四年に一度、俺は彼女と墓の前で

シュタ・カリーナ

墓参り、そして……

 2016年2月29日、俺の幼馴染みの彼女西野瀬奈が交通事故で死んだ。

 まだ高二だった彼女にとって、付き合って一年の俺にとっても、突然なことだった。


 瀬名は俺と一緒にいるときが一番幸せだと言っていた。俺の側にいるだけで心が温まると言っていた。


「えへへ、海斗〜、大好き〜」

「俺もだぞ、瀬奈」


 その日の放課後、俺は用事があって駅前で彼女と別れた。

 「じゃあ私も待ってる」と言っていたが用事は長くなりそうだったので「先に帰ってろ」と俺は言った。俺がそのとき「じゃあ長くなるかも知れんがどっかで時間潰しててくれ」とでも言っていればよかったのかも知れない。

 そして俺は彼女と別れた。


 その後、一人で帰っていた瀬奈に車が突っ込んできて、事故に巻き込まれた。

 すぐ病院に運ばれたらしく、俺も用事を途中で抜け出して急いで病院に向かった。


「あ、海斗、ごめんね」


 彼女の声は弱々しかった。


「私海斗が好きだよ、ずっとずっと」

「もう喋んな! 俺があのとき別れなければっ」

「……海斗今までありがとう」

「そんなこと言うなよっ。お前はまだ助かるっ」


 それが俺と彼女の最後の会話だった。

 彼女はもう自分は助からないと分かっていたのかそれだけを俺に遺して息を引き取った。


 奇しくも翌日は彼女の誕生日だった。


 ◇◇◇

 

 あれから早四年。

 俺はもう社会人だ。


「そっか明日29日か」


 俺は明日が瀬奈の命日だと思い出し、翌日墓参りに向かった。


 去年の盆ぶりに来た、瀬奈の墓。

 何年経ってもあの時のことは忘れられるものじゃない。


 俺は俯いて静かに涙を流す。


「ほら、泣かないの。もう大人でしょ」


 俺はバッと顔を上げる。

 するとそこには死んだはずの瀬奈が立っていた。

 容姿はあの時と変わっておらず制服姿。そして髪には、葬式の時に瀬奈に渡した誕生日プレゼントの髪留めをつけていた。


「な、なんで、瀬奈が……死んだはずじゃ」

「なんか殺人犯みたいなセリフ……まあいいや。久しぶり海斗」

「瀬奈っ」


 俺は彼女に抱きつく――ことはできなかった。

 よく見ると彼女はうっすらと透けていた。


「私幽霊になったんだよ。海斗に会いたいっていう思いが伝わったのかな、四年に一度の命日にだけ海斗に姿見せられるようになったんだ」

「四年に一度?」

「そう。だからまた四年後にこうして会話できるわけ。まあ私はいつも海斗の周りをフワフワしてるけどね。だから〜、海斗の寝顔とか私生活とか全部のぞいちゃってるの」

「何してんだよ……でもよかった、本当に良かった……」


 俺はまた静かに涙ぐむ。


「ごめんね、海斗」


 彼女は俺を慰めるように触れない手で俺の頭を撫でる。


 少しして俺は瀬奈と向き合う。


「瀬奈、俺とデートしよう」

「うん、もちろん」


 俺は四年ぶりに彼女とデートをする。


 ◇◇◇


 デートも終え日が沈んできた。

 俺たちは街の高台にあるデートスポットにきていた。ここからは街を見渡せて夕日も綺麗に見える。夜になれば残業の光が輝き、綺麗な夜景となる。


「海斗、今日はありがと。とっても楽しかった」

「ああ、俺もだ瀬奈」


 遊園地にデパート、様々なところに行った。

 時々、虚空に話しかける俺を変な目で見られることもあった。


「ねえ海斗。まだ私のこと引きずってるでしょ」

「……」

「そのせいで海斗、まだ新しい彼女がいないでしょ」

「俺の彼女は瀬奈だけだ」

「嬉しいけどさ、私のことは忘れて誰かと付き合って結婚してもいいんだよ」

「いいや、お前が死んでも俺は瀬奈の彼氏だし瀬名は俺の彼女だ。浮気はしない」

「私ね、海斗に幸せになってもらいたいの」

「瀬奈……」

「私の妹とか、同僚の川北さんとか」

「お前の妹はともかく、なんで川北さんなんだよ」

「彼女は絶対に海斗に気があるね。こっそり見てたもん」

「お前……」

「とにかくっ! 私は海斗が幸せになってくれれば誰とでも付き合っていいからっ」

「……分かった」


 俺たちの間に沈黙が生まれる。

 いつのまにか日が落ちていたのか、残業の光が輝き夜景があらわになる。


「綺麗だね」

「ああ」

「……帰ろっか」

「ああ、そうだな」


 俺は彼女と共に帰宅する。

 俺は職場から家が近いこともあって未だに実家暮らしだ。


「妹と会うか?」

「でも話せないし……」

「俺がいるだろ」

「そう、だね」


 瀬名の家に寄る。

 実家のようにただいまというと、瀬奈の妹が「お帰りお兄ちゃんっ」と声を返す。瀬奈の妹はすでに高三だ。


「理奈、ちょっと話があるんだ」

「どしたの?」


 俺は理奈の部屋に行き二人(三人?)きりになり、瀬奈の事情を話す。


「え、本当にそこにいるの……?」

「ああ」

「海斗、理奈ね〜、いつも海斗海斗〜って言いながら自慰をしてるんだよ〜」

「なっ、家族でもそれ言ったらダメだろっ」

「お姉ちゃんはなんて?」

「え、いやっ、そのっ」

「やっぱり嘘なんですか?」

「いやその瀬奈が、お前が俺の名前を呼びながら自慰してるって」

「ッッ!? お姉ちゃんの変態っ!」


 それから三人で久しぶりに雑談をした。

 主に理奈の学校生活についてや、瀬奈が理奈の秘密を暴露したことだった。


「あ、もちょっとで消えそう」

「えっ」


 時計を見れば針は23時55分を指していた。


「理奈、瀬奈がもうちぃで消えるって」

「……ねえお姉ちゃん私海斗お兄ちゃんと結婚できるように頑張るから」

「うん」

「私頑張ってお兄ちゃんの働いてる会社入って、川北さんっていう人と戦うから」

「うん」

「それと、もう私の秘密暴露しないで」

「無理」

「無理だって」

「…………私お姉ちゃんのこと大好きだよ」

「うん私も」

「瀬奈も理奈のこと好きだって」

「だからまた四年後、三人でいっぱい話そ」

「うん、もちろんだよ」

「もちろんだよ、だって」

「あとは二人でどうぞ」


 そういうと理奈は立ち上がって部屋を出た。


「瀬奈」

「うん」

「大好きだ」

「うん私も」

「誰かしらと結婚して幸せになるから、勝手に消えんなよ」

「もちろん」


 彼女の体がさらに薄くなる。


「俺はいつも瀬奈のことを忘れないからなっ」

「うん」

「それともう覗くのやめてやれっ」

「無理だな〜」

「瀬奈っ、大好きだっ、また四年後にっ」

「うんまた四年後、再会しよ。デートもしたいな」

「ああ、もちろんだっ」


 瀬奈の輪郭がぼやける。


「……瀬奈っ」

「ッッ!!」


 俺は彼女にキスをする。

 そして彼女は「大好きだよ」と言って、消えた。


 俺は唇を触る。

 通り抜けると思っていたが、柔らかい感触がしたのだ。


 ともかく、俺は彼女との今日の思い出を一生胸に残す。

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