代わり映えのない

@chauchau

絡みつく


 閏年。

 小難しい説明は抜きにして、つまりは一日多いのだ。


「だから嫌い」


「その台詞を聞くとまた来たかと思うわけよ」


 テレビに映る美少女がスカートを翻して魔物を滅ぼしていく。見向きもしないで耳だけしっかり聞いている馬鹿へ投げた空き缶がクリーンヒット。


「織姫の気持ちにもなってみなさいよ」


「彦星先生を忘れないで」


 ポーズボタン。

 入力された必殺技を撃つために力を貯める彼女の動きが止まる。空き缶を捨てるためか、スカートの中身を確認するためか。


「男は気にしないじゃない」


「おっとびっくり差別発言だ」


「女性はか弱いのよ」


「それじゃあ女は強かだ」


 空き缶が中身の冷えたビール缶へと変わる。錬金術も驚愕の等価交換だ。

 立ち上がったついでに彼から渡されたビールで乾いた喉を潤していく。いや、飲んでいく。


「確かに潤すは嫌いそうだ」


「読まないでと言っているでしょう」


「分かり易い君が悪い」


 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。

 閏年も潤すも何も悪くはないじゃない。それでも仕方がないじゃない。だって仕方もないじゃない。


「帰ってこない彼が悪い」


「だから読まないでと言っているでしょう」


「おお、怖い」


「会える日が遠のくの」


「そうだね」


 増えた一日が休日になるでもない。社会人になってしまえば働くその日が増えるだけ。


「今年は土曜日だけどね」


「フライドポテトにしてちょうだい」


 どうせ揚げるというなら。


「チキンの方かなうそぉ、外れた」


 ついて行かない自分が悪いと言うのか。

 ついて行けない自分が悪いと言うのか。


「悪いと言いなさいよ」


「読むなと言う癖に」


 何をすれば彼は帰ってくるのだろう。何をすれば私の元へと舞い戻ってくれるのだろう。何をすれば私の傍に居てくれるのだろう。

 他の男と寝たと聞けば戻って怒ってくれるのだろうか。


「ネットで別れように一票」


「向こうもしているわ」


「証拠は?」


「男だもの」


「おっとびっくり差別発言だ」


 どちらにせよ。

 そんな行為が出来るはずもない。きちんと貴方だけが好きだから。


「男の家に入り浸っている時点でどうかねぇ」


「問題ないわ」


「根拠は?」


「貴方は私が好きだもの」


「やっぱり女は強かだ」


 マウントを取り合う女友達に付き合う体力があれば寝て過ごす。一夜の過ちを狙う男共と飲む体力があれば寝て過ごす。セクハラを行う上司の誘いに乗る体力があれば寝て過ごす。


「それでも人に会いたいんだもの」


 私のことが好きな貴方は私に手を出さない。これほど都合の良いことはないでしょう?


「兄貴もメンドクサイ女に手を出したもんだよ」


「兄弟そろって」


「まだ手は出していない」


 知っている。


 伸ばした足で身体に触れる。

 見向きもしないで耳だけしっかり聞いている馬鹿は動きもしない。廃人にも拘らず初歩的なミスを犯すだけ。


「彦星先生も堪ったもんじゃない」


「織姫だって女性だもの」


「か弱い設定はどこ行った」


 閏年。

 小難しい説明は抜きにして、つまりは一日多いのだ。


「だから嫌い」


「その台詞を聞くとまた来たのねと思うわ」

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