第7話

「よし、とっとと終わらせて飯でも食べに行こうか。何食っても良いし何飲んでも良い。どんな高価なものでも好きなだけ飲み食いしろ。全部俺が払う。だから死ぬな。ケガもかすり傷程度で済ませろ。出来ないなんて言わせないからな?騎士団の強さは、王宮騎士の中じゃ俺が一番よく知ってる。出来ないはずがないって信じてる。さて、行こうか」


 状況が状況なので軽めの演説で本当に上がるか分からない士気を上げるよう試みてから、城壁を降りた。

 降りてる最中に歓声が上がっていたから、まあ多分、士気は上がったのだろう。

 全小隊の先頭立ち、騎士長の合図を待つ。


「今だ!交代しろ!!」


 合図が、というか指示が出た。


「総員!!突撃!!」


「「「うおおぉぉぉぉ!!!!」」」


 俺の叫びに呼応して雄叫びを上げて突進し始める騎士団の方を何人かの冒険者が驚いたように振り返って見ていたが、気にしたら負けだろう。

 かく言う俺も思ったより雄叫びを上げる騎士団に少し驚いていたが、まあ気にしたら負けだ。

 先に戦っていた小隊の横を抜け、最前線まで飛び出した俺は、とりあえず交代のための隙を作る事にする。

 突進の勢いを利用して、目の前に現れた魔物をタックルで吹っ飛ばし後ろの魔物を数体巻き添えにする。

 重なったところを突き刺してきっちり止めを刺してから次に。

 流石に数が多いのでちまちまやってるとキリがない。だからこそ、騎士団より前にいる冒険者には申し訳ないが、殺気を全開にして出来る限りの魔物を怯ませる。

 案の定冒険者が一定数ビビってしまったので、後で謝りに行こう。

 少なくとも俺の前方10メートルの範囲内にいる魔物は全て怯んでくれたので全速力で切り刻んだ。

 情けないことに7メートルくらいまでの魔物までしか倒せなかったが、王宮剣術で戦っているからと言い訳しておこう。

 後ろから「すげえ」だの「バケモンかよ」だの感嘆の声や失礼な声が上がっている。

 いやお前ら集中しろ?

 少し余裕が出来たので真後ろにいる小隊に声をかける。


「交代は!?」


「お、終わりました!!」


「よし、ここから俺は殲滅に動く!お前たちは騎士長の指示に従え!絶対に俺を追って来るなよ!深追いもするな!いいな!?」


「「はっ!!」」


「ふぅー。実戦は久しぶりだな・・・行くか」


 冒険者時代の癖を思い出しながら平和ボケしている脳みそに発破をかけてスイッチを入れる。

 まずは数を減らそう。

 大まかすぎる計画を立ててから目の前の敵に突っ込んだ。

 刺突、袈裟斬り、横薙ぎ、返しでもう一回、左上段、また刺突へ。

 このサイクルが基本的な王宮剣術のやり方だ。出来る限りそれに従い一振りで最低一体は殺しながら進んでいく。

 世界共通の魔物のランクで言えば、おそらくEランク相当の集まりか。まあこれだけ集まれば危険度はDランクなんだろう。

 いや、報告では危険度はCランクだったはずだ。

 1番ランクの低いFランクも混ざってるのにCランク?頭のランクが高いのか。

 となれば単体でB未満D以上か。Aや1番上のSじゃじゃないだけマシか。

 Fランクは無視してEランクを見つけたそばから斬り続ける。

 上手い具合に冒険者が左右に分かれているので俺は中央だけで済んでいるが、冒険者が居なかったらと思うとゾッとする。


「守るものが後ろにあるってのは、こういう感じなんだな」


 感慨深さを覚えて思わず呟きながら、尚も斬り続ける。

 おかしい。いくらなんでも数が多すぎる。まさか、増え続けてるのか?

