#4:第2日 (2) 王宮の庭園
さて、順序通りなら王宮から始めるところだが、早く来すぎたのでまだ開いていない。開園は10時からで、まだ7時半を回ったばかりだ。王宮の海側の庭園は遊覧船から見られるのだが、それも最初の便は9時だ。ただ、これはある程度意図していたことで、先にこの町の可動範囲を調べる。
まず、海沿いの道を東へ歩く。この道はウーファープロメナーデという名前が付いていて、一応この町の観光名所になっている。ここから湖越しに眺めるアルプスの山並みが綺麗だということなのだが、丘陵の上や城の前からもっといい景色を眺めてしまったので、感嘆するほどでもない。同じような道が王宮の西側にもあるはずだが、これは後で通ることになるだろう。4分の1マイルほど行ったところでプロメナーデは終わり、普通の道に合流する。さらに4分の1マイルほど行くと小さな川があったが、その橋の上が“壁”だった。この前もそうだったが、川は境界になりやすいようだ。
川沿いの堤防に遊歩道があるので、それを北へ向かって歩く。周りは住宅地だ。川の向こう側に陸上競技のトラックが見えた。学校でもあるのだろうか。そういえばこのステージではまだトレーニングをしていない。やるにしても、ウーファーブルクにはボールを投げられそうな広場なんてあるわけがない。丘陵の坂道でランニングをするくらいしかないだろう。
何本か道と交わりながら、そのたびに橋を渡れないことを確認し、半マイルほど行ったところで線路の築堤に突き当たった。この線路は先程の港の駅にはつながっていなくて、もう少し西側にある町の中心駅につながっている。港の駅はその中心駅から出ている短い支線の終点だ。線路は町の真ん中辺りを通っているので、この線路が境界なら可動範囲はかなり狭いな、と思ったが、すぐ近くにある地下道を苦もなく通り抜けることができた。
さらに北へ歩く。川は緩やかに蛇行し、半マイルほど行ったところで、町を半円状に迂回する高速道路31号線の高架下をくぐるのだが、そこに“壁”があった。目印になるようなものが何もない遊歩道の途中で進めなくなって、少なからず驚かされる。せめてその30ヤードほど手前の、堤防から住宅地へ降りるスロープの辺りに壁を作ってほしいものだ。
そのスロープまで戻って住宅地へ降り、高速道路の下道に沿って西へ進む。時々交差する道があるが、北側はやはり“壁”に遮断されている。4分の1マイルほど行くと巨大なガラス張りの建物が見えてくる。ホーエンブルク・センターというショッピング・モールだ。合衆国のファースト・フード店の看板が見えたりして、こんな清廉な高原都市にまで不健康食品を売りに来ているのかと暗澹たる気持ちになる。
さらに西へ進み、ラウンドアバウトを通り抜け、南側にリデルパークという公園の森が見えてくると、下道だけが南へ緩やかに曲がっていく。森に沿って南西へ進み、東西に走る広い道にぶつかったが、そこから西へは行けなかった。ただ、さらに南西へと歩を進めると道は西へ緩やかに曲がり、大きな工場を右手に見ながら歩いて、シュロス
住宅地の中を通り抜け、広い道路へ出る。ここがバスの走ってきた道だ。この道に沿ってなら西側に行けるはずだが、まさかこの道路だけなのだろうか。試してみる。1ブロックほど西に歩いて、北側へ入る道があったが、そこに“壁”があった。道路のすぐ南側には線路の築堤があるので可動範囲かどうかを確かめようがない。
先程の道に戻り、線路の下をくぐって、また住宅地を抜けて、
事前に行こうと思っていた場所のうち、“飛行機博物館”はこの範囲外にある。もっと北の、空港の横にあるのだ。明日以降も他の4ヶ所について、こんな感じで可動範囲を確かめねばならないのだろうか。面倒だが、それしか方法が思い付かない。
さて、
