#16:第3日 (12) [Game] 地下の穴掘り

 チラデンテス広場に集合し、作戦会議。こういうとき、ゲームでは“酒場”に入ったりするものだが、彼らにそんな気は毛頭ないらしい。たぶん、貧乏人だからだろう。

 さて、獲得した情報とアイテムの整理。ウィルとフィルが教会から持ってきた、というか盗んできたものがすごい。

 祭壇に飾ってあった燭台と十字架、小型のマリア像、ロザリオ、聖書、カメオ、ステンドグラス、宝冠、ファサードの装飾壁の一部、外壁のタイルの一部、内壁に架かっていた聖水盤。

 よく見咎められなかったな。ゲームの中のものだとしても、俺には絶対無理だ。

「アレイジャディーニョの絵と天井画はどうしても取れなかった」

 当たり前だろうが。そしてオリヴィアが陰謀博物館で見つけてきたのは、アウト・ヂ・デヴァッサという司法通知書。もちろんミナスの陰謀に関するもの。それに聖歌『サルヴェ・レジーナ』の古い楽譜。やはり「絵は1枚も取れなかった」らしい。

「でも、パンテオンについて重要なことを聞いてきたわ。床下にトンネルがあって、隠し部屋につながっていて、そこに秘宝のサン・ジョルジェ像があるんだって」

「うん、パンテオンの下に地下道があるのは僕も聞いた。教会ともつながってると」

「俺もそう聞いた」

 ウィルとフィルが口々に同意する。二人が行った教会は、陰謀博物館のすぐ東と西だからな。博物館に関する情報も聞き込めるんだろう。ところで聖ゲオルギオスセント・ジョージって竜殺しドラゴン・スレイングの伝説で有名な聖人だろ。オウロ・プレットにどう関係してるのかな。まあそこはいいや。

「夜になってから、それを探しに行けばいいと思う。ショヴェルなんかが取れたのは、やっぱり地下道の探検があるってことだから」

 夜になるまではどうするんだ? ああ、waitウェイトすればいいのか。

「で、ハンニバル、あんたは?」

 アイテムはコマンド・モードに共有できるので、見てもらう。入門書やオパール標本を見て「もっと何かなかったのかなあ」とウィルが呟く。六つの展示室で何も取らなかったのは、確かにまずかったかもしれない。あと、買い物もしなかったな。

「何か情報は」

「地下室に縦坑があるのを見た。下の坑道につながってるらしい」

「へえ、そっちからも入れるのかな。しかし、一方が入り口でもう一方が出口という気がする」

 簡単な議論の結果、情報が多い陰謀博物館のパンテオンから降りてみることになった。そして、夜まで待つのだが。

「何か食べておかなくていいのか。体力が切れて行動できなくなるってことはないのかね」

「それはあるかもね。掘る作業があるなら、体力次第で効率が上がるかもしれない。よし、食べに行こう。どこかいい店は?」

「サン・フランシスコ・ヂ・アシス教会の横によさそうなレストランがあったわ。昨日聞いたの」

 オリヴィアが薦める店へ行く。もちろん食事はあっという間に終わる。そして夜まで待つ。何時まで待てばいいのか。

「とりあえず10時まで待って、後は博物館の前で様子を見ながら待てばいいよ。ひとが全くなくなったら入ろう」

 泥棒を生業にしている奴というのは、こういう知恵が働くものなんだな。

 提案どおり、広場の真ん中へ行って、10時まで待つ。体力のことを考えると、待ってから食事に行った方がよかったかもしれない。しかしこんな田舎町にもかかわらず、10時でも人通りがある。レストランが閉まるのがそれくらいだからか。

 面倒なので12時まで待つ。広場はほぼ真っ暗になった。広場から出る道のところに街灯があるだけだからだろう。陰謀博物館の灯りは、とっくに消えている。

よし、行こうトゥド・ベン・ヴァモス

 ウィルがリーダーのように号令を出す。博物館を指差しながら「Go to the Museu」で入り口の前。当然、錠がかかっている。ウィルから鍵を受け取る。開けるのはどうするんだ、「Open the lock with the key」か?

「鍵が合わない、とよ」

何だってオー・キ?」

 訊きたいのは俺の方だよ。目の前に"This key does not match"って表示されてるんだ。

「他に鍵はなかったのか」

「ないよ。鍵はたいてい、いくつも必要なんだ。一番熱心に探すんだよ。なのに今回は一つかなくて」

鶴嘴ピックアックスで壊してみるか?」

 フィルが横から口を出す。

「南京錠じゃない、ドアの鍵穴があるだけなんだ。それに、ドアを壊すと音がして失敗するか、『頑丈で壊せない』ってことになるかもな」

「一応やってみてよ」

 フィルから鶴嘴ピックアックスを受け取る。「Break the lock with the pick」。しかし、"Hard to break"だった。たぶん、もう1回やると"Police offcers come up"じゃないかなあ。

「メルダ! これから鍵を探しに行くのかよ。いったいどこだ?」

「まあ、待て。ナイフを貸せ」

「何をするんだ?」

「いいから早く貸せよ」

 ウィルからナイフを受け取る。フォークを取り出して、「フォークの歯を一本、ナイフで曲げるヴェンド・ア・タイン・オヴ・ザ・フォーク・ウィズ・ザ・ナイフ」。そして「Open the lock with the fork」。

 "The lock of the door has opened"

