とともに娘は立て続けに六鬼のゴブリンを斬り斃し、懐から素焼きの壺を取り出すとグビリと一息で飲み、お礼を言ってきた。
「ありがとう。
生きて帰らたら必ずお礼はする」
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