教会はすでに開放されていて、観光客もそれなりに来ていた。さすが王宮付属だけあって、高い鐘楼が二つもある立派な建物だ。ウーファーブルクの古城よりもよっぽど城らしい。教会堂本体だけでなく、翼型に張り出した3階建てが付属していて、ウーファーブルクで見た一番大きなホテルよりもまだ大きい。司祭館だろうが、大きすぎる気がしないでもない。
教会堂の中へ入る。白い壁とドーム型の天井には細かい装飾が施され、壁際のボックス席のようなスペースにたくさんの宗教画が掛かっている。ただ、王女に関係しそうなものは一つもない。近くにいた観光客に、ここで結婚式が行われるのか訊いてみると、「
諦めて、次の場所へ移動する。少し東へ行くと、ウーファープロメナーデに入る辺りに
さて、10時を過ぎたので王宮を見に行こうか。ウーファープロメナーデを東へ歩いたが、ちょっと思い付いたことがあって、駅へ寄り道することにした。“ホーエンブルク・アム・シュヴァーベンゼー中央駅”はプロメナーデのちょうど真ん中辺りから、少し北に行ったところにある。駅舎は3階建てで、クリーム色の壁に赤茶けた屋根を載せ、貴族の屋敷のような建物だった。駅前のロータリーの真ん中には大きな花壇もあって、ますます屋敷らしく見える。入ってみようとしたが、予想どおり駅の入口の所に“壁”があった。まあ、これを確かめに来ただけのことだが。
ウーファープロメナーデに戻り、さらに東へ行くと、王宮の前庭の西端に至るが、高い柵があって、ここからは入れない。入口はここから4分の1マイルほど北の、北西の角にある。あと1ヶ所、北東にも出入口があるので、こちらから入ってあちらから出ることにしよう。この順番に特に意味はない。
10フローリン払って庭園へ入る。城と同じ値段だ。今月の頭から、特別に王宮のエントランス・ホールにも入れるようになっているとのこと。もちろん、今度の金曜日には閉めてしまう。季節がいいだけに、花が爛漫と咲き揃っている。かなり広い庭園で、東西半マイル、南北4分の1マイルはある。もちろんこれは宮殿の北側だけで、南側つまり海側にも庭園があるが、そちらの方は入れない。幅が同じように半マイル、これを底辺とする三角形で高さが同じく半マイルほど。広いとは言っても、合衆国の金持ちならこの程度の敷地の家を持っている人間は何人もいるだろうから、さして驚かない。もちろん、俺には一生縁がない広さだが。
庭の全部を細かく見て回っても意味がないので、リーフレットの地図を見ながら適当に歩いて、中央付近の噴水を目指す。リーフレットには王宮がいつできて、広さはどれくらいで、庭をデザインしたのは誰で、とかいうような情報が細々と書いてあるが、これもたぶん意味がないと思うので斜めに読み飛ばす。王女がどうかしたとかいうようなことは一切書いていない。
噴水にたどり着いたが、別段特徴があるものではないのに、観光客が何人も見入っている。見ながらぼんやりと時間を潰すことを楽しんでいるのだろう。噴水と焚き火は見ていてなかなか飽きないから。その噴水を囲む池を回り込んで、王宮の正面へ向かう。王宮は横に
入ってみると、さっき見た教会よりも天井が高くて、広くて、内装が豪華だというだけで、正面に大階段があるわけでもないし、特に目を見張るようなものではない。教会と違うのは椅子がないことと、宗教画の代わりに一対の彫像が置いてあることくらいだ。壁や天井の造りが凝っているのは判るが、中世や近代の建築に興味がある人間なら楽しめるだろう。もっとも、こんな感想を持つのは俺がひたすらターゲットに関係するものを探しているからであって、純粋に観光を楽しむつもりで来たならもっと落ち着いて見られると思う。
さて、もしターゲットが王宮にあるのなら、忍び込む方法を考えなければならない。しかし、どうせ24時間警備員が詰めていることだろうし、宮殿内の見取り図もないので、忍び込むのはたぶん不可能だろう。そんなことができるのは小説の中の
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