#17:第1日 (4) 山上の遺跡
彼とリタは
イアとティラで、彼以外の
たとえどのような理由であっても、ここにヒントはあるはず。他のギリシャの島々に共通するような。他の
その一つはもちろん遺跡。ほとんどどこの島にもある。彼が
他には何か。ギリシャは様々な歴史の宝庫だが、すぐに思い付くのはワイン。サントリーニ島でのワイン造りは3500年の歴史があるとされる。
だからここにはワイン
では私がそこへ行くことにしよう。リタの選択の意味を確かめた方がよい。バスを待っていたら、観光客に声をかけられた。
「
「いいえ、人違いだわ」
「そうですか。よく似ているのに……」
現代のギリシャ人はオペラにさほど興味を持っていないのか、こうして声をかけられることが少ない。まだ5人目だ。
畑を耕す様子、収穫した葡萄を運ぶ様子、足で葡萄を潰す様子、袋にいた葡萄の汁を搾る様子。かつての手作業から、機械化されるまでの変遷。そして古くから使われている大きな醸造樽が並ぶ様子も。
知っていても、こうして見ることは興味深い。過去の風景が活き活きとよみがえり、穴蔵の中に葡萄の香りが漂っている気さえする。
30分ほどで見終えると、
まずこの島の名産である"Vin Santo"をいただく。
「
「いいえ、人違いだわ」
「それは失礼。よく似ていたものだから」
他にいた客も私のことを気にしていたようだが、これで声をかけて来なくなるだろう。
"Vin Santo"はサントリーニ島に自生するアシルティコという品種から作る。琥珀色をしているが、白ワインで、ドライ・フルーツのような甘い香りが特徴。デザート・ワインとして素晴らしい。この微妙なブーケとアロマを、仮想世界の中でいかにして再現しているのだろうか。
他の銘柄もいただく。ガバラス、シガラス、イエア、マヴロトラガノ、ヴゾマト・ロゼ……どれも素晴らしい。試飲だけでなく、買いたくなる。11本並んでいる瓶のうち、3本を試飲できないのが残念。
次はどこに行こう。彼が行かないところ。アクロティリ遺跡の前に、アティニオスの港を見に行くのはどうだろう。ギリシャの島々を結ぶのは船。ターゲットにはきっと船が関係するに違いない。そうでなくても、船が接岸・離岸するところを見るのは楽しいものだ。
バスに乗って、20分でカマリへ。ここは黒い砂のビーチで有名だそうだ。火山島なのだから、砂が黒いのは当然だろう。ハワイのワイキキ・ビーチなんて、カリフォルニアのロング・ビーチから白い砂を運んだんだぜ。あれはインチキだ。
それはともかく、バスがターミナルへ着くと、
すぐに会話は終わり、
「上では2時間くらいでいいかしら?」
俺に向かって
「それでいいよ」
再び
早速車に乗せてもらい、山の上へ。町の南の端から山に登り始めるが、急斜面のせいで、
2ダース以上もスウィッチ・バックして、頂上まで登り詰めた。それでも10分しかかからなかった。
少し平らになったところに小さなラウンド・アバウトのようなのがあって、車で行けるのはそこまで。すぐそばに売店があったが、閉まっていた。
「オン・ザ・ハウス!」
若い男の運転手が嬉しそうに言って、ミネラル・ウォーターのボトルを
見送る車の向こうは山の下までよく見晴らせて、カマリの集落と、その先の空港も見えている。折しも飛行機が着陸しようとしているのだが、今いる場所よりも低い所を飛んでいた。
さて、ここは観光地だと思うのだが、どうやら他に観光客はいなさそう。季節外れなのか。ラウンド・アバウトからは簡易舗装の道が、緩やかな坂になって続いている。その坂を行くと門があり、石造りの建物が建っている。遺跡ではない、
そして
料金を払って遺跡の門をくぐる。そこからジグザグになった階段を延々と下りる。今日はこういう階段に縁がある。3回目だ。
下りきったところにあるのが教会跡。石の壁の一部が残っている。この手の遺跡は仮想世界の中のいろんな所で見ているが、さすがにまだ見飽きるまでには至っていない。
ここからはひたすら砂利の細道が続き、“アルテミドロスの聖所”なる石の壁以外、特に見どころはない。ただし、海は常に綺麗に見えている。
少し行くとまた階段で、今度は上へ。上がりきったところから“町”が始まっている。ここまで来て、他の観光客の姿が見えた。俺たちが遅れてやって来たので、ようやく追い付いたというわけだろう。
さて、建物のほとんどは斜面の上に建っている。石積みはかなり綺麗に残っているし、敷地が広くて柱廊があれば、そこが神殿だったろうことも想像できる。
一部の石にはレリーフが残っている。鳥、ライオン、イルカなど。陸海空が全て揃っているというのも面白い。
ただ、パルテノン神殿のようにまともな状態で残ってはいない。柱の一部、それも高さがせいぜい5フィートくらいまで。
中心部まで行くと、劇場跡がある。坂の下に半円の舞台があり、それを
風呂の跡もある。そういえばブダペストの遺跡でも風呂跡を見たんだった。
ただ、こんな高い所でどうやって水を確保したのかと思う。どこかに巨大な貯水槽でも作ったのだろうか。何しろ最盛期にはここに5千人も住んでいたということだから、風呂だけでなく飲料水も大量に必要だったはず。古代には謎が多い。
その他にアポロンの神殿、
「こういう所ももちろん計画都市なんでしょう? 研究対象になっているのかしら」
「もちろん、そうだ。ギリシャやローマの古代都市には水道が必ずあって、建物の配置は水路の通し方によって決まるからね。山の斜面や起伏の多い土地で、どのように区画するかは、古代人も経験的に知っていたはずだ。それだけでなく、神殿や重要な建物の配置も方角による規則性があるから、それも考慮して……」
どうしてこんなことが俺の頭の中から出てくるのかよく解らないが、たぶん仮想記憶というやつのおかげだろう。
移動と講義を繰り返しているうちに、退場時間になった。遺跡を出て、他の観光客と共にバス・ターミナルで待つ。さっきの男が迎えに来て皆で乗り、山を下りる。
町に着くと、空港行きのバスが出るまで時間があるので、ビーチを覗く。確かに足元が黒い。そして小石が多い。
残念ながら10月では季節外れで、泳いでいる人はいなかった。別に、水着の女が見られないから残念というわけではない。
ただ、隣に立つ
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