第4話

 うーん、王宮騎士になって約3年。俺にしては長かったかな。

 解雇の危機です。上役にスゲー睨まれてます。国王はちょっと混乱してます。

 現在、国王に挨拶に来ています。そして、俺の立場がいよいよもってやばい。

 俺は今、アリシアの希望通り口調を崩している。国王はともかく、アリシアには完全にタメ口だ。

 上役の数人の額に青筋が見える。ここで俺は奴らに一言ツッコミたい。

 てめぇらいつも団長には何も言わねぇだろうが!!


「ユ、ユーゼン。今度の隣国の王子来国の時のことだが、今アリシアに伝えても良いと思うか?」


「・・・国王、俺がダメって言ってもアリシアに言わされると思うんですけど」


「あ、ごめ。やっちった」


 お茶目か!可愛くねーな!つーかワザとだなこのおっさん!!


「お父様。何の話ですか?」


 ちらっとこっちに目配せが飛んで来たので目を伏せて軽く頷く。

 それで伝わったのだろう。昨日ここで団長と3人で相談した事をアリシアに話し始めた。

 とはいえ詳しく話すのではなく概要と結論を言っただけで憶測や推測の類の話は上手く避けて話していた。


「つまり、隣国の王子がこの国にいる間はユーゼンが側に居てくれ・・・あ、いや護衛をしてくれると?」


「そう言う事だ。アリシアよ、お前はそれで良いか?」


「はい、私はそれが良いです」


 ふぅ、何とかなりそうだな。

 俺が解雇されてなければ。


「ではこの件に関してはよろしく頼むぞ、ユーゼン」


「ん?ああ、了解です」


 くっ!もはや自然に崩し口調に!

 ひっ!上役からの視線の圧力がどんどん強くなってる!

 あ、でもアリシアは満足げだ。


「それではお父様、私はこれで」


「うむ。また食事の時にな」


「はい」


 ふぅ。この場はどうにかなったかな。

 アリシアの後ろに付いて一歩踏み出したその時。


「ユーゼン。お主はここに残るように」


 どうやらどうにかなっていなかったらしい。


「了解です。アリシア、部屋で待ってろよ」


「うん。後でね」


 手早く合流場所を指定して国王の方に向き直る。

 申し訳なさそうな顔をしている国王を見てこっちが申し訳なくなる。

 相変わらず上役からは鋭い目つきで見られているが、もう開き直った。

 後方で扉を開閉する音が聞こえたのでアリシアが出て行ったのだろう。


「さて、ユーゼンよ。なぜ残されたか分かっているな?」


「は。申し訳ありません。先程までの無礼をどうかお許しください」


「いや、良い。娘に頼まれたのであろう?」


「無礼を働いたことに変わりはありません」


「・・・そういうわけだ。大臣達よ、ユーゼンを許してやってくれないか」


 こ、国王!ありがとうございます!!おっさんとか言ってすみません!

 大臣達はひそひそと話し合いを始め、しばらくするとこちらに向き直り大臣の中でも一番のお偉いさんが結論を述べた。


「国王に免じてお前の無礼は見なかったことにする」


 地味に国王より偉そうなんだよなこいつ。

 少しイラッとしながらも表には出さないように気をつけ、表面的なお礼を述べて王室を後にした。

 そのまま3階のアリシアの部屋に向かう。

 俺が今日一日アリシアの護衛であることは伝わっているらしく、特に何か言われることもなく3階まで上がることが出来た。

 どうやら団長の言い争いは終わっているらしい。

 まあ2人とも立場が立場なだけにずっと言い争いしてるわけにはいかないよな。

 出会った頃は永遠に言い争い続けてたっけな。

 言い争いしてる光景こそ変わらないけど顔合わせる時間が短くなってるみたいだから普通に出来ないんだろうな〜。お互いに。

 笑いそうになりながらあれこれ考えてるうちに部屋の前までたどり着いた。


コンコン


「入っていいか?」


「いいよー」


 これで良いのだろうか。

 とは思うが、気にしたら負けな気がするので気にしないことにしよう。


「何か言われた?」


「そりゃな。国王が庇ってくれなかったら今頃俺は身支度してるところだぞ」


「身支度?」


「王宮騎士をクビになって出ていくためのな」


「・・・そんなに?」


「そんなに」


「むぅ、でもユーゼンに敬語使われるの嫌だしな〜。でもでも、それで居なくなるのはもっと嫌だし・・・ねぇどうしたら良いと思う?」


「俺が王宮騎士やめる」「ダメ」


 早いよ。せめて考えるって行程は挟んでくれよ。

 俺は団長みたいに力があるわけじゃないから敬語使ってないといつか本当に解雇になるんだが?

 ならいっそ俺が王宮騎士やめれば丸く収まるんじゃね?

 ほら、もう王宮騎士になった目的も十分に果たしたと思うし。


「あ!ユーゼンを私専属の護衛にしてもらうってどうかな!?」


「うちの副団長が泣くぞ」


「私あの人苦手なの」


「俺も苦手。でも権力やら立場はあっちが上だし副団長を立てようと思ったら、俺がアリシアの専属の護衛になるわけにはいかないだろ」


「ユーゼンの方が強いのに・・・」


「王宮剣術じゃあっちが上だ」


「で、でも!」


「ここだと王宮剣術が全てだからな。あの団長ですら戦場以外じゃちゃんと王宮剣術使ってるんだ、俺だけ勝手はできないよ」


 事実、驚くべきことに団長はあんな感じだがあれでちゃんと考えて動いている。

 ていうか、あの人めちゃくちゃ頭良いんだけどね。じゃなきゃあのペースで書類を捌けない。

 だから、団長は考えた上であの緩い感じで居るらしい。

 曰く、こんなじゃなきゃ国王のストレスが凄いことになる。だの、堅苦しいのは他の連中に任せて自分はバランサーでなきゃ成り立たない。などなど、細かいことを挙げればキリがない。

 実際、2年前にグレンさんが団長になってから王宮内の空気は緩やかに流れるようになった。

 ありゃ真似できるもんじゃない。


「慣れれば問題ないんじゃないか?」


「「え?」」


 急に第三者の声が聞こえて来た。

 声のした方を見ると、位の高そうな美青年が1人。

 答えはわかるな?ええ、王子ですとも。アリシアの実の兄ですとも。


「やあ、おかえり」


「お兄様!ただいま戻りました」


「堅いなあ。昔みたいにお兄ちゃんで良いって」


「えへへ、挨拶くらいはと思って」


 照れくさそうに笑うアリシアと、それを見て微笑む王子。

 絵になるな。

 まあ水さすんだけど。


「王子、失礼ながらノックはすべきかと」


「あ、ごめん。ってユーゼン!口調崩してっていつも言ってるだろ!?」


「すみません。つい」


「全く。公然の場はともかく、今は堅いのはやめてくれよ?こっちが疲れる」


 やはりこの国の王族はどこかおかしい。

 具体的には本来身分の高い人間が持ち合わせてる物が欠けてる。

 まあ庶民の俺からすれば、それはとても素晴らしい事だと思う。

 だって、貴族上がりの王宮騎士でさえ持っている驕りや傲慢さが無いのだから。

 まあだからって崩した口調や態度は中々出来たもんじゃないけどな。

 全く、兄妹揃って俺を悩ませる。

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