#11:[JAX] 昼食の誘い
いつもの時間に、いつものドアをノックする。マギーは俺がノックをする前からこちらの方を見ている。いつもの無表情だが、三日ぶりなので懐かしく感じる。
「
「
「はい」
「君はいつが休みなんだっけ」
訊きながら、マギーのデスクの近くまで行く。マギーは手を止めて俺の方を見ている。いつもどおり、いい形の眼鏡だ。
「基本的に、ゲーム・デイと、その翌日です。先週も同じ質問に答えました」
「そうだったかな。ゲーム・ブック以外のことは忘れやすいんだよ。でも、今週の月曜日はいたじゃないか」
「今週は木曜日がゲーム・デイなので、月曜日にはたくさんすることがあったのです。代わりに、先週の土曜日にお休みを取りました」
「いや、その日にもいたはずだよ。モトの修理屋のことを訊いたろう? あれも教えてくれて助かったよ。いい店だな、あそこは」
「緊急の要件があって、8時15分から30分間だけ仕事をしたのです」
「そうだったかな。俺がここへ来たのは9時だったはずで」
「申し訳ありません、私の記憶違いでした。8時45分から30分間でした」
「申し訳なく思ってくれることはないよ。俺は君がいて助かったんだから。で、それは家ではできない仕事?」
「はい」
「ちゃんと休日出勤をつけておいた? 法令違反で君が出勤できなくなったら、みんがな困る」
「申請しました。月の残業時間も問題ない範囲です」
「それはよかった。俺も、君に残業や休日出勤させるつもりはないんだが、君に訊かないと困ることが多くてね」
「何のご質問でしょうか?」
ようやく焦れてきたか。もっと無駄話を続けたいのだが。
「またレストランのことなんだ。ただ、今日訊きたいのは、いつもとは違って、女性を昼食に誘うのにいいのはどこか紹介して欲しいと思ってて」
「あなたの恋人を誘うのですか?」
驚くでもなく、悲しむでもなく、いつもの無表情で訊いてくる。彼女の表情を変えるには、どんな話をすればいいのやら。
「まさか。俺に恋人がいないのは君も知ってるとおりだよ」
「私は何も存じませんが」
「本当に? プレイヤーの誰に恋人がいるとか、ここでは話題にならないのかな」
「なっているかもしれませんが、私は興味がありませんので」
「興味を持つかどうかは、君次第だからね。それで、誘うのが俺の恋人かどうかで、紹介するレストランが違ったりするのか?」
「そのようなことはありません」
じゃあ、どうして俺の恋人かどうか訊いたんだ? それとも、俺が女を食事に誘うなんてあり得ないと思ったのかな。
「そうか、まあいいや。実は、
メキシカン料理と言った時点で、マギーは検索を始めていた。そして俺が無駄なおしゃべりをしている間に、メモを書いてくれている。コレクションが一つ増える。
「少し遠いところもありますが、3件紹介します」
「やあ、ありがとう」
いつもながらの美しい字で、感動する。しかも、今日は文字の数がひときわ多い。
「値段に少し差がありますので、事前に下見をしておくのがよいかもしれません」
「俺が? ああ、ヴォーンに下見しろと言えばいいのか。そうしよう。ところで、君はチアリーダーのこともよく知ってる?」
「はい、一通りは」
「ヴォーンが付き合いたいと言ってる子のことも知ってる? 名前は確か、エリン、エリン……」
「ミズ・エレノア・チェンバーズでしょうか?」
「イエス! まさにそのとおり。どういう性格?」
「とても素直で、面倒見がよくて、困っている人を放っておけない性格です。努力家で、上昇志向は強いですが、他人を押しのけてまでということはなく、協調を重視します」
「いい性格だな。どういう男が好みか知ってる?」
「それは存じません」
「その、エレノアと仲がいい子は? 周りからの情報も参考にした方がいいと思って訊いてるだけなんだが。ああ、彼女と一緒に入ってきたチアリーダーたちの名前でもいいよ」
「ミズ・エリザベス・チャンドラー、ミズ・リリアン・スタンフォード、それからミズ・ヴィヴェカ・スコールズです。ミズ・スコールズはダンサーではなく、3人のマネージャーですが」
「エリザベス、リリアン、ヴィヴェカね。ところで、エレノアみたいな性格のいい子は、どうやって口説いたらいいと思う? ヴォーンのために訊くんだが」
「それはご自分でお考え下さいと、ミスター・パノスにお伝え下さい」
「ああ、そう言っておくよ。実際、俺も困ってるんだ、女の口説き方なんか訊かれても答えようがなくてさ。俺だけじゃない、ラインの連中も練習の合間に訊かれて困ってるらしい。どうしたらいいと思う?」
「私にはお答えできません」
この答えがいい。これを聞きたくて、ついつまらない質問をしてしまう。
「
「よい一日を」
さて、明日はまたプロ・ショップの相談をするかな。
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