第66話 ついに来た!


『おーい、メシ食え、風呂はいれ』

「はっ! とーちゃん!」


 とーちゃんがログインしてきて、俺にチャットを飛ばしてくる。

 しまった、すっかり忘れてたぜ……。


 俺はすぐにログアウトしてメシを食い、お風呂に入って体を洗った。


 そして……。


「えい!」


――ペちーん!


 自分の体を、手の平で強く引っ叩く!


「いってー!」


 叩いた箇所が赤くなる。

 うん、これが正しき痛覚ってやつだ。

 風呂から上がっても、ややしばらくジンジンと傷んだ。



 * * *



 そしてログイン!


(そういえば……)


 こっちの世界には、お風呂ってないんだよなあ。

 今度暇ができたら作ってみようか。

 領民たちに『普通の心地よさ』を感じてもらいたい……。


 俺はさっそく外に出て高台に上がった。

 ジャスコール王国が世に解き放たれてから、ぼちぼち24時間が経過する。

 時刻もピークタイムに差し掛かってきているし、そろそろ大きな動きがあってもおかしくない……。


「サーシャ! ルナさん!」


 高台の上には2人がいた。

 メドゥーナは地下で爺さんの護衛についている。


「やあお帰り」

「お帰りなさいませ」

「おまたせです!」


 こっちの世界は夕暮れ時だ。

 明るいうちは双眼鏡で王国全体を見渡せるが、暗くなってしまうと分かりづらい。

 月明かりだけが頼りとなってしまう。


「来ますかね……」

「そうだな、ぼちぼちだろうな」

「どんな強敵が来ようとも、私達は負けませんわ!」


 サーシャが言う通り、領民達のボルテージは最高潮に達している。

 地下では相当に無茶なトレーニングもしているらしく、ときたま俺のHPまで微妙に削れる。


 俺はカントリーステータスを開いてジッと待つ。


 そしてついに……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ジャスコール王国


 総資産  : 1兆147億2938万4869

       (↑9999億9999万9999)

 NPC  : 3012

 プレイヤー:   4→20

 計    : 3016→3036


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「き……来た!」


 しかも16人も一度に!

 でも入国料は1人分……どういうことだ?


「そう来たか、最悪だな」

「どういうことです!?」

「上級プレイヤー達が、資産をひとまとめにして突っ込んできたんだ」

「あっ!」


 そういうことか……!

 1人のプレイヤーに資産を集中させておけば、他のプレイヤーは入国料を支払わなくて済む。

 そして入国した後に、集中させておいた資産を分配すれば良いのだ。


「随分と本気出してきたもんだな……どこの集団だ」

「くっ……! 誰が来ようと蹴散らすまでです!」


 オトハ迷宮の本領発揮だ!


 16名の侵入者は、装備を整えながらまっすぐ迷宮にやってきた!

 

 俺はサーシャを伝令に出し、ルナさんとともにヘビプレダブル盾装備で出迎える!


「オトハ・キミーノ公爵令嬢、そしてルナ・エバーフォール元公爵令嬢ですね」

「そ、そうです!」

「竜人殺しと呼んでおくれよ」


 そして俺は鉄の盾を、ルナさんは愛用の大剣『ドラゴンテイルズ』を構える。


「俺たちは、今、AROで最もイケてる武闘派イケメン集団ブルーレイザーズ!」


 リーダーと思しき男が、一歩前に出て言う。

 キラキラとした群青色の全身鎧を着て、金色の髪を逆立てた、なんだかとっても強そうな人だ。


「そして俺は、代表取締役のディーン・ストーム!」

「は、はい……」


 何だか妙にウザい人達だった。

 全員男だけど、キャラクター造形がバッチリ決まりすぎてて逆に気持ち悪い。

 指輪やらイヤリングやらの装飾も華美で、それらがチャラチャラと目に痛い。


「特に恨みはないが、この国、乗っ取らせてもらう! そして俺たちの野望の糧となってもらうぞ!」


 と言って、謎のイケメン集団は全員抜刀した。

 どれも宝石のようにキラキラとした、とっても強そうな武器だ。


「野望? それは人の国を乗っ取ってまで叶える価値のあるもんなのかい?」

「ふふふっ……世は乱世」

「落とした国の数だけ男が上がるというもの……」

「意味わからん、ちょっとググるから待ってろ」

「えっ?」


 相手は色々言ってきたが、ルナさんはそれだけ言って一蹴すると、自分であれこれと調べ始めた。


「ふむ……なるほど、そっちの業界の方々か」

「ぎょ、業界?」


 なんだか物々しい単語が出てきたぞ?


「みなさん、売れないホストクラブの人達だ。グランハレスの首都に、共同のヴァーチャル支店を構えていらっしゃる」

「えっ!」


 そのような華やか業界な人達が、何故俺の国に!?

