四年に一度の最高のお祭りのためにUターンした拡散する種がどんでん返しでいい感じになる話
四年前、とある界隈である予言がひっそりと発表される。それは『四年後、最高のお祭りの日に拡散した種がUターンして、その結果どんでん返しが起こる』と言うもの。この予言はネットの片隅で一部の人に信じられたものの、時間が経つに連れ風化していった。
けれど、私はその予言をずっと信じ、四年後を待ち焦がれるようになる。
そうして四年が経ち、私は高校に進学、女子高生になっていた。今年こそは予言が成就すると意気込んで過ごす日々。
ただし、普段からその手の事を口にすると明るい未来が見えないので、学校では周りの空気に合わせていた。あ~喋りたい、語りたい。うう……。
リアルでは口に出来ない分、ネットでの私は饒舌になる。いつもは匿名サイトで憂さ晴らしをしているものの、予言の年が今年と言う事もあって一念発起。予言研究のサイトを立ち上げた。
とは言うものの、最初からマイナー予言なだけあってろくな情報は集まらない。4年前ですら大した話題にならなかったのだから当然だろう。もしかしたら、今あの予言の事を覚えているのは私だけなのかも知れない。
「どうしたら予言の事を広められるかな……」
まずは予言の知名度を上げねばと思った私は、予言の内容をテーマにした小説を書く事を思いついた。すぐにカクヨムに登録して作品を執筆して公開。読者の反応をみる。
ちなみに、数ある投稿サイトから何故カクヨムに決めたのかと言うと、マスコットキャラのトリが可愛かったからだ。ぬいぐるみがあったら喉から手を出してでも欲しい。
公開した作品のPVは二桁。全10話の3万文字の作品でそれ。そう、全く話題にならなかったのだ。当然、応援もコメントも付かない。星はひとつでそれは読み専の人だった。近況ノートも書いていない人だったので交流も出来ない。私は自分の文才のなさに途方に暮れた……。
小説は無理だなと気を取り直した私は、次に予言系のサイトを漁ってみた。私以外のマニアがどこかにはいるはずと踏んだものの、検索でヒットするのは四年前の記事ばかり。
どうやら、私の好きな予言は多くの人にとっては無価値なものだったようだ。
新規の情報が全く手に入らずにうんざりしていると、私の立ち上げたサイトの掲示板にトリと言う名前の人からコメントが書き込まれているのを発見する。その内容は予言についての考察で『最高のお祭りの日について』と言うもの。
コメントを目にした私は同士が見つかった気がして、最高に気分がハイになる。
「四年に一度行われる最高のお祭り……オリンピックだろうか。それとも別の……」
オリンピックだと開催期間が長いし違うだろうとネットで調べていると、とある宗教団体が四年に一度行う神秘的なお祭りが最高だと言うものを発見。これではないかと当たりをつける。
そこで今度は予言の残りの部分、その祭りの日にUターンする拡散する種について考えを巡らせた。
「拡散する種……お祭りの日にUターン……きっと何かの暗喩のはず……」
私1人では答えが導き出せなかったので、トリと一緒にこの謎を解明に取り組んだ。まず、私が当たりをつけた団体の思想背景にリンクしているのではないかと調べていると、人間はその団体の聖地から世界に散らばったと言う教義がある事が判明する。
「そうか! 拡散する種は私達、世界に広がった人間だ。お祭りの日に人がその地に集まると言う事は、人類と言う種が故郷に戻ると言う事、つまり、Uターン!」
トリと共に考察し合った結論はこうだ。4年に一度のお祭りの日に信者の人間が集まる事で何かが起こり、どんでん返しが発生。そうして何かが起こる!
予言が示しているのだから、その日はこの団体がお祭りを開催する日なのだと――。
その結論を元に私は団体のお祭りの日を調べ、その日に備えた。当日にお祭り会場に乗り込むのだ。この計画はトリと一緒に考えたもの。そう、トリと2人で自分達の考えが正しかったのかを確認しに行くのだ。こう言うのもオフ会って言うのかな?
時間はあっという間に過ぎ、ついにお祭り当日の朝。しばらく待っていたものの、結局待ち合わせ場所にトリは現れず、私は1人で会場へと向かう事となってしまった。うう、不安すぎる……。
各種公共交通機関を乗り継いで会場まで辿り着いたところで、私は突然誰かに呼び止められた。
「ここから先は行っては駄目ホ」
「えっ?」
呼び止めたのはフクロウっぽい何か。って言うか、まんまカクヨムのマスコットのトリだった。私はこの有り得ない出会いに興奮する。
「えーっ!」
「しーっ! 声が大きいホ! やはり見えるホね。君を選んで正解ホ」
トリは大きさが50センチくらいのまん丸のぬいぐるみのような姿。どうやら普通の人には見えないものらしい。そっくりだけどカクヨムのトリとは無関係なのだとか。目の前でふわふわと浮いているものの、浮力を生み出せるほど羽は動かしていないようだ。精霊みたいなものなのだろうか?
