第10話
索敵範囲は俺を中心に動き続けているため、妨害から逃れるために走り回っていた賊は俺が近づくにつれ逃げ場を完全に失い、とうとう目視出来るところまで追いついた。
ダッシュで距離を詰め、不意打ち気味に奇襲を掛けたが躱された。
「よう、逃さねーよ」
「ちっ!てめぇ、さっきまで王女のとこに居たじゃねぇか!何故ここが分かった!」
「この索敵と妨害は俺がやってるからな」
「なに!?お前、王宮騎士じゃ無いのか!?」
「元冒険者だ」
「元冒険者で、索敵と妨害を同時に使う剣士。そしてこのおれより確実に強い。それなのにこの若さ・・・待て、まさかお前は・・・いや、そんな筈は・・・」
「もういいか?」
答えは聞かずに床を蹴った。
「お前は、3年前に行方不明になった筈だろ!?」
「へー、そんな扱いなのか。と、捕まえた。大人しくしろよ?一歩間違えば死ぬぞ」
少し抵抗されたが、接近戦は得意じゃ無いらしく、あっさり捕まえることができた。
「わ、分かってる。あの"黒影のゼン"に捕まってから逆らうなんてバカはしない」
「その二つ名不本意なんだけどな・・・まあいいや。牢屋に放り込むけど、逃げようとか思うなよ?逃げようとした瞬間殺しに行くから」
「十二分に分かってるさ」
賊を牢屋に放り込み、魔力妨害は続けたまま一度王室まで戻った。
王室まで戻ると、流石に索敵&妨害を派手にやり過ぎたせいでサラさんが慌てふためいていた。
よくよく考えればまともに魔力操作するのなんてこの人たちの前で見せた事ないから賊の仕業だと勘違いされてるんじゃ・・・。マズい。
「あ、えーっと、ただいま戻りました」
「ユーゼン!おかえり!」
「ただいま、アリシア。・・・で、サラさん」
「なに?今は悠長に話聞いてる余裕なんて無いわよ?」
「じゃ手短に。今王宮内に広がってる索敵と妨害の魔力は俺のです」
「・・・・・・・・・は!?」
サラさんが何言ってんだこいつ。みたいな目をこっちに。
グレンさんと国王から若干安堵の息が漏れたのはサラさんの混乱が収まったからかな?
「ちょっとユーゼン、貴方が魔法使えるなんて聞いてないわよ?」
「そりゃ言ってないですからね。使う機会が今までなかったので」
「それ、魔力回路が錆び付いてるはずよね?」
「錆び付いてました。アリシアに魔力流してもらって無理矢理こじ開けましたけど」
「なっ!貴方それ、一歩間違えば死んでたわよ!?」
「でしょうね。そんな確率は万に一つも無かったですが」
「そんなわけないでしょう・・・」
「あるんですよ。コツがあるので、知ってればまず死ぬ事はありません」
聞いたことない、あるわけないと言い出したので、この国ではメジャーな技術では無いことにようやく気がついた。
なので、冒険者時代に割と普通に教えてもらった事と、そのコツを言葉で教えると目から鱗が落ちた幻覚が見えるくらい唖然としていた。
「さて、とりあえずこの話はこの辺にして、例の賊の事ですが」
「ふむ、どう処罰するかはこちらに任せてもらおう。拘束手段に関しては魔導師団長に任せる。ユーゼン、お前は魔導師団長に協力するように」
「は!承りました」
「了解です。アリシア、もう少しここで待っててくれないか?」
「うん、分かった」
「ごめんな。ありがとう」
うーん、護衛なのに結局ほとんど側に居れてないのはどうなんだろう・・・?状況考えるとしょうがないっちゃしょうがないんだけど、別に俺じゃなくても代役がすぐ見つかるような役割だしな。
いや、うん。国王に命を受けたんだからどうこう言ってもどうしようもないんだけとね。
「ユーゼン、心配しなくてもすぐ終わらせるから。早く行きましょう」
「あ、はい」