「Open the door」で博物館の中に入ることができた。

すげぇインクリーヴェウ! フォークでこんなことができるの、初めて見たよ。あんた、ハンニバル、よく判ったな?」

 俺はお前らと違って普段から解錠してるから、こういう知恵が働くんだよ。古くさいウォード錠だったから、針金か釘があれば開くってことくらい、一目なんだ。

「感心するのは後にして、パンテオンはどうやって行くんだ?」

「まず、灯りを点けて」

「ああ、そうか」

 目の前は真っ暗だった。ライトを渡され、light onライト・オンで周りが薄明るくなった。

「真っ直ぐ行って、左を向いて、階段を降りる」

 オリヴィアが教えてくれたとおりに移動すると、ドアの前。錠がかかっていた。ここでさっきの鍵を使うのか? 正解だった。

 ドアを開けて中へ。石の床に、白い壁。奥に大きな墓石が。"JOAQUIM JOSÉ DA SILVA XAVIER"とあるから、チラデンテスのものだろう。両脇の壁沿いに、平たい墓石がたくさん床に埋まっている。このうちのどれかが動くのか、それとも床石か。

「手分けしよう」とウィル。

「手じゃ墓石や床は動かせないだろう?」

「ショヴェルと鶴嘴ピックアックスが全部で四つあるんだよ」

 なるほど。俺は既に鶴嘴ピックアックスを持っているので、ウィルがオリヴィアにショヴェルを渡す。パーティー・モードを解散して、墓石の前に散らばり、作業開始。

 さて、掘り返せるかどうかはどうやって判るのか。パターンでは、墓石を叩いて虚ろな音がすれば、って感じだろうな。なので、「Knock the tombstone with the pickaxe」。

 ちゃんと石を叩く音が聞こえるが、一つだけでは判らんな。隣に移動して、叩いて聞き比べる。同じだ。その隣も同じ。墓石は全部で12あり、俺の担当は三つ。どれも違ったということか。

 おかしいな、陰謀に関与したのは11人で、奥にチラデンテス用のでかい墓石があるのに、どうして脇の墓石が12あるんだ。どうでもいいことなのか?

「見つけたわ! こっちへ来て」

 後ろからオリヴィアの声がする。振り返ると、墓石ではなくて、パンテオンの入り口近くの床を指差している。何だ、やっぱり床石の下か。

「ここだけ音が変なの」

「よし、石を掘り返そう」

 俺がぼさっとしているからか、ウィルが指示する。まあ、こいつらは要領を判ってるんだから、俺が考えなくて済むのは楽でいい。困ったときだけ俺が考えりゃいいんだ。

「重くて持ち上がらないわ」

「二人でやってみよう」

 本当に石を持ち上げるわけではないから、同じ行動をしている人数をちゃんとチェックしているのだろう。そしてヴァイザーの画面では、巨大な床石が見事に掘り返された様子が見えた。

「降りよう。ハンニバル、パーティー・モードにして穴を降りて」

「穴の中はどうなってるんだ」

「階段が見えるわ」

 オリヴィアが覗き込んでいる。パーティー・モードにして、穴のところへ行って、指さしながら「Get down into the hole」。階段の途中まで降りた。さらに「Get down」でどうやら穴の底に着いたらしい。しかし、道が左右に分かれている。さあ、どっちだ。

「ハンニバル、鉱山の地図を」

 地図を取り出す。しかし、陰謀博物館の下に坑道なんてない。

「どこかに別の地図があったのかな」

「ちょっと待ってて!」

 フィルが叫んで、姿が消えた。地下道を進んで行っただけじゃあるまい。穴の外へ出たんだろうな。すぐ戻ってきた。

「あった。さっきコエリーニョが床下の穴を見つけたとき、俺も違うのを見つけたと思ってたんだ。墓石をどけたら、紙を見つけたよ。きっとこれが穴の中の行き方だ」

 読み上げてもらう。

「北、東、北、西、西、南……」

「待て、北はどっちだ」

 陰謀博物館へ入ったときは、南を向いていた。そこから左に階段を降りたが、おそらく途中で折り返して西向きになったはずだ。掘り返した床石は、左の手前。つまり南東の角。

「階段は穴に対してどっちを向いてたんだっけ」

 オリヴィアに訊く。

「確か、部屋の奥に向いてたはずよ」

 では、階段も西向きだ。一直線に降りたとしたら、右が北。ということで、右を向く。改めて、フィルに紙を読み上げてもらう。

「北、東、北、西、西、南……」

 フォワードライトレフトレフトフォワードレフト……と進む。最後にフィルは「北」と言ったが、そちらの方には道がなかった。

「もちろん、掘るに決まってるよ! とにかくみんな、掘るんディグだ!」

「待て! ヘルメットだ。ヘルメットを被らなきゃ」

 ウィルが勢い込んだが、フィルがそれを押しとどめる。なるほど、ここが埋まっているのは落盤か何かに違いないから、ヘルメットを被らずに掘り進めるとまた崩れてきて、頭を打ってゲーム終了オーヴァーってわけだ。ヘルメットを被りウェア・ザ・ヘルメット、いよいよ掘削開始。

 こういうとき、「digディグ」って言い続けるのか。何か便利なコマンドないのかよ。それにしても、すごいスピードで掘り進んでるなあ、映像的に。

 しばらくすると、鶴嘴ピックアックスが石壁を叩く音がした。いや、石扉らしい。

「穴を横に掘って、広げて。きっと、扉を開ける仕掛けが出てくる」

 またフィルが指示する。横に掘ると、そこに石壁と石扉があることがはっきりと判るようになった。そして石壁に、怪しい窪み。何かをそこへ入れろと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る