#14:[JAX] 予言どおり
午前中からスタジアムに来てはいるものの、それは自主練習であって、火曜の全体練習は午後から。いるのは俺だけではなく、トレーニングが好きないつもの面々。しかしみんな話もせず、黙々と取り組む。
俺としては運動の合い間にちょっと雑談したりジョークを言ったりしたいのだが、誰も聞いてくれない。ジョークを聞いた奴は「力が抜けてやる気が削がれる」からだそうだ。
ここへ来るようになってからわずか数週間でそんな評判ができあがるとは、思ってもみないことだった。アリーナ・リーグの連中は、もう少し寛容だったのに。
昼食の後、練習場の会議室に行って、オフェンス全体ミーティングに参加する。
パート・ミーティングへ分かれる前に、ボビーが呟いた。
「アーティーのジョークが本当になっちゃったね」
「ジョークじゃない、
リザーヴ・リストの入れ替えの話はさっきのミーティングで発表されたのだが、あらかじめ知っていたことにしておく。それにしても、今週末は怪我で休む奴が多い。バックスに使える
「レギュラー・シーズンは残り全ゲーム、アーティーが先発でいいと思うんだけどなあ。ゲームごとに変えるのは僕らがやりにくいんだよ。シーズンの最初から二人制、とかならまだいいんだけど」
「奴の方がサラリーが高いから、その分働かせたいんだろう。前のサーズデイ・ナイト・ゲームみたいにすぐ潰されないように、ちゃんと守ってやれよ」
「ダニーはプレイ自体はうまいんだけど、怪我しやすいからなあ。
「そんなこと比較してやるなよ。だいたい
「みんな改善はしてるんだけどね。でもポケットの中の動き自体は明らかにアーティーの方がうまいよ。どこにいるのか、見えなくてもだいたい解るんだよね」
「俺はマイアミ大の時と同じ動きをしてるからな。それはともかく、夜のスナップ練習はちゃんとやるぞ。ダニーともやれよ」
「やろうかって言ってもやらないって言われるんだ。そもそも、追加でスナップ練習したがるのはアーティーだけなんだけど、どうしてなのかな」
「タイミングってのは繰り返すことでしか練習できないものだからだよ」
「そういうこと言うのもアーティーだけなんだよなあ。コールを出すのも、ボールを捕るのも、
「俺は目をつぶっていても捕れるようになりたいんだが、他の奴は違うようだな」
「違うね。僕がいつも同じタイミングで同じスナップを出せばいいらしいよ」
「そんなことできるもんか。機械じゃあるまいし」
とはいえ、精密機械のような動きを要求されるんだけどな。
「やることは先週までと変わらんよ。ただ、名前を呼ぶ時に、先にダニーを呼んで、次にアーティーを呼ぶってだけだ」
リックが言う。しかし、プレイの練習の時でも先にダニーの方がプレイするという序列があるはずだ。俺としてはダニーのプレイを見て修正できるという利点があるので、後の方がやりやすいと思っているくらいだけどな。
あと、練習中あるいは練習後の相互評価。互いのプレイを見て気付いたことを言うのだが、控えの方が先に言う。俺はダニーに遠慮なく意見を言うのだが、奴の方から意見があることは少ない。ハイズマン賞を獲ったプライドがあって、
そういう新人
しかし、成功した例よりも失敗した例の方がはるかに多いのが事実、というだけだ。どんな態度で練習しようが、カレッジとプロではスタイルを変える必要があって、そのスタイル・チェンジに対応できた者だけがプロで成功する。それはポジションを問わない。
ちなみに、プロ入り前の評価が高かったのに、それに見合わない不出来なパフォーマンスで早々に引退すると、
ブラウンズの
ただし、相手も怪我のことを知っているから、そこを突いてくるに決まっている。治っていても、頭で気にしていれば、それは弱点だ。俺から見ればダニーは気にしているようだが、コーチの考えは違うらしい。いずれが正しいかは、週末のゲームの中で判る。
ただし、俺が正しさが証明されることは、ゲームに負ける――負けそうになる――ことを意味するから、ぜひ外れて欲しい、と願っておこう。
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