#1:第2日 (4) 議長の家
まず、ルーミス氏の家を観察する。町へ向かって歩く途中、タクシー運転手に教えてもらったところで立ち止まる。道路とは小道でつながっていて、生け垣に囲まれた1階建てだ。だが、道路から眺めているだけでは遠すぎて、どういう間取りになっているかも判らない。かといって、こんな昼間から覗きに行くわけにもいかない。昼食会が終わったことだし、ルーミス氏も家に戻っているだろう。夜中の、人目のないときに偵察に来るしかない。まあ、そういうのは今までにもやったことがある。
続いて町での調査。オードリー
行ってみると、
「まだ行ってないけど、何が見られるんだ?」
「兵舎、士官舎、倉庫、演習場、それから墓地くらいかな。石碑もいろんなところに建っとるよ。城塞があった頃は街道の要衝だったらしくてなあ」
それから長々と町の昔話が続き、こちらは町の引っ越しのことや議会のことを聞きたいので辛抱して聞いていたが、特に大きな戦争もないままに城塞は廃止され、隣町の都合で鉄道が町の南に通ることになって、それからなかなか町が発展しなかった、という愚痴でようやく終わった。
「しかし、議会が色々計画してるんだろう? 引っ越しとか」
「あんなものが、どれほどの役に立つか判らんでなあ」
とまた長話が始まったが、結局のところ、引っ越しについてはこの老人は反対派で、先代の議長の主張である穀物工場の誘致を進めるべきだったと一席ぶってくれた。ルーミス氏のことを良く思っていないようで、“
他に開いている店がなかったので酒屋へ。店主はブルドッグのような顔をした太った中年男だったが、バーボン・ウィスキーを買いたいと言って話しかけると意外に愛想よく応対してくれた。
「あんた、知ってるかね、カンザス州にもバーボン郡というところがあるんだよ。こいつはそこのじゃなくて、ケンタッキー州で作ってるやつだから安心してくれ」
見知らぬ客が買いに来たのがよほど嬉しいようだ。地名が出たついでに、町の規模などの話をして、それから強引に引っ越しの話に持っていった。この店主は賛成派で、町の活性化のためには思い切った施策が必要という考えのようだった。ルーミス氏の評価を聞くと“有能”で“愛妻家”。ただ、愛妻家という評価の理由を聞こうとしたら、別の客が入ってきて話はそれきりになってしまった。しかたなく店を出たが、バーボンは飲みたくて買ったわけじゃないので、どうしようかと思う。ホテルに持って帰るしかなさそうだが。
その後は本当に入る店がなくなって、留保していたヒストリック・トレイルを見ることにした。町の一番東の通りまで歩き、そこから南へ下りてメイン・ストリートに出る。本当はこの東側にもいくつか建物があるらしいのだが、それは無視する。
西へ歩き始めたが、この辺りには民家はない。
東の端から数えて4本目の道、ウィルマ
そして西の端、ゾーラ
6時になってからメアリー
「町が引っ越ししても客が来るのか?」
「今だって2、30分歩いて来る客ばっかりだぜ。変わりゃしねえよ」
どうやらこの店主は中立派のようだ。しかし、ルーミス氏の手腕は評価していると言った。昔の議会は老人が多くて、何を決めるにも時間がかかりすぎていたが、ルーミス議長やスタンパー副議長ら“若手”が中心になったおかげで政策の決定が早くなったからだそうだ。ただし、政策の中には目的がよく解らないものがあるので手放しでは賛成できないらしい。
と、ここまで話したところでようやく客が来たので、話の続きはまたお預けになってしまった。新しい客とも話そうとしたが、店主と野球の話を始めてしまい、ついていけなくなった。アスレチックスのノーム・シーバーンなんてプレイヤーを、俺が知ってるわけないだろうが。たぶん、この時代はフットボールよりも野球の方が人気があったのだろう。1960年といえばAFL《アメリカン・フットボール・リーグ》が発足した年だったと思うが、その時はカンザス辺りにフットボールのチームはなかったんじゃないかな。
その後、もう一人客が来たが、そいつも野球談義に加わってしまって、俺が話しかけるのは店主にビールを注文するときだけになってしまった。結局、あきらめて8時半に店を出た。夏時間にもかかわらず外はまだ薄明るいが、無駄に飲み過ぎたせいで、さすがにもう1軒行く気にはならなかった。
だんだんと暗くなっていく道を歩き、再びルーミス氏の家の前へ。街灯はおろか道端に目印さえないような一本道を歩いているので、どこに家があるのか非常に判りにくかった。頼りになるのは“半マイルくらい”という距離感だけで、夜中に来るなら
門扉の先にある小さな建物はたぶんガレージだろう。そこから少し曲がった小道の先に屋敷があった。家の中から灯りが漏れているから、どうにか屋敷の概形が見えていたが、灯りが消されたら何がどこにあるのかも判らなくなってしまうに違いない。犬はいなさそうだった。これは助かる点の一つだ。後はどうにかして間取りを調べたいが、どうすればいいのか不明。
9時半にホテルに帰ってきた。結果的には午後の調査はほとんど失敗だった。飲みたくもないビールを飲みながら、レストランとバーが合わさったような店で粘っていたのに、大した情報を得ることができなかった。酔って頭がぼんやりしているので、シャワーを浴びてからベッドに寝転がっていたら、だんだんと眠くなってきた。今日調べた内容の整理はできないかもしれない。
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