異世界オリンピア

真偽ゆらり

きっかけは何だっていい

 どうも地球の皆さん、はじめまして。

 私は今、異世界で生きています。転生しました。

 特にチートは無いけれど、気長に冒険者生活を満喫してます。自由っていいね。

 え、私の名前? 何だっていいじゃないか、そうだな……スケベな転生者とでも呼んでくれ。


 異世界にも四年に一度の祭典がある。地球で言うオリンピックみたいなもんだ。

 私はその祭典の会場に来ている。

 観戦券を買うことができたのは幸運だった。抽選の倍率がトンデモナク高かった。

 前々回の八年前から女性競技者が増えてきたのが原因だ。スケベな人間も観戦券を買い求めるようになり、年々倍率が上がる上がる。まぁ、そのおかげで私も気兼ねなく抽選に申し込むことができたんだけどな。転売目的って言っときゃ怪しまれんから。


 あ、言っとくけどエロの祭典じゃないからな。

 ちゃんとした運動競技の祭典だから。

 本当に地球のと同じようなもんだから。

 古代のオリンピックみたいなもんだから。


 ええ、はい。古代の方です、古代の……。

 薄々お気づきな方もいるでしょう。

 そうです。

 競技者は全裸です。

 ただ地球と異なるのは女性も参加可能な点です。

 もう一度言います。

 女性も参加可能なんです。

 その女性競技者が増えたんです。

 そりゃ、倍率も上がるわけよ。


 私が購入できたのは、陸上競技の観戦券だ。最も倍率の高い観戦券だった。他の競技と違って競技者の安全のための防護布が無い完全な全裸で行われるためだ。まぁ、防護布と言っても防御魔法を掛けられた薄い布を急所に貼っただけで肌面積に大差は無いらしいけどな。

 ただ気になったことが一つあった。

 購入の際に契約魔法で『会場内で見た魔法効果』の口外を禁止されたことだ。

 特に喋る気は無かったから気にしなかったが何かあるのだろうか。


 

 もうすぐ競技開始の時間だ。

 観戦券に記された座標の席に腰を下ろす。

 最前列でよく見える。本当に幸運だったな。

 しかし、手ぶらで観戦するのも寂しいな。

 軽食や飲み物を売っている売り子のお姉さんに声をかける。


「すいません、何かつまむ物と飲み物を」


「おや、珍しい一人で観戦かい? 後で危ないからお酒以外にしときな、色々あるよ」


 色々って、お姉さん樽一個しか背負ってな……。

 顔に影がかかったので顔を上げると、いくつもの樽が浮いていた。なるほどね。

 ぼっちで悪かったな。


「あー、じゃあ……お姉さんのオススメを」


「あいよ! ちょっとサービスしとくよ」


 代金を支払い、おつまみセットと空のジョッキを受け取る。安くなってないんですが。


「注ぐよー、しっかり持ってな」


 空に浮かぶ樽から中の液体が龍のような姿をとりジョッキに向かって近づいてくる。三匹も。

 三匹の水龍はジョッキの上で混ざり合いながら、ジョッキの中に注がれていった。

 お姉さんは得意げな顔でこちらを見ていた。

 サービスって水龍これかい。


 売り子のお姉さんは満足げな顔で去っていった。


 観戦準備は整った。

 あ、このミックスジュース美味しい。

 味見していると周囲から歓声が上がる。


『うおおおぉぉぉおおおぉぉぉ——』


 選手が入場してきたようだ。

 是非拝まねば。

 視線を選手達の方へ向ける。


 なん……だと……。


 選手達は確かに全裸だった。

 だったのだが……。

 対覗き魔法アンチ・ピープ・マジック

 そこには、アニメでよく見る不自然な光が大事な所を隠していた。そりゃあんまりだ……。


『——おおおぉぉぉぉぉぉ…………』


 男達の歓声も萎んでいく。

 気持ちは分かる。分かるが露骨過ぎるぞ。

 おい、そこ競技始まってないのに帰ろうとすな。

 これは、これでエロいだろうが。


 不自然な光が観客の見たい所、見たくない所を包み隠したまま競技が進む。


 私の楽しみにしていた、走高跳びの競技が始まった。正確には背面跳びを楽しみにしてました。

 私の見たい部分を強調したような跳び方は、いいものだった。そこが揺れれば、不思議な光も同じように揺れる。そこに気がついたのだ。

 それからは、いい形の尻や引き締まった腹筋に太もも、丸見えな背中を楽しんだ。

 楽しんでいたはずだった。他の観客達も。


 

 全裸を恥ずかしがらず、最良の結果を求めて競技に挑む堂々とした姿。

 常に勝利を見据えた真剣な表情。

 追い求めていた勝利を掴んだ時の、歓喜の咆哮。

 瞳に涙を浮かべながらも勝者を称える敗者。

 

 全力で競い合う選手——戦士達の紡ぐ刹那の物語に、私は引き込まれていった。



「頑張れ——頑張れー!!」

 

 気づいたら声を出して選手を応援している私がいた。周りの観客達も同じだった。

 そこには、裸見たさに集まったスケベ達の姿ではなく、全力で頑張る選手達を全力で応援するファンの姿があった。




 




 競技の観戦が終わった私は、感動の余韻に浸りながら宿への帰り道を歩いていた。

 今すぐ走り回りたいような衝動を抑え歩く。

 競技観戦がこんなに盛り上がれるなんて、思いもしなかった。今夜眠れるかな。

 見ず知らずの選手を応援して盛り上がった。もし彼らが自分と縁のある人達だったら、もっと楽しめたのだろうか。

 今頃、地球もオリンピックイヤーだろう、開催国はどこだろう。もしかして日本だろうか。

 今の自分ならオリンピックを楽しめる。

 でも、転生してしまった私はもう母国を応援できない。いや、異世界からでも応援はできる。届くかどうかは知らないけどな。


「頑張れ! 日本!」



 スケベな転生者改め、五輪成功を願う女転生者。

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異世界オリンピア 真偽ゆらり @Silvanote

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