#14:第1日 (5) リタ・スコット
搭乗までまだあと少し時間があるので、
距離はどうでもいいとして、面積を平方マイルにするにはだいたい40%の値にしてやればいいので、60平方マイルくらいだろう。
島の形を形容するのは難しいが、おおよそ楕円形に近いと思っていて間違いない。“
珊瑚礁が発達しており、砂浜は白く綺麗で、浅瀬が多くてダイヴィングなどのマリン・レジャーが充実している。グランド・テール島同様に動植物とも固有種が多く、ヤモリの世界最大種がいる。
泊まるホテルは島の東部のオロ集落にある、ル・メリディアン・イル・デ・パン。それは最初に聞いたぞ。だいたいこんなところで、もっと詳しいことは
搭乗時間になったが、その
「買い物が終わったので、飛行場へ向かうそうです。出発直前に着くが、搭乗手続きは終わっているので問題ないと。ですから、先にご搭乗いただいて、機内でお待ちください」
なかなかスリリングな
「わかった。ジルベルト、エティエンヌ、今日は半日だが大変世話になった。感謝する」
「ご満足いただけてよかったです」
満足はしてないけどね。二人と握手をし、搭乗口をくぐる。現地人と思われる
すぐに他の客が入ってきた。70人乗りくらいなので、大混雑ということはない。入ってくる客の顔をじっと見ていると不審に思われるので、座席前のポケットの機内誌などを読む。
ほとんど座席が埋まったようだが、俺の隣には誰も座らない。しばらく客が途切れた後で、最後の一人が乗り込んできたらしく、
「隣に座ってよろしいですか?」
見ると、ブルネットのショート・ヘアでとびきり可愛らしい顔の
「君は……おっと!」
「
驚いて思わず立ち上がろうとしたが、シート・ベルトを締めていたので立ち上がれなかった。もし立ち上がっていたら、
「
「いいえ、ここは私の席なんです」
「メグ……」
「
その声も、その笑顔も、俺が知っているメグで間違いなかった。15年後のメグではない。約7週間前のヴァイケション・ステージからほとんど変わりのない姿だった。
若返り手術をしたのか。いや、そんなことで15年若返るはずがない。それとも、若返りの泉の水でも飲んだのか。フロリダのセント・オーガスティンにあるけど、あれは偽物だぜ。
「どうして……」
「1年ぶりにお会いできて、本当に嬉しいです」
1年ぶり? どういうことかよく判らない、15年ぶりではないのか?
「去年に引き続いてポート・ダグラスにお越しいただけると思ってお待ちしていたのですが、こんなことになってしまって。いいえ、解っています。カンタスのストライキのせいですね? 先週から、海外のお客様はみんなキャンセルになってしまいましたから。あなたの行き先がニュー・カレドニアに変更されたのが解ったので残念に思っていたのですけれど、マリオット・インターナショナルの本部から私に直接指示があったときには驚きました。でも、あなたにお会いできると思って、大喜びで飛んできたんです! ストライキの余波でエア・ニュー・ジーランドのスケジュールまで乱れてしまったので、今朝には間に合わなくて、大変残念でしたが……」
話の途中で機内放送が入って、聞こえにくくなったが、去年に引き続き、とメグは言った。すると、このステージはメグにとって、前回のヴァイケション・ステージの1年後という設定なのだろうか。
そういえばビッティーは、仮想世界を作るときに、関係ない時代からでも適切と思われる人物を集めてくる、と言っていた気がする。そもそも、俺自身がいろんな時代を行き来してるじゃないか、同じ姿で。
だとしたら、あの時のメグが、2002年の記憶を2016年にすり替えてここに現れたとしても、何の不自然もない、ということになる! さすがは仮想世界……
「どうしてそんなにぼんやりなさっているのでしょう? それとも、
メグが微笑みを崩さずに聞いてくる。そんな顔をして、俺を困らせようとしてるんだな。そういう可愛い女にはお仕置きだ。
「君が本気で、君以外の誰かに俺の
「あら! 申し訳ありません、先ほどの私は言葉が過ぎました。私以外の誰かに、あなたの
メグは期待どおりの困り顔を見せてくれた。なんて可愛いのだろう。さすが俺のメグだ。
「もちろん、俺がそんなことを本気で考えるわけがないだろう。ところで、シェラトンとル・メリディアンはどちらもマリオット・インターナショナルだったのか?」
「はい、去年まではスターウッド・ホテルズ&リゾーツでした。ですが、ブランドを超えての人材起用なんて、普通は考えられないことです。財団からの特別なご指示があったのかと」
「もちろん、俺は希望したけどね。でも、通るかどうか解らなかったんで、君が現れたときに驚いたんだ」
「代理の者から私のことはお聞きにならなかったのですか?」
あの二人、知ってたのか!
