#5:第1日 (2) アービターからの警告
「
姿はエレインのままで、声だけが
「エレインと同じ
「ご質問がありませんでしたので」
質問がなければ何も教えてくれないのか、などと開き直りたくなる。しかし、エレインの顔で、それと似合わない丁寧なしゃべり方をされるのはどうも調子が狂う。
「同行者が必要になる理由をもっと詳しく説明してくれればよかったんだ。だいたい、エレインが俺にくっついて
「その理由については既に記憶としてインプット済みですが、改めて説明が必要でしょうか?」
そう言われて“思い出した”。この
「じゃあ、従兄と二人で参加してる女が他にもいるってのか?」
「はい。特に珍しい例ではありません」
そう答えられたら他に文句の付けようがない。単に俺の方が気にしすぎなのだろうか。それとも、この時代と俺の時代による考え方の差か。まあいい、どうせ相手は本物のエレインじゃないんだ。そもそも、
「解ったよ。じゃあ、別の質問。今回のこの
「はい。より正確には、7日目の24時が制限時間となります。なお、今回の行程ではタイム・ゾーンを東へ向かって2回通過します。詳しくは船内で案内がありますが、時間の繰り上げが2回発生しますので、ご注意下さい」
「タイム・ゾーン……そうか、ロスとアカプルコに時差が2時間あるということなんだな?」
「はい」
「いつ繰り上がるんだ?」
「船内で案内があります」
「一般的なルールを教えてくれ」
「船内新聞、
通常時間から夏時間に切り替わるときは夜中の2時になったら3時に進めるが、それが1時になるわけだ。
「この腕時計は勝手に調整されるのか?」
「いいえ、ご自分で調整をお願いします」
いや、待てよ、これ、本当にスマート・ウォッチなのか? ターゲットの判別と、
「ところで今日は何年何月何日なんだ。エレインなら知ってるんだから代わりに君が答えたっていいはずだな?」
「はい。1975年2月16日、日曜日です」
また20世紀に戻った。だいたいそれくらいだろうとは思っていた。それにしても、どうも気になる舞台設定だ。どこかで見たようなことがある気がする。まあ、そのうち思い出すだろう。
「他に質問がなければエレイン・ガーロットに戻ります」
「待て、ずっとそのままでいるわけにはいかないのか?」
「
そうか、忘れていた。しかし、そうなると夜はやっぱりエレインとこの
「アーティー、昼食の時間を確認してきて。
考え込んでたらエレインに戻ってしまった。相変わらず人使いの荒い奴だ。しかし、外に出ている間はエレインの顔を見ずに済むから助かる。
「それから、私、しばらく休憩したら水着に着替えてプールへ行くから、
「……アヴァターなのに泳ぐのか」
「何か言った?」
「何でもねえよ」
とにかく、なるべく
「
「
「済まないが、ターゲットが何だったかもう一度教えてくれ」
アヴァターの話のごたごたのせいで、ターゲットが何だか忘れてしまった。確か何とかのコインだった気がするが。なぜこういうこと大事なことが、頭の中にインプットされていないんだ?
「ターゲットの詳細情報についてはお答えできません」
「そうじゃなくて、ターゲットが何かだ。聞いていたはずだが、根本的なことを忘れてしまったんだ」
「ターゲットは
「判った」
「以下は
エレインのアヴァターが立ち上がって、真っ直ぐ俺の方を見つめながら言った。ちょっと待て、何か怖いぞ。機嫌が悪いときのエレインよりずっと怖い。
「アーティー・ナイトはステージ終了後のクリエイターからのコメントにおいて、たびたび情報収集不足を指摘されています。計画的かつ詳細な情報収集に努めて下さい。特に今回のステージでは3日目までに、ある特定の情報を得る必要があります。これが得られない場合、ステージのクリアは至難となりますのでご注意下さい。同行の
「……解った」
まさかこんな厳しい警告を受けるとは思わなかった。俺としても情報収集はしていたつもりだが、計画的でないのは解ってるし、その努力がちゃんと実ってないし、中途半端な情報から勝手な想像で進めているのは自覚しているところだ。今回はエレインのことで余計な気を遣ってしまっていた。ここは素直に反省するしかない。
「アーティー、何してるのよ、早く行ってきてよ」
アヴァターの声がまたエレインに戻った。どっちの声に従うべきなのか判りゃしない。とりあえず、
早速、パーサーズ・ロビーへ行く……その前に、そこまでの各フロアをもう一度確認する。まず、今いるカプリ・デッキ。他のフロアでも同じだと思うが、進行方向に沿って右側と左側の二つの通路がある。部屋番号は右側の通路沿いにあるのが奇数で、左側の通路沿いにあるのが偶数だ。
船首に近い方へ行くと通路がクランク状に曲がって内側に寄ってくる。船首は狭いのでこんな配置なのだろう。この辺りはシングル・ルームかもしれない。だったらその
内側には他に
一つ上のフロアへ行く。バハ・デッキ。廊下などの造りはカプリ・デッキとよく似ている。うっかり間違える人もいるに違いない。バハ・デッキと違うのは、後部まで
さらに上がってオーロラ・デッキ。これも造りは下の二つのフロアと似ているが、ちょうど中央部に縦の
パーサーズ・ロビーの前の
ルーム・サーヴィスがあるかどうかは判らない。まあ、ホテル並みの設備だからあるとは思うが、どうやって利用するのかを確認する必要がある。もっとも、こんなことは乗船の時に説明されているはずで、エレインが知らないというのがおかしい。
そういえばこの
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