どうやら顔に出てたらしい。サラさんに気を遣わせてしまった。
申し訳なく思いながらサラさんの後に続いて牢に向かった。
賊が入っている牢まで行くと、恐らく魔道具であろう手錠を取り出し後ろ手に取り付けた。少しして、賊の魔力が感知できなくなった。
「ユーゼン、もう妨害は良いわ。この魔道具で魔力を封じてるから」
「分かりました」
その言葉に従い、索敵と妨害をやめた。その代わり警戒レベルを引き上げた。その結果、殺気も同時に強くなったらしく賊が過呼吸を起こしてしまった。
慌てて殺気を引っ込めて賊に深呼吸をさせ落ち着かせた。そして俺はサラさんに怒られた。
うん、しょうがない。今のは俺が全面的に悪い。
気を取り直して話を聞いていくと、どうやら今回のスタンピード騒ぎとは別の賊だということが判明した。だが、スタンピード騒ぎの賊と同じ格好、身長の人物からの依頼で動いていた事も分かった。
依頼内容は誰でもいいから王族を1人捕らえる事。どうするかは分からなかったが、大方人質だろう。
「なぜ王女を狙ったの?」
「王女の護衛は変装しやすい無能な副団長だったからだ」
賊にすら無能と思われてるのか、うちの副団長殿は・・・。
まあ本当のことだからなにも言えないんだけどね。
「護衛の居ない王子を狙う選択肢は無かったの?」
「この国の王子はやり手で有名だから選択肢に無かった」
なるほどな。確かにあの人はやり手だし俺やグレンさんの入れ知恵もあって王宮剣術の他にも確かな強さがある。間違いなく副団長より上だろう。
となると、この賊の選択は正しかった訳だ。
「依頼達成の場合、あんたへの報酬は何だったんだ?」
「あー、その、笑わないでくれよ?」
「「いいから言え」」
「オレの居場所を与えるって」
「「つまり?」」
「家族をくれるって話だったんだ」
「あんたそれ信じたのか?バカだろ」
「あ、いや!本当に信じてた訳じゃ無いんだ!その、半分脅しにも似た依頼だったからさ!」
「その辺詳しくお願い」
あ、サラさんの目が変わった。これガチのやつだ。
それからしばらく、賊は根掘り葉掘り生い立ちから依頼に至るまでを吐かされていた。
結果、依頼した賊との関係は全くない。おまけに今回はじめて悪事を働いたことも判明。
嘘ではない事は尋問が始まってから使っているサラさん特製の嘘探知の魔道具のおかげで分かる。
そして脅しというのは引き受けなかった場合、この賊の名前で大量殺人を行うといいうものだった。
脅しに似たというか、完全に脅しじゃん。
もう一つ、報酬についてだが、こちらは賊の生い立ちに関係があった。
生い立ちといっても物心つく前に親に捨てられ、拾ってくれた教会は燃やされ、これまで冒険者として必死に生きてきたというだけだ。
「この生い立ち、どこかの誰かさんによく似てるわね」
「俺のとはちょっと違いますよ?」
「でも似てるでしょ?」
「まあ、確かに似てますね」
「ねぇあなた、もう悪さする気はない?」
「ない!ないよ!そもそも最初からやりたくなかったんだってば!」
嘘探知の魔道具は・・・反応なし。
「白ね」
「白ですね。・・・あとの事は国王に相談しましょうか」
「そうね、そうしましょう。国王に話してくるから待ってなさい」
「はい」
地下牢から出て王室に向かっていると、もうアリシアの護衛に戻って良いと言われたので有り難く戻らせてもらう事にした。
ただ、去り際に『あなたの知ってる魔法の知識についてちょっと話があるから、また今度お願いね』と本気の目で言われたのがちょっと怖かった。
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