いや、待てよ、メグの名前は本当に知らなかったかもしれないが、サプライズ人事だということは聞かされていて、それで黙っていたのかもしれない。つまり犯人はル・メリディアン・ヌーメアの支配人だ。謎は全て……まだ解けてないか。
「名前はR・スコットだと聞いていたんだが……」
あいにく、飛行機が滑走路走行を始めてしまい、騒音で声が聞こえなくなってしまった。顔を近付ければ話せるに違いないが、そんなことをするとメグの耳元にキスをしたくなるかもしれないので、今はやめておく方がいい。
離陸して、飛行が安定してきたところで「R・スコット」をもう一度言う。
「スコットは私の結婚前の
結婚前がスコットで、結婚後がハドソン。スコットに戻ったということは……そして彼女がマドモワゼルと呼ばれていたということは……
つまり、独身。メグは独身。メグは独身。重要なことだから、もう一度頭の中で復唱しようか。メグは独身!
さりげなく、膝の上で重ねている左手を盗み見る。薬指に指輪をしていない。よし、独身確定。
「名前のRは?」
「つい先日まで、パリのル・メリディアン・エトワールに半年間、研修に行っていました。その時には、リタというニックネームを使っていたんです。ですから、ル・メリディアンで仕事をするときにはリタ・スコットになります。リタとお呼びいただければすぐに仕事モードに入ります」
「ヘイ、リタ」
「
「ヘイ、メグ」
「
「本当にそれだけで切り替わるのかな」
「そうなるように意識付けしましたから」
そうか、メグはここではル・メリディアンのスタッフなんだ。俺の恋人として旅行に付いて来てるわけじゃない。
「そうすると、ホテル内で君を呼び出したいときは、リタと言わないといけないのか」
「そうですけれど、そんなことにはならないと思います」
「どうして」
「だって、私は常にあなたのおそばにいて、
はあ、なるほどね。いや、待て、今、とても重要なことを聞いた気がするぞ。「同じ部屋の中にいる」だと?
「イル・デ・パンではバンガロー・パノラミック、ヌーメアではスイート・ディプロマティックと聞いています。どちらもベッド・ルームとリヴィング・ルームがあって、私はリヴィング・ルームに常駐します。ベッドもソファーを使う予定です。もちろん、しばらくの間、外に出ていて欲しいとか、お使いに行って欲しいとか、そういうご要望は受け付けますが……」
俺がメグに出て行けなんて言うわけないだろ。それより、錠も掛けられない隣の部屋にメグを寝かせて、俺が何もせずにいられると思うか?
いや、今までのステージでは、女から迫られたときしかしてないけどさ。でも、今回はメグだぞ。重要なことだからもう一度頭の中で復唱するけど、今回はメグが隣の部屋で寝るっていうことなんだぞ?
「今回もなるべく君に手間をかけないようにするよ」
「いいえ、たくさんお世話させてください!」
ヴァケイションでゆっくりしに来たのに、そんなに頼むことがあるわけないだろ!
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