 すぐにあり得ないと思い直すが、その可能性が頭の隅から離れない。

 今回のような厄介極まりないスタンピードでも魔物が増え続けるなんてことはない。

 じゃあ今のこれはどう説明するんだ?報告されていた数を俺1人でゆうに超えて斬り伏せているこの状況は。

 意を決して思い切り上に飛んだ。

 奥を見ると、森の方角から続々と追加の魔物が集まってきている。

 やはり、そうか。これは人為的なものだ。

 Eランクまでの魔物しか集まっていない理由もこれなら無理やり説明出来る。


「クソッタレ!!」


 着地して、飛び上がった時に見えた知り合いの冒険者の元に憂さ晴らしに目につく魔物を殺しながら、かつ全速力で向かった。


「アレスさん!頼みがあります」


「あ?・・・ぅお!?ゼ、ゼン!?おま、どうしてここに、つかその格好・・・」


「あ、今この国の王宮騎士やってます。って、その話は後にして下さい。それと手も止めないで貰って良いですか?」


「お、おう」


「みなさんもお久しぶりです。それで、頼みなんですが・・・」


 出来るだけ短く端的に。森にこの騒ぎの首謀者が居る可能性とその根拠を伝え、そいつの発見及び拘束、そして俺に引き渡す依頼をした。

 もちろん報酬も出すと言ってある。


「・・・よし分かった。と言いたいところだが、正直おれたちがここを離れるとキツくないか?」


「俺がカバーするのでご心配なく」


「ならいい。その依頼、受けさせてもらう。お前ら!話は聞こえてたな!?行くぞ!!」


「「了解!」」


「お願いします」


 即座に動き出してくれたのを見届けて、こっちはこっちのやるべきことを再開する。

 いくら人為的なものだとしても、切っ掛けは作れない筈だ。

 つまり、スタンピードが起こったのは偶然。それを誘導、肥大化させたのが探してもらってる何者かという事になる。

 なら俺のやるべき事は・・・とりあえず戦線維持だな!

 考えに意識を向けすぎて戦線維持が疎かになって来ていた。

 気を取り直してしばらくは騎士だけでも抑えられるくらいまで数と比較的ランクの高い魔物を減らそう。

 この辺りは大丈夫そうだな。無意識でも最低限の役割はこなしてたみたいだ。

 てことは・・・やっぱり。中央がちょっとまずい。

 憂さ晴らしついでに通ってきた道をそのままさっきと同じ速度で戻るかな。

 あ、Dランクだ。倒しとくか。

 少し道が逸れたが無事一撃で葬り去り、中央まで戻ってきた。

 ざっと見渡し、敵の多い所を優先的に潰していく。

 だいたい片付いて落ち着いてきた頃、スタンピードの原因を見つけた。

 すぐに近くにいた騎士に伝達し、報告に行かせる。それを討伐しに行く事も伝えてしばらくここを任せる事にした。

 本来なら離れるべきでは無いのだろうが、騎士達の大半が俺以外にも王宮騎士が来ると思っているらしい。だから王宮騎士が1人しか来ない事でこれ以上不安にさせないためにも、ここで決着をつけるのが懸命だ。


「悪いけど頼むな」


「はい!ユーゼン殿もお気を付けて!」


 まだ微妙に堅いんだよな〜。

 思わず苦笑を浮かべてしまいながら真っ直ぐに原因に向かって猛進する。

 原因はDランクのゴブリンジェネラル集団の中に一体だけ混ざっていたCランクの魔物、ゴブリンキングだった。

 ジェネラルは5体か。これはもう危険度CじゃなくてBだな。

 突進の勢いに任せてジェネラルを一体腰から真っ二つにぶった斬る。

 突然目の前で仲間がやられた事でジェネラルが全員固まったので、近くにいたもう一体に横薙ぎで振り切った剣を返して同じようにぶった斬る。

 固まっていなかったキングの攻撃を躱し、3体目のジェネラルの後ろに回る。予想通り味方ごと殺しに来たので真上に飛ぶ。

 真下に突っ込んできたキングの頭を踏み台にして4体目のジェネラルから離れた。

 着地後すぐに大振りの攻撃の最中だったため隙の大きい4体目の首をはねて、胴体をキングに向けて蹴り飛ばす。

 直後に残ったジェネラルが攻撃を仕掛けて来たが、何とか剣で受け流す。

 続けて2撃目、3撃目と攻撃してきたが、これは余裕を持って回避。

 攻撃が止まったのでジェネラルを倒そうと力強く地面を蹴った。そして急ブレーキを掛けた。

 目の前を通り過ぎる刃に顔が引き攣ってしまいながら、大きく後退。

 ジェネラルが縦に真っ二つになり左右に倒れた奥から、斧を振り切った姿勢のまま止まっているキングが姿を現した。


「ちょっと、ヤバイかもな」


 冷や汗が出てきたのを意識しながら、王宮剣術で戦うのを止める事を真剣に検討し始めた。

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