#11:[JAX] 夜の過ごし方
チームとしての練習が終わっても、その後、自主的にトレーニングをする奴は多い。だいたいがウェイト・トレーニングだ。もちろんポジションによって鍛えたい部位が違う。ストレングスを付けるか、スピードを付けるかによっても、マシンやその使い方が違う。
俺の場合は全身をまんべんなく鍛えることが多い。いろんなポジションをこなしてきたことと、どこか特定の場所だけを鍛えると身体のバランスが狂うのを気にしてのことだ。
さて、その自主トレーニング。以前なら一番遅くまでやる奴でも12時頃には撤収するのだが、最近は少し様子が違う。といっても、俺が来てからのことだ。
最初は帰ろうとするボビーを捕まえて“オーヴァー・オーヴァータイム”、つまりさらに居残ってスナップ合わせなどのトレーニングをしていただけなのだが、1週間もするうちに
フォーメイションを決め、スナップのタイミングに合わせて、
で、せっかく
「とは言っても、お前、避けるのがうまいから、こっちがフラストレイションたまるんだよ」
「とは言っても、俺の特技はそれだけなんだから、仕方ないだろ。当たられても怪我しないように倒れるとか、パスが通るかどうかより、そっちを気にしてんだから」
「お前に当たってもスマッシュした気がしないんだよな。何かいつも芯を外されてるような気がしてよぉ」
今度は
「だから、芯を外すように俺が動いてんだよ。よし、じゃあ、今日はスマッシュ・ヒットの練習でもするか? サーズデイ・ナイトは俺じゃなくてダニーがスターターだし、1週間で治る怪我までなら許してやるぜ」
「よせよ。間違ってお前を壊しちまったら、控えがいなくなるだろうが」
「J・Cがいるさぁ。ここにはいないけどな」
「大丈夫だよ、アーティーはそんな簡単に壊れないから」
ボビー・レイマーが余計なことを言う。マイアミ時代の俺の頑丈さを知っているからだ。
「ボビー、お前、この後、さらに居残りでスナップ100本な」
「冗談だよ、アーティー」
「俺だって冗談だよ、ボビー。よし、次だ」
ハドルを組んで、コールを考える。レシーヴァーもバックもいないが、正しい組み合わせをコールしないと意義が薄れる。
「
47はドニーの番号。こうやって相手
「オマハ、ハット!」
ボビーがホールディング同然で止めようとしたが、その腕をリップでかいくぐってタックルを仕掛けてくる。それをかわしながら右のコーナー・ルートで走るレシーヴァーを想定して、サイド・ライン際に投げる。もちろん、その直後に強烈なタックルを喰らった。
「ナイス・スマッシュ!」
「
せっかく褒めてやったのに、ドニーが悔しがる。その前に俺の上からどけよ、重いだろ。
「ヴォーン、ボールはどこに落ちた?」
「
「ライン上じゃなかったか」
「ラインよりボール一つ外かなぁ」
「
「J・Cなら片手で取れるかも」
「ドニー、重いよ、早くどいてくれ」
「アーティー、お前、俺が当たる瞬間に後ろへ飛んだな!?」
ようやく俺の上からどいたドニーが、俺の手を持って引っ張り起こしながら言う。
「だって、お前のタックルをまともに喰ったら、痛くてしゃれにならないからよ」
「冗談だろ。どうしてそれで45ヤードのパスが投げられるんだ、お前は!?」
横に立っていたジャミールが言う。右の
「遠くに投げても取れなかったら意味ないさ。J・Cの足を想定して投げたが、レイヴンズの
「訊いてるのはそういうことじゃねえって!」
「普通なら、ドニーを見て投げるのをあきらめて、一歩引いたところを俺に捕まるもんだぜ、アーティー」
ジョージが言う。奴の動きは見えてなかったけど、来るのは一応判ってたから、下がるのは無理と判断したまでで。
「後ろから当たられるよりは、前からの方が受け身が取りやすいから。横に倒されるのが一番危ない。肩をやる危険性が高い」
「じゃあ、パスもあきらめて万全の体制でサックされた方が安全だろうに」
今度はマット。どうして順番にしゃべるんだよ。それはそうと、お前、ラッシュが完全に一歩遅れてたな。つまづいたのか?
「ドニーが本気でサックに来てたらあきらめてたよ。しかし、
「俺は元々練習で手を抜くことなんてできないんだよ、あきらめてくれ」
全く、ドニーはこれだから。
「しょうがないな。ボビー、次はちゃんと止めろよ」
「今のは
「4人のラッシュを5人で止められなくてどうすんだよ、よし、次だ」
ハドルを組んで、コールを出す。「レディ・セット! オマハ・ハット!」。ドロップ・バックしてハンドオフ・フェイクからのプレイ・アクション・パスだが、スタンツでドニーとマットがクロスして、中央と右から入ってくる。ジョナサンとクレイグはジョージをダブル・チームで止めているので釘付け。
「ナイス・スマッシュ!」
「
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