#14:[JAX] 盗聴器付き写真立て
「彼はいつ頃から俺を調べていた?」
「はっきりとは判りません。ですが、あなたが入団する前後から、チームの状況を訊かれるようになりました」
それまではジャガーズに興味がなかったのかよ。妻が勤めてるってのに。
「接続したデヴァイスはどんなもので、いつ頃?」
「デジタル
マイクの電源として利用するのなら、チェックには引っかからないからな。
「そんなものが置かれていたなんて気付かなかった」
「あなたの立つ位置からは見えないところに置いていました。他の人も、ほとんどあの位置に立つので、見えないはずですが……」
「しかし、マイクだけでは盗聴できない。どうやって聴いていたんだろう? オフィスから不審な電波が漏れていれば、保安部が気付くはずだ」
「休みの前の日には持って帰ることにしていたので、録音したものを家で聴いていたのだと思います。ときどき、写真データを入れ替えると言うので、デヴァイスを彼に渡しましたから」
「だが、それでは一昨日の夜に俺が電話で話したことが……話したふりをした内容が聴けない。昨日の朝に、君がオフィスに来てからデジタル
「それは……わかりません、どうやったのか……」
「何か他のデヴァイスを持って来て、置いて帰ったりしたんじゃないのか? コンピューターに接続しないものでもいいから、思い出してみてくれ」
「いえ、何も……」
「昨日、一昨日だけじゃなくて、その前にも?」
「ありません」
そんなはずはない。いや、待てよ。あのオフィスはマギーがいない間もドアは開けっぱなしだ。つまり、夕方にマギーが帰ってから誰かが何かを仕掛けて、次の日の朝にマギーが来るまでにそれを回収するということができるはず。
そもそも、俺は昨日も一昨日も、デスクにデジタル
だとしたら、まずいことをしたぞ。俺とマギーがここに来ている間に回収されてしまったかもしれない。
マギーを誘って、オフィスに戻る。何も変わりがないかのように見える。だが、デスクのコンピュータの前にデジタル
「抽斗に錠は掛けている?」
「はい」
「開けてみてくれ」
マギーがバッグからキー・ホルダーを取り出し、錠を外した。抽斗を開けたが、不審な物はない。だが、デジタル
しかし、もはや証拠はない。が、スタッフの中にもう一人、探偵の協力者がいることは判った。しかもこんな早い時間にスタジアムに来ている……今からオフィス・エリアの中を走り回れば、そいつが特定できそうに思うが。それよりも、マギーだ。もう一度、会議室に行く。
「とにかく、今回のことで君が責任を感じる必要はない。君は知らないうちに君の夫に協力させられたんだ。何も悪くない」
「ですが……」
「チームに実害も出ていない。記事を書いた奴が信用を落としただけだ。君の夫も、盗聴した情報の裏を取るべきだったが、その前に記事を書いて、公開した連中が悪い。チームやUCLAが追及するのはその連中だ」
「ですが、詳しく調査すれば、私や私の夫が関与したことも判ってしまいます。知らなかったからと言って、無実で済まされるはずがありません……」
確かにそれはそうで、マギーが「盗聴器のことを知らなかった」のを証明するのは難しい。しかし同様に、「知っていた」ことを証明するのも難しい。俺が
だが、彼女の夫が「知らなかった」のはあり得ないだろう。盗聴器付きのデジタル
とりあえず、今はマギーの心の安定を図らなければならない。本来なら俺ではなくて、彼女の夫がやるべきことだってのに。
「OK、マギー、俺の話を聞いてくれ。君がしたことが、悪いことかそうでないかを判断するのは、俺の話を聞いた後だ。解るな?」
「でも……でも……」
「マギー、まず俺の話を聞いてくれ。今は考えるのをやめて、聞くんだ。考えるのはその後だ。いいか?」
「でも……はい……」
「俺の話を聞くと言ってくれ」
「私は……私は、あなたのお話を、聞きます」
「OK、まず、デジタル
「そうです……ありません」
「俺の話が漏れたのはあの部屋であることは間違いないが、あの部屋に盗聴器が仕掛けられていたという証拠もない。そうだな?」
「そうです……ありません」
「あの部屋は、君がいない間、誰でも入ることができた」
「できます……」
「そうすると、君以外の人があの部屋に盗聴器を仕掛けることは可能だ。いつ、どこに仕掛けたかは解らない。だが、可能だ」
「可能です」
「君の夫と、雑誌記者の関係はまだ証明されていない。少なくとも、君は関係があることを知らない」
「知りません」
「雑誌記者は、チームやUCLAに追及された場合、君の夫との関係を漏らすだろうか? もし関係があったとして、だが」
「漏らさないでしょう……でも、誰かが証明する可能性が……」
「だが、今まであの手の
「それは、私は知りません……」
「知っておいてくれ。どんな荒唐無稽な記事を書いても、非難はされるが、情報ソースは明らかにならないんだ。それは、記事が嘘なら、その情報ソースの存在自体が否定されるからだ。嘘の始まりがどこかなんて、追及しても意味がない」
「それは解る気がします」
「今回の嘘の始まりは、もちろん、俺だ。だが、伝わった経路を追及しても意味がない。嘘を本当らしく発表した連中だけが非難されるんだ。『確かな情報ソースから入手した』なんて言っても、誰も信用しない。確認を怠った責任だけが問われる」
「そうなのですね……」
「だから、君が経路に含まれているかどうかなんて、問題じゃない。君に罪は存在しない」
「ありがとうございます……あなたに、そうおっしゃっていただけるだけで……」
「君を信用しているのは俺だけじゃない。チームの全員だ。それを解ってくれ」
「ありがとうございます」
「今日は、仕事ができる精神状態じゃないなら、早退してもいい。君の代わりは誰かがしてくれる。明日と明後日は休日だな? 明後日の、月曜の夕方に、オフィスで会えるだろうか。君が落ち着いてから、もう少し話が聞きたい。休日にオフィスへ来させて申し訳ないが」
「いえ……来ます。今日も、できる限り仕事をしてから帰ります」
「無理はするな。君がダウンすることは、チームの大きな損失だ。ダニーが怪我をするよりも痛い」
「ありがとうございます……はい、無理はしません」
肩を抱いて慰めてやりたいところだが、人妻だけに遠慮しておく。それはそうと、彼女の夫である探偵のことをちょっと調べてみたいが、どうすればいいだろう。俺自身が探偵をするわけにはいかないし。
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