#16:第2日 (16) [Game] 博物館の学芸員

 それから主にウィルとフィルで、この後の相談をしている。まず、手に入れるべきアイテム。懐中電灯フラッシュ・ライトもしくは蝋燭とライター。それはまあ解る。アドヴェンチャー・ゲームの必須のアイテムだ。夜に何かするときだけでなく、鉱山もあるのだからトンネルへ入るときに役立つ。俺は現実のアイテムとしてライターを持っているが、ゲームの中では使えない。

 さらに、「鉱山があるから」という理由でショヴェル、鶴嘴ピックアックス、ヘルメットが手に入れられるのではないかと言っている。どこかを掘るイヴェントは確かにありそう。

 また、教会に関するを探す。狭い町なのにこれだけ教会があるからには、必ずやそれに関連するアイテムがあるはずだと。そのために聞き込みをする。

「チラデンテスのことを調べたいんだが、コエリーニョに頼む。陰謀博物館へ行って」

了解エンテンディ!」

 チラデンテスという名前が突然出て来た。ここで質問すると余計な時間を使うので、後で自分に調べよう。さらにオリヴィアはサン・フランシスコ・ヂ・アシス教会の調査と、その前の市場での買い物を頼まれている。ウィルとフィルは鉱山の方へ行くようだ。ダンジョンがあるのを期待してるのかもしれない。

「で、ハンニバル、あんただけど」

「何かすることあるのか」

 指示を出す方と受ける方が逆だな、本来は。

「鉱山科学技術博物館が気になるから、見てきてよ。あんた、学者っぽいから、そういうの見るの、好きだろ。それが終わったら、この広場の周りで食事とか買い物とかして、聞き込みして。何か気になることを見つけたら、僕に電話するか、全員にメッセージを出して」

 メッセージの出し方が解らないが、一応了解しておく。コマンド・モードがあるんだ。きっとヘルプもあるって。そういや、金はどうするのかな。現実の金は使えないんだろ、どうせ。後でアイテムの確認をするかあ。

「じゃあリアル・タイムの残り1時間半、目一杯調査に使うから。広場に戻る前に時間切れになっても構わない。今日のうちにシャヴィが見つかればいいけど、たぶん無理だと思うし」

 ということで解散。俺が最初に行くべき鉱山科学技術博物館は、今いる広場――実はチラデンテス広場ということがコマンド・モードで判った――のすぐ北にある。そこへ行けば、チラデンテスが何かもきっと判るだろう。

 博物館の建物は見えているのだが、入り口がどこか判らない。それを判りやすくすることは、集客につながると思う。そういう指摘はさておき、広場の北西角へ。さっきここから俺は西へ向かって降りたのだが、今度は北へ坂を登る。博物館らしい立派な入り口はなくて、民家の玄関かと思うようなドアをくぐる。それでも受付はあった。

 無愛想な受付係に入場料を払う。さて、どうやって?

「キャッシュ・カードをお持ちですね?」

 持ってると思うんだけど、どこからどうやって取り出すんだろう。まさかコマンド・モードに入るとか? おお、俺のアヴァターの右手が何か持ってるぞ。持ってる感覚は何もないんだけど、まさかこれがキャッシュ・カードか。受付の横にある端末に近付ける。

「ありがとうございます。どうぞ中へ」

 チケットってないのな。それはさておき、支払いが終わったら俺の右手にはもう何もなかった。つまり金を払う状況になると、カードが勝手に現れるってことか。ところで、中を効率よく見て回りたいんだけど、どうすればいいか。

学芸員キュレーターに案内してもらえる?」

 受付係に言ってみる。仮想世界の中だと、肩書きを振りかざせば美人学芸員キュレーターが出てくると思うんだけどね。「お待ちください」と言われたが、1分も経たないうちに美人が目の前に現れた。おお、カリナのアヴァター! 見つけたよ、よかったよかった。

「ようこそ、ミスター・ハンニバル。博物館をご案内します。こちらへどうぞ」

 声もカリナと同じ。もちろん胸や尻の大きさも同じ。ついでに尻の振り方まで同じ。

「当博物館には、鉱物学、冶金学、博物学、物理学、天文学、地形学の六つのセクションがあります。どれをご覧になりますか?」

 これは便利でいい。きっと見ながらいろいろ説明してくれるんだ。で、一つのセクションを見終わると、もう一度同じ台詞を言うなんてことはないよな。しかし、全部見ていると時間がないだろう。三つか四つに絞る必要がある。

「では、鉱物学を」

 鉱山の町だから、鉱物学は当然だろう。そして金鉱があるんだから冶金学も見るべき。残り一つか二つが難しい。ただしこの手のゲームでは「意外なヒント」があるべきなので、鉱山と関係なさそうな天文学がいいのではという気がする。

