ステージ#11:第4日

#11:第4日 (1) モノローグ (4)

  第4日 2037年10月14日(木)


 ここは夜空が広い。

 そして北極星が高い。星は冬の配置。夜明けまではまだ遠い。

 水を含んだ風が、北から南へと吹き抜けてゆく。山の中の湖は、独特の匂いがする。特に、緑の少ない季節には、純粋な雪解け水の匂いが感じられる。氷が張る季節になれば、また匂いが変わるだろう。

 できれば、人の香りが混じらないのが望ましい。私はその水の匂いを愛する。私も水のように、無垢でありたい。その願いは、いつ叶うだろう。この世界が終われば、叶うだろうか。

 彼は、私のことに気付いただろうか。彼の目、彼の言葉からは判らない。だが、まだ気付いていないだろう。私のことを信用しつつあるかもしれない。彼はなぜ私のことを疑わないのだろう。隠しようもない特徴があるというのに。

 今の私が、私自身でないからかもしれない。今の私は、妹の姿に近い。彼の好みやすい私の姿。それは私の仮の姿だろうか。私自身の姿、私の本当の姿、それは私にも判らない。私の本当の姿を知るのは、ただ一人だけ。私はその人の前で、本当の私になれる。

 私はもう一度、彼を導かなければならない。次の行き先へ。私は彼を侮りすぎているだろうか。彼を気にしすぎているだろうか。しかし、このステージでは、彼の働きが必要になる。彼を利用しなければならない。彼のためではない。私自身のため。

 それは本当だろうか?

 もちろん、今の私にとっては本当。しかし、仮の私にとっては、そうでないかもしれない。彼を別の意味で必要としているかもしれない。

 私はそれでも構わない。いくつ理由があってもいいから。むしろ、理由は一つでない方がいい。その方が、彼の信用を博するのに都合がいいだろう。

 私は全ての物を利用しなければならない。私の目的を果たすために。私自身の本当の姿を探すために。本当の私を見てくれる人に会うために。

 ただ一つだけ判っていることがある。彼はアルテムの代わりではない。代わりにはならない。アルテムは私にとって唯一無二の存在であり、私が求めるただ一人の人だから。

 アルテム、あなたにはいつ会えるだろう?

 私にはわからない。けれど、いつか会えるだろう。私はそう信じる。

 この世界の、空の下で会えると。

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