私が現実を受け入れられずにいると、トリはネタばらしを始めた。
「あの予言はボクがしたんだホ」
「な、なんで?」
「強く信じてくれる相棒が欲しかったからホ。是非とも協力して欲しいホ」
トリの話によると、4年に一度行われるあの団体の邪悪な祈りが世界を歪めているのだとか。トリはそれを阻止するために4年前に予言を残し、信じてくれる人の登場を待っていたらしい。
この話を聞いた私は猛烈に感動して、ギュッと両拳を力いっぱい握っていた。
「分かったよ! 私、協力する!」
「有難う愛ちゃん。嬉しいホ!」
愛と言うのは私の名前だ。サイトを立ち上げた時に本名で登録したからね。まあそれはいいとして、予言を書いた本人の立てた計画は、トリの力で私がスーパーヒロインになってあのお祭りをぶっ潰すと言うもの。いきなりトンデモ展開じゃない?
でも、目の前にトリが現れた時点で私の中の常識は崩壊しちゃったからね。もうこのまま突き進むしかないっしょ。こうなったらとことん行くよ!
私が了解の意味で静かにうなずくと、トリは私に向かって息を吹きかけた。その息吹によって私はスーパーヒロインっぽい衣装に変身する。武器はトリが姿を変えた少しファンシーな感じのデザインの銃だ。
銃になったトリは、テレパシーで私の脳内に直接語りかける。
「お祭りに集まっている人達は洗脳されているだけだから僕の力で開放出来るホ。問題は祭りの主催をしているトカゲ女王。やつを倒すんだホ!」
「分かった、トカゲ女王ね!」
この荒唐無稽な話を全部飲み込んだ私は、満を持してお祭り会場に乱入する。変身した私は普段の何十倍もの力を発揮。ちょっとジャンプしただけで軽く数十メートルは跳躍し、もうそれだけで私の心はスーパーヒロインになっていた。
祭りの会場では、主催者のトカゲ女王を中心に信者の人間達が白い被り物をかぶって踊っている。その儀式の場に私はかっこよく着地した。
当然、この行為に祭りを邪魔された信者が遅いかかってきたので、私はアメコミヒーロー映画をイメージしながら銃を撃ちまくる。
銃で撃たれた信者達はその場でバタリバタリと倒れていった。洗脳を解いているだけなので罪悪感はない。銃に弾切れはなかったので好きなだけ撃てば良かったものの、何しろ祭りの参加人数は多い。しかも四方八方から襲ってくるのだ。
私はぐるぐる回りながら銃を撃ちまくっていたものの、多勢に無勢、撃ち漏らした数人の信者によって取り押さえられてしまった。
「くっ……」
「大人しくしろ!」
捕われの私は、そのままお祭りの主催者であるトカゲ女王の前に突き出される。
「くくく、無謀だったねぇ……」
ボスのトカゲ女王は邪悪に笑った。私は顔を上げ、その姿をじいっと見つめる。見れば見るほどにトカゲだった。リアルリザードマンだ。この目の前の現実に、私は乾いた笑いしか出てこない。
後、おかしな事がひとつ。今の私はスーパーヒロインなのだから取り押さえられてもすぐに振りほどけるはずなのに、何故か今はパワーが発揮出来ないのだ。
もしかしてここまでなの? 作戦は失敗? これからどうなっちゃうの?
銃になったトリも呼びかけに応えてくれないし、私は完全に頭の中が真っ白になってしまった。もう何も考えられないよ。どうしてこうなった……。
私がどの選択肢から間違ったのかを必死に頭の中で過去をさかのぼっていると、謎の沈黙の時間が続いている事に気が付いた。あれ?
「これでいいかい?」
トカゲ女王がそう言った瞬間、一瞬で周りの白装束の信者達が消える。え? どう言う事?
この謎展開に私が戸惑っていると、トリがいきなり変化を解いた。
「もう、最後までやってくれないとダメホ。ここからがいいところだったホ!」
「えっ?」
そう、全ては人間の友達の欲しいトリが計画した茶番だったのだ。トリのシナリオではこの後にも絶体絶命のピンチ展開が3回続いて、その後でトカゲ女王がやられて退場する事になっていたらしい。
全てをバラした彼女は、ここで大きくため息を吐き出した。
「大体、こう言うの苦手なんだよ。その子はトリをすっかり信頼しているみたいだし、ダメ押しはいらないじゃないか。あなた、トリと仲良くしてあげてね」
「え、えっと……」
「私の名前はアリス。縁があったらまた会いましょ」
トカゲ女王アリスは私に向かってウィンクをすると、幻のようにすうっと消えていった。えっと、これから私の気持ちはどこに向かえばいいのかな?
「騙していたのは悪かったホ。でも友達が欲しかったのは本当なんだホ」
「……分かった。友達になりましょ」
「本当かホ! よろしくホ!」
こうして、4年をかけたトリの計画は見事に成就し、私とトリは友達になった。その後、このトリのせいで様々なトラブルに巻き込まれる事になるんだけど、それはまた別のお話――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます