#16:第4日 (13) [Game] ペルー鉄道
「他は?」とウィルに訊く。
「競技場がやたらと多くて」
ブラジル人はフットボールに多少なりとも興味があるから、地図を見たらそういうのが目に付くらしい。俺も同じだけど。
プロ用のスタジアムと、大学スタジアムと、市民スタジアムがあって、どこも中を覗いてきたと。プロ用は柵を乗り越えて、って、おい! まあ、いいか。そういうのができるのなら、やればいいさ、ゲームの中では。俺だって他人のことは言えない。
ともかくそこでボールと審判用の旗と
ついでに、近くにあったバスケットボール・コートとテニス・コートも見て、バスケットボールとテニス・ボールとラケットを拾ったと。ボールはともかく、チョーク粉とラケットが意外に役立つかもしれんな。
「他は」
「競技場のすぐ近くにあった、トゥパク・アマル広場ってのを見てきた。トゥパク・アマルはインカ最後の皇帝だってさ。騎馬の銅像が建ってたよ。きっと重要人物だから、調べ直した方がいいね」
おかしいな、
「他は」
「最後に
中の説明はする必要あるかな。クスケーニャ派って絵がいっぱい飾ってあったけど、一つも取れなかった。『最後の晩餐』は食べ物と飲み物がアンデス風に書き換えられてた。祭壇は純銀製らしいけど、これも触れず。地震の神って呼ばれる黒いキリスト像があって、祭の時に外して使うらしい。担いで歩くんだって。鐘楼には南米最大の鐘“マリア・アンゴラ”があるけど、ひび割れてて最近は全く鳴らしてない。もちろん、持ってくるのも無理。
それから、
前回と違ってアイテムが少なく、ウィルは不満そうだ。しかし“盗る”だけが入手方法ではないだろう。
最後にフィル。
「やたらと買い物をするところがあって。
「何があった」
「何でも。市場は前回の教会前広場にあったのをさらに大きくしたみたいなので、肉、野菜、果物、アイスクリーム、酒、服、鞄、帽子、土産物、文房具、おもちゃ。本当に何でも」
「何か買ったか?」
「ひとまず、
「他には」
「駅がありました。マチュ・ピチュへ向かうペルー
そうか、マチュ・ピチュへ行くんじゃないかと思ってたんだがなあ。それとも、どうにかしてチケットを入手する手段があるのか。ウィルがほっとした顔をしている。乗らないと思ってるな。そうは行くか。
「他には」
「
「以上か」
「で、次の調査はどうするの、ハンニバル」
すっかり俺に従う気でいるんだな、ウィルは。
「俺が見かけた、女二人を捜したい。間違いなく重要なNPCだ」
「僕もそう思うけど、おそらくあんたしか会わないようにできてるんじゃないかな」
ウィルが平然と言う。茶化しているわけではないだろう。リーダーしか会えないようになってると? それはあるか。
「迂闊にそこらで訊き回ったりすると、また黒服が出てくるかな」
「たぶんね」
「しかし、やらないわけにはいかないだろう。よし、俺が捜す。ここより西の、駅との間を訊き回ってみよう。1時間後にまた集合したいが、俺が広場に現れなかったらその辺りを捜してくれ」
「
「セボラは太陽神殿へ行ってくれ。コエリーニョに調べてもらったが、まだ何か残ってる気がする」
「いや、時間が経って状況が変わってると思うね。あんたのイヴェントが起こった後だからさ」
「なるほど。とにかく頼む。そうだ、自転車もちゃんと返せよ」
「あー、そうだね、それがあった」
どうしてそんな嫌そうな顔をしている。
「B.A.はインカ博物館へ行って、何か資料を手に入れてくれ」
「
それだよ。絶対に重要だって。
「コエリーニョには買い物をしてもらいたいが、途中まで俺と一緒に来てくれ」
「
いったん解散。ヴァーチャル・タイムは午後1時だが、リアル・タイムの残りはあと1時間半。広場を南西の端から出て、マンタス通りを西へ。この先にアルコ・デ・サンタ・クララ、セントラル・デ・サン・ペドロ市場、そしてサン・ペドロ駅がある。オリヴィアのアヴァターが、跳ねるように付いて来る。
「買い物に当たって一つ注意がある。手当たり次第に買うと金がなくなので、なるべく金を使わずに入手して欲しい」
「盗めってこと?」
「そうじゃない。それをやると、今回はまずい気がするんだ。捕まるかもしれない。だから、交渉してくれ。値切るだけじゃなく、手持ちのアイテムと交換するとか」
「ああ、そういうことね! やるわ、得意だし。そうだと判ってれば、セボラとB.A.のアイテムを預かってくればよかった。それも何とかするわ、任せて!」
何か、やけに張り切っている。そういうときは耳だけでなく、尻尾も動くんだな。
アルコ・デ・サンタ・クララをくぐり、150ヤードほどで市場。オリヴィアと別れたが、駅もそのすぐ近くにあった。しかしこれが、横に建つ立派なサン・ペドロ教会とは対称的な、貧相な建物だった。駅はこの街にとって重要施設ではないらしい。しかもチケットを取り扱う窓口が閉まっている!
掲げられた時刻表を見ると、出発は朝の6時台と7時台のみ。そしてなぜかポロイという駅から出る時刻が書かれている。どういうことかと尋ねたいが、訊く相手もいない。しかし、フィルは明日の予約状況まで確認したはずで、それならどこかで訊けるということだ。
まずフィルに電話。南隣にペルー
「いつのチケットがご入り用ですか?」
窓口の女は超美人。しかも素晴らしいプロポーション。そしてアヴァターはカリナだった! 今回はここで出てきたか。
「明日のチケットを」
「サン・ペドロからのチケットは全て売り切れです」
「ポロイという駅はどこに?」
「ここから10キロメートルほど西です。明日の列車は、ポロイからのも売り切れですわ」
なぜサン・ペドロまで列車が来ないのか尋ねる。ここは盆地であって、西へ抜けるには峠を越えなければならないが、傾斜がきついので、線路が4回スイッチバックする構造になっている。そのため時間がかかるし、運転も大変。さらに住民が騒音や振動で苦情を言うので、列車本数を限定しているのだそうだ。
確かにそりゃ大変だ。そんなまだるっこしい列車に乗って喜ぶのは、きっと日本の
「他に列車は? マチュ・ピチュは人気の観光地のはずで、1日に3、4本じゃあ捌けるわけがない」
「60キロメートルほど西のオリャンタイタンボ駅なら、3クラス合わせて16往復運転しています。それにインカ
ハイラム・ビンガムは1日1往復。オリエント急行にも使用されたプルマン車両による豪華列車。料金は片道3000ソーレス。しかし、当分先まで売り切れ。そもそも所持金が足りないから乗れない。
ヴィスタ・ドームは600ソーレスでエクスペディションは300ソーレス。ただ、マチュ・ピチュ行きはほとんどが午前中の出発で、午後からはヴィスタ・ドームが1時と3時、エクスペディションが7時と9時の便しかないらしい。
「オリャンタイタンボへはどうやって行けば? タクシー?」
「乗り合いバスの方が安いですわ。コレクティーボというのです。時間と料金は申し訳ありませんが、あなたの方でお調べになって下さい」
バスのオフィスと停留所の位置まで教えてもらった。アヴァター・カリナは常に優しいが、彼女の出番がこれだけでは寂しいな。
「ところで、君の名前は?」
「リリアーナです。あなたは? ハンニバルですか。素敵なお名前ですね!」
それ、たぶんどんな名前に対しても言うんだよな。まあいいや。バス・オフィスへ行って乗り合いバスのことを調べよう。
駅前のカスカパロ通りを南へ行って、五叉路に出たらトレス・クルセス・デ・オロ通りを東へ。“三つの金の十字架”なんてやけに意味深長な名前の道だが、特に何があるわけでもなく、広い道に出て少し北へ行ったところにバス・オフィスがあった。ピンクの壁にオレンジの屋根を載せ、普通の民家にしか見えないけど、入り口が開いていて"Colectivos para Ollantaytambo"とあるから間違ってないだろう。
そこに入ろうとしたら……ああ、こんなところに、あの二人のうちの一人がいたよ。背が高い方。といっても、5フィート半はない。しかし、周りの女に比べたら高いだろう。
おまけにスレンダーでプロポーションもよさそう。はっきり判らないのはベージュの厚ぼったいコートを着て、前をぴっちり留めているから。今は寒い時期なのか? でも、周りはみんな暑くも寒くもなさそうだぞ。特に合衆国の女たちはタンク・トップにデニム・ショーツ!だし。
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