ステージ#5:第1日
#5:第1日 (1) サン・プリンセス号の出航
第1日
目を開けた。どこかの建物の前にいた。外にいるのだが、大きな屋根の下にいる。広いガレージのようだが、そうではない。どこかで音楽が流れている。汽笛の音が聞こえた。何だ、もう
周りには人がたくさん歩き回っている。みんな旅行用の服装をしている。とはいえ、かなり古い時代のファッションに見える。さっき目の前を通り過ぎた若い男のサングラスなんて、100年くらい前に流行った型じゃないか?
話し声に耳を澄ましてみる。英語のようだ。してみると、合衆国か連合王国か。確かステージは
「ヘイ、
アヴァターがいない。おかしいな、さっき目を閉じるまではすぐ前にいたんだが。振り返っても姿が見えない。旅行鞄もスーツ・ケースもない。いつの間にか周りを歩く人が増え始めている。中年夫婦、家族連れ、若い
エレインはどこへ行ったんだ?
そのジャケットの内ポケットから、チケットの写しのようなものが出てきた。どうやらチェック・インは済んでいるようだ。しかし、バゲージ・タグの半券もないなんて、全部エレインが持ってることになってるんだろうか。待ち合わせていたのに置いてけぼりを喰らわせるところなんて、実にエレインらしい行動パターンだ。仮想人格とは思えないほどだな。
それはさておき、チェック・インが終わっているならもう乗船してもいいだろう。人の流れに従って通路を歩く。途中に係員がいて、チケットをチェックしている。チェック・インせずに乗り込もうとする客もいるからな。俺もそうだが、
肩章の金筋が4本の男を捜す。他の客と話し込んでいる。じゃあ、3本の男だ。いた。恰幅がよくて、口髭を生やしている。金髪の中年婦人とちょうど話し終えたところだ。
「失礼、
「私は
「アーティー・ナイトだ。連れを探してるんだが、見つからなくってね。ちゃんと乗ったはずなんだが、身長はこれくらいで、髪は黒くて、後ろでアップにしてて……」
「申し訳ありませんが、500名以上のお客様がいらっしゃいますので」
「そうだな、大きな
「
「ああ、
500人乗りくらいなら、俺の時代では
ようやく
「どうかしたのかね、
「こちらがお連れ様とはぐれられたそうで」
「
「ありがとう、
「ミス・エレイン・ガーロットのことでしょうか?」
「ああ、それだ」
もう少し聞いていてくれたら“ちょっと可愛らしい顔をした”くらいは言おうかと思っていたんだが。
「私はお客様のお顔とお名前は忘れないことにしていましてね。先ほどミス・ガーロットにはご挨拶いたしましたよ。たぶん
「やあ、そうだったか。乗ってさえすれば後は何とかなるよ。ありがとう」
「どういたしまして、ナイトさん」
「チャオ、
何か冗談でも言おうかと考えていたところで、後ろから別の男が声をかけてきた。金髪で額が広くて、口髭を生やしていて、どことなく威厳がある。映画俳優が社長を演じている感じだ。
「おお、ようこそ、フォルティーニさん! 我々のサン・プリンセス号にご乗船いただき光栄です」
「こちらこそ。これは娘のシンシアだ。よろしく頼む」
「ようこそ、ミス・シンシア。
「ありがとう、
若くて可愛らしい娘が
ともあれ、
で、その一番上がラウンジと展望スペースのあるオブザヴェーション・デッキ。エレインがいるかもと言われたのだが、いなかった。次が操舵室とバー、プールなどがあるリド・デッキ。続いてラウンジ、カジノ、美容院などがあるリヴィエラ・デッキ。そして乗船したときに最初に通ったプロムナード・デッキ。
そのパーサーズ・ロビーの前の
で、エレインは……部屋番号順と名前のアルファベット順のリストがあるので、アルファベット順のリストのGのところを探す。あった。ガーロット、エレイン、C29。待て、俺と同じ
待て待て待て。もしかして、“二人かそれ以上の組の制約”ってのは
2フロア下まで階段を駆け下り、廊下を走りながらC29を探す。ない。偶数ばかりだ。じゃあ、もう一つの廊下か。あった。C29のドアをノックする。
「誰?」
「アーティーだ。開けてくれ」
「待って」
1分ほども待った後でようやくドアが開かれた。なぜそんなに時間がかかるんだ。着替えていたわけでもないだろうに。
「どこへ行ってたのよ、ずっと探してたのに」
顔だけは可愛らしいが、エレインそのままのしゃべり方だ。まるで本人としゃべってるような気がしてくる。そのエレインの後に付いて部屋の中へ入る。
「それはこっちの台詞だ。それはともかく、俺にも鍵をよこせ」
「あら、そうだったわ、忘れてた」
エレインはそう言ってベッド・サイドに置かれた封筒から鍵を取り出して俺に渡した。やっぱり相部屋なんだな。しかし、エレインはそのことについて何とも思ってないのか。いくら仮想人格とはいえ、俺と一つの
「それから、
「何ですって?
おかしい。こいつは
「
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