 そんなにお金に困っているのか……。


「どうやら、ゲーム内でゲットした客をリアル店舗に引っ張ってくるという経営手法のようだ。こんな荒っぽいことをしてまで稼ぎに来るということは、ヴァーチャル支店の方も上手く行ってないんだろう……」


 よくわからんが、お金がないことには始まらないんだな?


「ふふふ、すぐにでも成り上がってみせるさ!」

「店にかけた金と、数々の武勇!」

「それがますます俺達のバリューを高める!」

「なるほど……」

「なるほど……」


 売れるためにはとにかく目立たなければならんということか!

 アルスを稼いでヴァーチャル支店を派手にすることで、リアルの売上も伸びるのだろう。

 今時のナイトビジネスって感じだ!


「没入型VRが発達したせいで、ナイト系の仕事はどこも経営難だ。数少ない上客はみんなレベルの高いクラブに取られちまうし、こうしてヴァーチャル空間も駆使して客集めをしなけりゃ、零細は食っていけないんだろう……」

「た、大変なんですね……」


 AIの知能が人間を超えてしまったせいで、接客サービスの質もヴァーチャルの方がに上なってしまったのだ。

 本物の人間じゃなきゃヤダっていうお客さん以外、来なくなったとみえる。


「どうせ今も、店にまったく客が来なくて、仕方なく出張ってきているんだろう?」

「ふふっ……確かにその通りだ」

「でも、それがなんだと言うのです?」

「俺たちにはデカい夢がある!」

「リアルでもヴァーチャルでも、成功を掴み取る!」

「アンビシャス!」

「目指せナンバーワン!」

「そしてオンリーワン!」


――俺たち、新進気鋭の武闘派ホスト集団、ブルーレイザーズ!


 そして16人のキラキラした戦士達は、各々の武器をかかげて雄叫びを上げた。


――ウオオオオオー!


「…………」

「…………」


 俺もルナさんも、何と言って良いかわからなかった。

 世の中には本当に色んな人達がいるもんだ。


「あの、ルナさん。俺は男だから良くわからないんですけど、ホストクラブってそんなに良いものなんです?」

「そうだなー、確かに夢を見させてくれる場所ではある。だが、彼らの店に行きたいかと言われれば……正直微妙だ」


――な、なにい!

――くっ……まだまだ精進が足りない!


 ああ! ルナさんに微妙って言われて、ブルーレイザーズの方々が凹んでいる!

 なんだか気の毒になってきた。

 ちょっと前の吉田を見ているような……。


「その……あれだけいたら、1人くらい好みの人もいるのでは?」


 俺はついフォローを入れてしまう。


「そうだな……強いて言うなら右から4番目、あんたは結構私の好みだぜ」


 と言って、ルナさんが指差したのは、彼らの中でも特にほっそりとしたお兄さんだった。意外だな……もっと逞しい人が好みなんだと思っていた。


「ご指名ありがとうございます!」

「うん、あんたのそのみすぼらしい筋肉を見ていると、無性に鍛えてやりたくなる」

「!?」


 そういう意味か!

 ああ! 入念にメイキングされた顔が驚愕に歪む!


「まずはスクワットマシンなんてどうだい? あたしのメニューなら一瞬で地獄に行けるぜ? そのベビーフェイスが汗と涙でぐしょぐしょになるまで追い込んでやる。悲鳴を上げても許さねえよ……ぬふふ」

「ひいいっ!?」


 お兄さんはすくみあがった!


「あたしを客に取りたいのなら、せめて店にスクワット台くらい置くんだね」

「…………」


 それでは、ホストクラブではなくフィットネスクラブでは?

 俺は胸の内で密かにツッコミを入れるが……。


「うむ……貴方ほどの人に来てもらえるというのなら」

「おっ! いいねー! 是非ともやってくれよ、フィットネスホスト!」

「えーっ!?」


 ただのチャラいお兄さん達かと思いきや、お客さんのためなら何でもやる、接客業の鏡だった!?


「この国を落としたら、その金でまずはヴァーチャル店舗にトレーニング器具を置こう。それでお客様の反応が良いようなら、リアル店舗でも導入しようじゃないか!」

「おう! その意気だ! 頑張ってくれ!」


 ぷ、プロだ!

 ルナさんもディーンさんも、色々とプロだった!


「だがそもそも、この国はそんな簡単には落ちないけどね」

「そんなことはやってみなければわからん!」

「流石の竜人殺しも、俺たち全員を相手にはできまい!」

「そうだな! だが、あたしなんかよりもよっぽど強いお嬢様が、この国はいるんだぜ?」

「えっ!?」


 そして、その場にいた全員が俺の方を見た!


「お、俺!?」

「さあ! 今こそあんたの実力を見せてやる時だ!」


――バンッ!


「えええー!?」


 俺は背中を叩かれ、ブルーレイザーズの前に押し出された!


 ルナさんが、用心棒の仕事をしてくれないだと……!?



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