 ともあれ、鉱物学から。アヴァター・カリナと共に長い廊下を歩くが、ここでもコマンド・モードが使えたりする? こっそり腕時計を叩いて「フォワード」と呟くと、一瞬にしてどこかの部屋に入った。もちろん、アヴァター・カリナも一緒に。なかなか面白い。

「オウロ・プレットは金鉱の町として知られていますが、その他には銀やトパーズ、トルマリン、瑪瑙などを産出しており……」

 鉱物の現物を見ながらアヴァター・カリナが説明してくれる。各鉱物の特徴や、どういう地質のところに産出しやすいかを丁寧に教えてくれるのだが、身体を動かすたびに胸の揺れが自然に再現されているのが気になる。こんなところにこだわる必要があったのだろうか。

 ブラジル・ゴールド・ラッシュで金鉱はほぼ掘り尽くされたが、今でも多くの鉱山は稼働しており、特にトパーズはミナス・ジェライス州が世界最大の産地で、赤みがかったインペリアル・トパーズが有名であるらしい。

「他に、冶金学、博物学、物理学、天文学、地形学の五つのセクションがあります。どれをご覧になりますか?」

 説明が終わるとアヴァター・カリナはさっきと同じ言葉は繰り返さず、一つ減らした。冶金学をリクエストし、アヴァター・カリナが歩き始めた瞬間、コマンド・モードでフォワードすると、もう次の部屋にいた。

「金や銀を鉱石から取り出すには製錬という工程が必要ですが」

 写真や説明パネルの前で、アヴァター・カリナが話す。オウロ・プレットの精錬過程だけでなく、古代から最新まで。乾式製錬、湿式製錬、電気精錬の詳しいことも。製錬技術が進んでいるせいで、オウロ・プレットにある連邦大学では冶金工学のレヴェルが高いそうだ。ちなみにこの博物館は、連邦大学の付属施設とのこと。

「他に、博物学、物理学、天文学、地形学の四つのセクションがあります。どれをご覧になりますか?」

 予定どおり、天文学を選択する。天文学の部屋へ移動して、天球儀や日食シミュレイター、天球模型などを見ながら説明を聞く。意外なヒントは出なかった。なぜここで天文学なのかを聞く。

「ブラジルは南米の中でも天文学が一番進んだ国ですから」

 南半球最大の人口を抱えてるからか。高地だから天文台でもあるのかと思ったが。ブラジルの国立天文台はリオにある? それ、俺には有用かもしれないけど、このゲームに必要な情報なのか?

「他に、博物学、物理学、地形学の三つのセクションがあります。どれをご覧になりますか?」

 あと45分ある。まだ続けるか、それとも外で他の調査をするか。しかし当てはないんだよな。もう一つ聞いておこう。地形学を。

 測量道具が置いてある部屋へ。測量の時によく見かけるセオドライトという装置の、最初期のモデルを見せてもらう。ここは地形が複雑だし、鉱脈がどこに埋まっていそうかを調べるには、地質調査と併せて測量が大事だったのはよく判る。鉱脈と鉱山の地図が出て来たぞ。これ、アイテムとして入手できるのだろうか。

「ミュージアム・ショップで地図のレプリカがありますから、それをお求めになれば」

 そうする。どうもありがとう、カリナ。いや、本人じゃなかったんだった。

「ところで、チラデンテスについて教えてくれないか」

 ミュージアム・ショップへ移動してからアヴァター・カリナに訊く。

「ブラジル独立運動の先駆者で、本名はジョアキン・ジョゼ・ダ・シルヴァ・シャヴィエルです。ポルトガル政府に逮捕されて処刑されましたが、その4月21日は現在は祝日になっています。チラデンテスは『歯を抜く人』という意味で、歯科医だったことに由来しています。詳しいことは、広場向かい側の陰謀博物館ムセウ・ダ・インコンフィデンシアでご覧になってください」

 独立の英雄か。それは大事だな。おそらく、このゲームの中でも。さて、レプリカ地図を購入。これ、どうやって持っていればいいんだ。あれ、消えた?

「本日はお越しいただき、ありがとうございました、ミスター・ハンニバル。この後もよい一日をお過ごしください」

 アヴァター・カリナに見送られて博物館の外へ。さて、地図は? コマンド・モードにしてアイテムの確認。「アイテム」と言えばいいのだろうか。おお、目の前にアイコンが。地図がちゃんとある!

 さすがゲーム。アイコン化して持ってられるんだ。数や大きさに制限はあるのだろうか。いろいろ買ってみよう。キャッシュ・カードの残額はたくさんあるようだし。

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